恋をしてみたかったあの頃[2]
そんな忙しい私。
周りの女子達は、アイドルの推し活だったり、やれ彼氏がどうのこうのとか、男子に夢中なご様子。
一方、私の周りの男子達といえば…、
「次の大会ではそれなりに結果を残すように!」
「はいっ!!」
何それ?
今まで何の結果も残せていない“ダメダメ部”じゃん。
それはさておき、まぁ色気のない連中ですこと。
そしてそれは、女子も同じで…。
うん、どうなんだろう?
思春期なのだから、みんなそれなりに異性を意識しているとは思うんだけど。
私はどう?
久松美咲…。
恋とは無関係に、同性の容姿を意識している。ところが、意識しているわりには“自分がなりたい”タイプではない。
この人を意識したところで、数名の男子と穏やかに会話しているだけ。私は同性から好かれるような女になりたいの。
そういう意味では、スポーツに打ち込んでいるのは正解なのかもしれない。
極めれば“カッコいい女”と言われるだろう。
「カッコいい女…ねぇ」
長距離を走る選手達は、体を絞って一見華奢なように見えるし、その方が女子らしいかもしれない。だって、短距離は瞬発力。そのための体づくりといえば…、
ムキムキじゃん!
結局のところ、真剣に打ち込めないのは、この体づくりをするのが嫌だったのかもしれない。
柔らかな丸みのある、スレンダーでしなやかな体。私が自分自身に求めているのは、そういうスタイルじゃないの?
そこでようやく私は気付いた。
カッコいい女なんていうのは、私がなれるものではないし、なりたいものでもない。
私は、同性からも愛される可愛い女子でありたいのだ。
同性からも愛されると言えば、やっぱり久松美咲への意識が消えない。
自分自身の目標にするには高すぎるポジションに居る美咲が、気になって仕方がない。
兎に角その、女らしい仕草を真似てみる。
真似てみる?
何をどうやって真似るというの?
彼女の女らしい仕草っていうのは、女子としてごく自然に出てくるもの。私なんかが頑張っても、不自然にしか見えないわ。それって逆に痛々しいよね。
あぁ、もう…。
「陸上部…辞めよっかなぁ」
教室の片隅で、何となく呟いた。
それは意識した訳じゃなくて、心の奥から溢れるように、自然に出てしまったひと言。
「何で!?」
「だって、別に府大会とか興味ないし」
「じゃあ、何でやってるの? 大会に出なきゃ、頑張ってる意味がないわ」
「それは…分かってる。やる気もないのに何で一生懸命走ってるのか、それは疑問だわ。だけど私、他に出来る事ないから…」
女子部員の相田美緒里は、私の呟きに大袈裟に驚いた。
仕方なく短距離走って12秒台。それはきっと、才能なんだろう。
辞めると言った事より、この事実に衝撃を受けたのに違いない。
「本気でやれば、忖度抜きで全国行けると思うんだけどなぁ」
大抵の場合、こう言われると「頑張ってみるか」って思うんだろう。
でも私はその手に乗らない。
「全国大会ぃっ!? ないない、そんなの。それって11秒台で走れなきゃ無理よ」
とりあえず、自分の実力がまだまだ優勝レベルに届いていない事を主張してみるけど、この言葉は、他の部員にしてみれば毒を塗った矢の如し。
でも、事実は事実でしかない。悔しかったら各々が頑張ればいい。
こんな事言ってる私だけど、本気で陸上競技が嫌なんじゃない。ただ、スポーツに打ち込む自分があまり想像出来ない。
そんな私の気持ちを素直に話すと、美緒里は両手を耳の高さまで上げて驚いた。
何とも滑稽なリアクションだ。
「私ね、服、作りたいの」
「へっ…???」
「あの…久松さんが華やかになるような…」
「意味分かんない」
「私も分かんない」
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次回「恋をしてみたかったあの頃[3]」
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