恋をしてみたかったあの頃[7]
そんなこんなで酷く拗れてしまった恋バナは、夏休みに入って落ち着きを見せ、ようやく私は安堵した。
陸上部は合宿で、美緒里もどこか遠い地に行っているはず。
バスケ部でモテ男のそら君も、部活に精を出しているという。
「あ〜あ、私ってやっぱり恋の駆け引きとか無理なんだ」
実は、そら君には少し興味があった。もし付き合えるなら、それもいいかもしれないとまで思っていた。
ただ、美緒里のような熱い想いはなかったし。
―ん?
美緒里は、そら君が好きだったんだ。だからあんなに必死になっていたんだ。
私の「興味ない」発言は、そら君が好きな女子にとって、凄く微妙だったんだと思う。
私がそら君を狙っていない。そこは安心しただろう。
だけど、え? だけど???
そら君…何で落ち込んでたの? まさか私を?
だから女子達は、私を疎ましく思っていたの?
「付き合えばよかったのかなぁ」
1人呟いた。
付き合えば、誰も何も言わなかったのかもしれない。
だけど私、彼と付き合うとか、そんな事は考えもしなかった。
恋ってもっと燃え上がるものだと思ってたし、興味があるだけで、好きとかいう感情がないのなら、それは違うと思っていた。
「興味ない」と言ったのは、一旦突き放して自問自答するための言動のつもりだった。きっと、そうだったのだと思う。自分の事なのに確信はないけど、おそらくそうだったはず。
「みんな素直すぎじゃん。どいつもこいつも」
そう呟きながら、買ってきた布を型紙に合わせて切り始める。
服飾専門学校への進学を決めた私は、本屋で見つけた解説書を見ながら、手探りであってもとりあえず1着作ってみようとしていたのだ。
「身長165cmぐらい。たぶん標準的な体つきをしてるはず。それなら着丈は…」
各パーツを切り出し、合わせてみる。若干歪さは否めないけど、まあ形にはなりそうだ。
よし、縫い上げてみよう。どこかにお母さんが使ってたあれがあるはず。
「お母さーん、ミシンって借りていい?」
今は母も全く使っていないミシン。折角だから借りない手はない。
使い方なら、解説書に書いてある。だから私にだって、きっと使えるはずなんだ。
「どうしたの? ジャージ破れたの?」
んー、まだ陸上やってると思ってるの?
「違うよ。もう陸上部辞めたし。今ね、Tシャツ作ってんの」
「ええーっ!?」
そんな度肝抜かれたような驚き方しなくても…。
「へえーっ! 何でまた? あらぁ、可愛い色ね。こんな色、どこで買ったの? 麻衣ってこんなの着るの? こういう色が好きなの? サイズ、ちょっと大きくない?」
そんな幾つもまとめて質問しないでよ。
「そうじゃない。私が着るんじゃないよ」
そうは言ってみたものの、どう見てもウィメンズの形だ。ウィメンズを作っているのだから、それも当然の話だけど。
「え? もしかして俺の?」
背後から男子の声がして驚いた。
「え!? ちょっと、何でお兄ちゃんが居るの!?」
「何だよそれ。夏休みぐらい帰って来たっていいじゃんよ」
「あ、あぁ…」
そうか。大学も夏休みか。
「で、何でこれがお兄ちゃんのなの? こんな可愛いの、絶対着ないよね? 第一お兄ちゃんには小さすぎるわ」
「てかよ、お前何で服なんか作ってんだよ? 今日は部活ねえのかよ?」
やっぱりだ。
私はお兄ちゃんが苦手だ。
何しろ、お兄ちゃんにいじめられて、追いかけ回した結果のこの足。そのせいで望まない陸上部などという部活を始めさせられたのだから。
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