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恋をしてみたかったあの頃[15]

 ちょっと笑った。

 みんなも笑った。

 笑い合えた瞬間に、私は東御陵高校の生徒である事を再認識し、実感した。


 もうあんなスピードで走る事もない。

 それは学校だけじゃなく、私生活でも、さらには就職したって、生涯あんなスピードで走る事はない。走れる自分なんて、この世から居なくなった。

 まだ筋力はそれなりに残っているけど、100mを12秒台などという馬鹿げたタイムを叩き出すなんて、あり得ないんだ。


 とはいえ筋力だけで言えば、それでも15秒で走り切るぐらいの力はありそうだ。

 ただ、足首の動きが著しく低下していて、地面を蹴るなんて出来ない。

 もう競技出来る足ではないんだ。


 そんな一抹の淋しさはあるけれど、もう誰にも邪魔されずに服飾の道へ進む事が出来るのは、やはり念願叶った喜びであると言おう。


 ただ、普通の女生徒のように、男子生徒に恋をする。その念願だけは、相手あってのものなのだから、叶えるのは難しい。


 唯一の恋人候補であるそら君に対しても、正直言えば熱いものを感じないで居る。

 そもそもが、男子との付き合い方が分からないので、恋愛など出来る訳もないんだろう。

 私って、所詮女としてはその程度のレベルなんだ。


 それが分かっているから、“女子”である美咲に憧れた。

 お淑やかで、かつ愛嬌もあって、色気もあった。そんな美咲に憧れていた。

 でも、それだって今はもう過去のもの。変わりゆく姿を気にも止めず、甘いお菓子ばかり口にする彼女には、もう女子としての魅力を感じなくなってしまった。


 何でだろう?

 そら君とは、何度もチャンスはあったし、クラスメイト達も推してくれた。

 複雑だった。

 ときめいているはずなのに、向かい合うとときめいていない。


 そんな時はいつも、美咲の事が気になっていた。きっと私、そら君の前で“女子”になれているのかどうか、不安で仕方なかったからだと思う。


 本当にそら君が好きだったの? それはきっと違う。

 高校生なんて、みんな誰かと付き合っては別れ、また他の誰かと付き合っては別れを繰り返している。

 私もそこに参加したかっただけ。恋をして、女子になりたかっただけだと思う。


 なのに、1年と3ヶ月もの間、私はひたすら100mをいかに速く駆け抜けるかだけを考えていた。

 陸上競技に賭けるなら、それで良かったのかもしれない。美緒里だって、恋してる訳ではなく部活をとても楽しんでいて、それもやっぱり青春なんだろう。


「人それぞれの、価値観の違いね」


 結局は、そのひと言で落ち着いてしまった。

 そして私は、自分の価値観とは異なる世界でただもがいてきた。

 記録が出れば、やっぱり嬉しい。

 伸び代があるなら、伸ばしていくために一生懸命練習し、それもやっぱり楽しかった。


 だけど、それだけで終わってしまっては後悔する。私の価値観はそうだった。


 そんな私の心の奥を知らずに、生まれ持ってきた才能とその結果だけを見て、みんなは私を“陸上部の星”などと呼んだ。

 そして、それなりに人気も得ていた。


 決して日々の学校生活が苦しかったり辛かったりという訳じゃなかった。

 一番辛かったのは、怪我をして登校するのが怖くなった時。

 だけど、クラスメイト達の、そして先生方の優しさに救われた。だから残りの1年半だって、本当に楽しかった。


 進路も早く決まり、私は服飾専門学校へ行く事になった。

 2年間しっかり学び、この誰も着ることのなかったTシャツより素敵な服で、人を素敵に輝かせる夢が、いよいよ現実味を帯びてきた。


 そんな中で私は、新しい憧れに出会った。

夢に向かって進むため、ある物を手放す。

似たような経験って、誰にもきっとありますよね?

手放した事で淋しさを感じるのも、自然の流れかな。

復帰出来てよかったね!


アクセスありがとうございます。

「恋をしてみたかったあの頃」これにて終了です。

次回「友達と呼んだ夏[1]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

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