恋をしてみたかったあの頃[4]
学校では…?
先生はどうだ?
陸上部顧問はどう応える?
キャプテンは?
他の部員は?
能力がある事=好きとは、どこでどう間違って生まれた定義なんだ?
みんな一様に、驚きを隠さない。そして、みんな同じ事を言う。まるで定型分の如く。
「なぁ田上。勝てる足なんだよ。もっとじっくり考えてみてからでもいいんじゃないか?」
「私、競う争うは嫌いなんです。他にやりたい事があるんです」
父に対する説得も済まないままに、私は陸上部員としての戦意喪失を訴えている。
欲しいのは戦意ではなく、繊維を使った芸術センスだ。せんい違いだ。
しかし、そんな私に返してくる言葉は、響きは違えど意味は同じ。私の話など、聞いているのかいないのか。
「トレーニングを積めば、全国狙えるんじゃないか! 折角才能あるんだから、俺達と一緒に目指そうよ!」
顧問の先生である戸田康平教諭は、青春ドラマの見過ぎかっ!とツッコミたくなるような人だ。
昭和の頃には、“スポ根”なんていうジャンルがあったそうだけど、なんか熱苦しくて、見てると疲れそう。
ところで、私に頑張れって言うけど、一体誰のために頑張れと?
一緒にって言われたって、申し訳ないけど私はそれを望んでいない。
みんながどれだけ説得しようとも、私には私の人生があり、夢があるって、今言ったはず。
申し訳ないけど私、あなた達のために生きてるんじゃないわ。
だからこう言うの。
「本当に期待を裏切るようで申し訳ないですけど、私は別のジャンルで生きていきたいんです」
だけど、何と言おうともこの俊足という名の能力が、私の意思を邪魔しようとする。
正直言って、怪我でもして走れなくならなきゃ、引退なんてさせてもらえないんじゃないかと思った事も、しばしば。
怪我なんて、意図的に出来るもの? 試しにグーを握って膝を叩いてみる
「痛っ!!」
当然だけど、めちゃくちゃ痛い。なのに致命傷を与える事なんて出来ない。
自傷行動は、防御本能によって抑制されてしまう。つまり、躊躇いが拳の勢いを和らげてしまうのだ。
辞めるなら、やっぱり説得するしかない。自分の人生なのに、何て面倒なんだろう。
こんな大きな期待を背負って、しかも「もっとトレーニングを」だって? 言ったじゃん。争いたくないのよ。
参加する事に意義があるなんて、スポーツの世界では時々耳にするけど、そんなのは違うと思う。
大会に出場出来れば満足? そんな訳ないじゃん。勝ってこそ意義があるものでしょう?
スポーツなんて、そんなもの。
世界で戦うひと握りの選手たちが、果たして本当に幸せなんだろうか。
勝つために体を鍛え、技術を磨く。
それは、生半可なものではない。自分を追い込み、いじめ、ようやく習得した技術が、自身の目指す場所で通用するとは限らず、才能と能力を持った人達のうちの何人が泣いた事だろう。
その結果待っているのは、スポーツに明け暮れた青春時代に、一般的な職業に対する知識や能力、技術など、何も身に付いておらず、結果路頭に迷う日々。
みんながみんなそうとは限らないけど、よくそんな話を聞いたりもする。
きっと、好きでもない兄から聞かされたのだと思う。
これが戸田先生に話した内容。
当然だけど、先生はとても悲しげな顔をした。
「そんな事考えてないでしっかり打ち込めば、結果はついてくるさ」
あぁ、決まり文句だ。
間違ってはいない。結果は確かについてくる。
どんな結果であろうと、何かをやったその先には“結果”というものは必ず存在する。
それが望み通りならしめたものだけど、その殆どが望まぬ悔しいものになってしまう。
私はそれを、兄を見たから知っている。
ああなりたくない…から。
麻衣はスポーツを否定するような発言をしました。
この先読み進めていただくと、今回の麻衣の言葉がストーリーの中で活きてきます。
どのように? それはお楽しみに!
アクセスありがとうございます。
次回「恋をしてみたかったあの頃[5]」
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