表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/94

恋をしてみたかったあの頃[12]

 学校に行きたい。

 学校に行きたくない。

 何度も何度も交差する2つの気持ちをコントロール出来ず、私は今、落ち着きを失っている。


 長時間の歩行には、些か不安を感じる。だけど、体育の授業を見学としてもらえれば、自宅との往復と教室の移動程度なら、これと言って不便は感じない。それ程に左足は回復してきている。



 学校に行きたくない理由は何なの?


 母からの問いかけ。

 私は知らず知らずのうちに、母に「行きたくない」などと言っていたようだ。


 この問いかけに、すぐに答える事は出来なかった。

 だって私、学校に行きたいのだから…え?


 本当にどういう事なんだろう? 誤魔化すように苦笑いして、私はまたミシンに向かった。

 あと少しで形が出来上がる。ここで失敗する訳にはいかない。こんな迷いに翻弄されている場合じゃないのだ。


「お母さん、今は話しかけないで」

「わ、分かったわ」


 自ら戸田先生に言った事。

 父母からの期待。

 それらを重い荷物のように背負い、今、私は全力で不登校の渦に呑み込まれ、もがいている。


「出来たっ!」


 出来た。少々荒いというか雑な感じは否めないけど、紛れもなくTシャツだ。ちゃんと形になっている。


「あらぁ、思ってたより上手に出来てるわ。麻衣って意外な才能あるのね」


 幸い手先はまずまず器用な方で、集中力も充分だと思う。あとは、いかに経験を積むかだろう。


 パソコンに保存しておいた画像を印刷して、アイロンプリントを作る。これを、胸の部分に貼り付ける。


「お母さん、アイロン」

「そこ」


 何となくイライラする様が、言葉使いに表れる。(にえ)切らない私に対し、母もぶっきらぼうな言葉で応える。


 お互い腹を立てている訳でもなく、喧嘩している訳でもない。

 なのにどこか落ち着かない。お互い顔を見て喋れない。



 アイロンプリントの位置を決める。これこそ失敗すれば、ここまでの苦労も水の泡となる。


「仮留めして、真ん中から放射状にアイロンを…」


 何度もシワを作りそうになっては、手を止めて布を張り直す。

 母が遠目で心配そうに見ている。

 もし失敗したら、きっと私は手が付けられないぐらいに取り乱し、暴れるだろう。

 私の性格を私よりよく知る母は、それを心配しているのだと思う。


「よしっ!」

「出来たの?」

「うん!」

「やったじゃない。ねぇ、見せて」


 それは、決して上手とは言えないかもしれない。でも、私がデザインし、型紙から縫製まで全て通して仕上げた、初めての“作品”。


「まぁ! 可愛いじゃない」

「ホントに?」

「うんうん!」


 ひとつ難関を乗り越えた。いや、ふたつだ。

 足の回復状態も良く、日常生活には不便を感じないまでになっている。



 あの子を可愛く飾りたい。

 そんな意味不明な願望から始めたTシャツを作るという行為は、その過程の中で、いつしか全てを忘れて没頭出来る程の楽しみに変化していた。


 果たして彼女は、これを着てくれるだろうか。


 ちょっと待って。

 その前に、私は学校に行けるの?

 全ては自分次第なのに、一番大事な課題となってしまっている。


 歩けないから学校を休んだ。

 今はそれなりに歩ける。なのに…、学校に行きたいのに、朝になれば心が沈んでゆく。



 仕事を終えた父が帰って来た。


「会いたくない」


 私はそう母に言うと、部屋に篭った。


「麻衣は?」

「部屋に居るわ。でも、そっとしておいてあげて」


 走る事をやめたいと言った瞬間から、父は私に辛く当たる。

 そして、怪我をしてからというもの、それはさらに加速している。

 自分のせいじゃない。言うならば、お兄ちゃんのせいでもない。なのに父は、誰かのせいに…、いいえ、目の前にいる私が悪いとでも言いたげに、不機嫌さを顕にしている。

 母と話す父の声が、壁を突き破って部屋に届いてくる。私は思わず耳を塞いだ。


「麻衣に怪我させた悠聖も悪いし、それにカッコ付けて学校サボってる麻衣も…何のつもりだ!」


 母は一生懸命に私達を擁護する。お兄ちゃんが私に怪我させたのではないし、私もサボってる訳ではない。私は学校に行きたいのに、心が拒否反応を示しているんだと。


 父は何も理解していない。

 胸の奥がモヤモヤと燻る。


「あなた、麻衣は…」

「怠けてんだろ!!」


 怠けてなんかいない。学校へは行きたいし、勉強だってしてるのよ。

 我慢出来なくなった私は、部屋のドアを開けた。


「明日、学校行く!」

周囲からの風当たりの強さ。

期待されてた故の息苦しさ。

行きたいけど行きたくない、相反する気持ちが同時進行。

辛いですよね。


アクセスありがとうございます。

次回「恋をしてみたかったあの頃[13]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ