友達と呼んだ夏[2]
私にとって、これ以上ない嬉しいお言葉だ。
だけど、谷山さんを除く他の人は皆、何故か怪訝そう。
何故か…? いいえ、当然だろうと思う。何で私なんかに?
入社後、研修期間を経てこの部署に配属された私。
カットソーやブラウスなどの、トップス部。それは、まさに希望通りだった。
初めて作った衣服といえばTシャツだった。
誰も着ることのないTシャツ。
結局のところ、服飾専門学校への入学試験には役に立たなかったこのTシャツだけど、ここの入社試験にはとても活きた。
プロの目から見れば、寸法も合ってないし、歪んでるし、縫製も雑。
それでも、“衣服への興味”や“作る事への意欲”、そして何より、「着る人を華やかに飾ってあげたい」という夢が、この1着を作り上げた事。
会社では、そこを評価してくれたらしい。
言い換えれば、丁寧であったり器用であったりというのは二の次だったんだ。だから私なんかでも…。
まあ、そんなもんだ。
一方の谷山さんはというと、他の人達とは真逆で何だか嬉しそう。
谷山さんは、私がここに来てからは主に縫製を担当している。
昨今では、ステッチを見せる事を売りにした製品も人気があり、単に縫うだけじゃなく“魅せる”テクニックも必要になってくる。
それには、どの部分にどんな縫い方をしていくか、或いはその部分の寸法をどう取っていくかなど、センスも要求される。
谷山さんにとっては、得意分野なのかもしれない。
「彼女はね、物の見方や扱いがとても繊細なの。型紙担当の時だって、最初から寸分狂わずに上げてきたわ」
村崎さんは、谷山さんの事をそう言っていたと思う。
まだ私の型紙の精度が低すぎて叱られてばかりだった頃、その言葉はまるで数十本もの矢を放たれたかのように、この新人社員の胸に刺さりまくっていた。
そんな時、私はいつも「だって私、元体育会系だもん」なんて心で呟いては、気持ちを誤魔化していた。
あれだけ拒否していた陸上部だけど、その経歴を、自分自身への言い訳に利用していたんだ。
狡い。でもそんな狡さなんて将来何の役にも立たない事も、痛い程思い知らされてきた。
恐る恐る谷山さんの表情を伺ってみる。
縫製に打ち込める喜び? それとも…?
笑っている。その視線は私に向けられている。とりあえず、私も笑顔をお返ししてみると、谷山さんは私にグーサインを送ってくれた。
何となく肩の力が抜けた気がして、私もガッツポーズで返してみた。
その様子を見ていたみんなが、私にグーサインをくれた。
イベント出展。
それは、憧れであり夢でもあった。どんな形でもいい。その製品に関わる事が、目標でもあった。
本当なら、この私のポジションは谷山さんだったのだと思う。
宮地さんは、何故私なんかを指名したのだろう。疑問は尽きないけど、兎に角私は選ばれた。
この一流達が集うイベントへの参加メンバーとして。
「じゃあ、メンバー決まったわ。名前、読み上げるわね」
村崎さんがホクホク顔でそう言うと、急遽ミーティングを開く事に。
デザイナー:宮地佳代
型紙 :田上麻衣
生地カット:磐田弘枝
縫製 :谷山有希
トップス部は6人構成。だから敢えて読み上げるまでもないけど、それもひとつの儀式的なもののようだ。
そして夏川さんがスタートアップ宣言をし、一大プロジェクトが始動した。
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次回「友達と呼んだ夏[3]」
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