友達と呼んだ夏[1]
第四話スタートです。
麻衣の周りでいくつもの変化が。
この夏は激動の予感。
「田上さん」
梅雨明けも間近という7月中旬。街は俄かに祭りムードに。
京都の夏と言えば、そう、祇園祭。
私達の職場の周りにも、多くの観光客が集まる。仕事や学業に追われる日常から解き放たれ、街ゆく人は一様に笑顔を見せて楽しそうにはしゃいでいる。
「田上さんって」
「は、はいっ!」
窓の外を眺めてボーッとする私は、今、一体何を考えていたんだろう。
磐田さんの声に驚き、振り返る…あれ? 磐田さんじゃなかった?
私が作った型紙を当てて布を切り出すのは、磐田さん。だからてっきり仕事の話で声をかけられたのかと思った。
「何? ボケーっとしてぇ」
谷山さん。
めっちゃ笑ってる。
時計を見れば、今は休憩時間だ。そりゃあ怒られたりしない訳だわ。
「な、何か?」
「うん。あのね…」
何かとても嬉しそうな笑顔に、胸を撫で下ろす。
「個人的なんだけど…」
あら? 何とも香ばしい話。
個人的、つまり山岳会とは別で、夏山に行ってみないか?と。
「ええ? 2人でですか?」
「あら? 何か物足りないかしら? うふふ…」
物足りない訳じゃなくて、2人というのに驚いた。
え? 違う?
「うふふふふふ…歩果ちゃんも一緒よ。3人で」
その瞬間に、私の瞼の裏側で星が輝き、花火が上がった。
何故朝比奈さんが一緒なんだろう?
そんな疑問は、様々な思考を経て胸をときめかせる。
言い出しっぺは、谷山さん? それとも朝比奈さんかしら。
じゃあ、私に声をかけようって言ったのは谷山さん?
そうね、朝比奈さんが言い出しっぺなのなら、私に声をかけたのは谷山さんだわ。
まてよ? 谷山さんと私は同じ職場で働いているんだから、朝比奈さんにしたら谷山さん経由で私に声をかけやすいんじゃ?
「ほらぁ、行くの? 行かないの?」
「行きますっ!」
もちろん参加だ。行かない選択肢はない。スケジュール確認なんてしなくても、私に用事なんてある訳もない。
ああ、もうワクワクが止まらない。憧れの先輩である谷山さんの誘い。そして、今すぐにでも会って友達になりたい朝比奈さんが同行。
考えるだけで笑が浮かんでくる。
あ、磐田さんが不思議そうに見てるわ!
「田上さん、休憩終わりよ」
「は、はいっ!」
ボーッとしている場合じゃない。早く型紙を磐田さんに渡さなきゃ。
「田上さんもだんだん出来るようになってきたわね」
「そうですかあ? 相変わらず天然だけど…うふふっ」
「天然は天然で置いといて、仕事、早くなってるし。やり直しも減ったと思わない?」
むむ…? お2人で何を話してるんだろう。どう見ても目線が私だわ。
―バタン!
ドアが勢いよく開くと、みんなの目線がそこに集中する。
「宮地さん…」
「はい、これ…」
こ、怖っ!
いつもの事だけど、夏川さんと宮地さんのやり取りには、緊張感を抱かずにいられない。
喧嘩なんてした事はないけど、いつ争いが勃発してもおかしくない、最悪の相性だと思う。
「田上っ!」
「あ、は、はいっ!」
「アンタ、こんなトップス好きなんじゃない?」
「へ?」
見えないロープか何かで引っ張られたような感覚で、私は宮地さんのデスクの横に立ち、パソコンの画面を見た。
「うわぁ、可愛い…」
「作る気ある?」
「もちろんです!」
「パーツ、多いよ」
「大丈夫です。頑張ります」
宮地さんは少し笑った。いいえ、そんな気がした。
スカートにも、パンツにも、時にはシックに、時にはフェミニンに。
かなり凝っていながらどんなファッションにも合いそうなそれは、既存の製品には見当たらない斬新な、それでいてどこか街に馴染むような素敵なデザイン。
「これ、キンコレ(近畿ガールズコレクション)に出展する作品の案。叩き台ね。田上、キンコレにはアンタの型紙から作って出したいの。頑張って」
宮地さん…!!
アクセスありがとうございます。
次回「友達と呼んだ夏[2]」
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