恋をしてみたかったあの頃[13]
麻衣の学校復帰は?
親子の葛藤シーンになります。
それは父からのこき下ろしに対する反発心から出た言葉だ。
もちろんそれは本意でもあるし、戸田先生にも同じ言葉を言ったと思う。
でも、ニュアンスは違う。
戸田先生に対しては、もっと前向きに言えたはず。決して反発した訳ではない。
いいえ、そんなのどうでもいい。
「学校へ行く」と言った私の目の前には、明日の朝に立ちはだかる厚い壁を破るという課題が生じている。
それをどう克服するか。
そもそもこの課題は、父の言葉とは無関係に私に課せられているもので、それによってもがいている事を、何故か父は理解していない。
「お父さん。明日、会社行くの遅らせて」
この私の頼みに、父は怪訝そうに顔を顰めた。
「何言ってんだ? そんな事…」
出来る訳ないんでしょ? 分かってるわ。でも、父がそう言い終わらない間に母は言葉を挟んだ。
「あなた、麻衣の言う通りにしたら、麻衣が何で学校休んでるのか分かると思うわ。怠けてるとか、そんなのじゃないって事…」
意外だった。
母はちゃんと見てくれていたんだ。
私は思わず涙を溢した。父も母も気付かないうちに。
結局父は、お兄ちゃんも私もスポーツに励む事を期待していて、しかもちゃんと結果を出さなければ認めない精神の人なんだ。
父の私に対する態度が変わったのも、私が陸上を辞めると言い出した時から。
だってそれは、仕方のない事。
私は父の想いを受け止めたくて、好きでもない陸上競技に必死になった。
結果は上々だったし、顧問の戸田先生もとても熱心に指導してくれたし、それ故に、私の足に合わせた高価な靴を作るまでに至っている。
全力で投資してくれていた。
だから…、辞めるっていうのは、ある意味裏切りのようなもの。それもひしひしと感じている。
「分かった。麻衣、明日は絶対に学校へ行くぞ。お父さんが連れて行ってやる。いいな」
無理矢理…のような印象の口調だったけど、私の意思通りに父も動いてくれる事になった。
迷惑な話だ。
だけど、自分でそう言ったんだ。
翌朝。いよいよ学校へ…、登校を決めた日。
寝起きはさほど悪くはなかった。登校への意欲もまずまず。
まずは朝ごはんをしっかり食べて、活力を身に付ける。食欲も、必要にして充分な量を摂取出来るぐらいはある。
だけど…。
「麻衣、時間だろ? 麻衣。麻衣?」
今日の時間割は聞いていた。鞄に教科書、ノートを入れる。
そして、例の物も。
これで準備はOKだ。なのに時間が経つにつれ、様々な思考が頭を支配し始める。
「陸上部やめたの!?」
「何で?」
「足、大丈夫なの?」
「休んでる間、どうしてたの?」
―ああ、ああ、あああああ…。
頭痛がする。胃の辺りがムズムズする。鼓動が激しくなる。
「麻衣、大丈夫か?」
「大丈夫…、お父さん、……連れ…て行って…」
父はその時、私が学校へ行けない理由が決して怠けではない事に気付いた。
「行くって言ったから…、約束…したから…」
「駄目よ! 麻衣…、無理しないで」
無理は承知の上だ。どんなに苦しくても、どこかのタイミングで思い切らなければ、このまま不登校状態を引きずってしまう。
父と母は、顔を見合わせた。
「お願い! 連れて行って!!」
少しの間を置いて、父は頷いた。
「分かった。でも麻衣、逃げてもいい。耐えられなくなったら、すぐに逃げなさい」
私は体の震えをそのままに、立ち上がった。
張り裂けそうなほどの激しい鼓動に耐えながら、青ざめた顔で父の車に乗り込んだ。
親の期待を背負い、本音を隠しながらここまで来た。
本音を話せる家庭環境って大切ですね。
そして、ようやく麻衣は学校へ。
アクセスありがとうございます。
次回「恋をしてみたかったあの頃[14]」
更新は、X または Instagram にて告知致します。




