表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/93

瞼を閉じれば [13]

 玲奈は上賀茂にある総合病院へ運ばれた。

 あたしは吉野先生と村瀬、そして小湊と一緒にお見舞いに行こうとした。

 高田達はどうするつもりだったのだろう? もちろんあたし達と共に行くなんて、天地が逆さまになってもしないはず。


 行こうとした…。

 でも、実際にはお見舞い出来ずに引き返した。


 玲奈は、救急車に乗せられた時には意識が戻っていた。

 怪我自体は頭部打撲という事で精密検査も行ったが、幸い検査結果には異常は見られなかった。

 だけど恐怖から精神状態は不安定となり、PTSDという診断が下った。


 玲奈はこの日を最後に学校へも来なくなった。

 あたしはその後も何度か会いたい一心で、吉野先生と一緒に玲奈の自宅を訪れたが、結局会う事は叶わなかった。

 玲奈は、誰が何と言っても、「誰とも会いたくない」の一点張りだったそうだ。相当辛かったんだと思う。


 誰とも会いたくない。つまりこの一件であたしは、唯一の友達を失った事になる。



 思い返せば…。


 村瀬はあたしの事が好きだったようだ。思春期特有のものかもしれないけど、彼は好きな女の子、つまりあたしの前ではイキりたかったのだと言っていた。


「イキる事即ち漢」

 社会的にはまだ未熟な高校生の発想なんだろう。イキる事で自分を立派に見せる。

 そんな村瀬が、あたしは苦手だった。


 高田は…。

 村瀬を好きだったようだ。

 なのに村瀬があたしの事を好きだと知って、彼の幸せを祈るようにあたしの反応を見ていた。

 そこまではとても女の子でいじらしい。問題はそこからだ。

 あたしが村瀬を避ければ避ける程、高田のその目は憎しみの眼差しに変わっていった。


 みんな純粋すぎた?

 つまり、誰も悪くはないんだ。


 だけど、最終的に玲奈を突き飛ばしたのは高田なので、高田が一番悪いとされる。それは間違いじゃない。

 裁きを受けるのは、手を出した者。それが世の常だ。

 ましてや玲奈は、心に傷を負い、恐怖から不登校になってしまっている。必然的にその罪は、大きく重くなってしまう。高田は自身の行為を恥じ、後悔している事だろう。


 そして、吉野先生はあたしに「好きな人がいるならそれを伝えなさい」と言った事を後悔している。


 その先に起こった事件なんて、一体誰が想像する事が出来ただろう?

 吉野先生のこの言葉は、決して軽はずみで言ったものではない。あたしの悩みへの回答として、青春なのだから突っ走りなさいと促した。


 そのはずなんだ。なのに結果が今の状況。目に見える重い罰を与えられたのは高田だったとしても、心に一番深い傷を負ったのは吉野先生だと思う。

 学校に来ない事を選択した玲奈より、それでも学校即ち職場に来て、沢山の生徒達を指導していく立場に置かれている吉野先生。心の傷の深さは計り知れない。


 何も悪い事をしていない。

 なのに当事者は皆、心や体をズタズタに傷付いてしまったんだ。



 こんな事が、本当にあるんだ。

 この事実を受け止めたあたしは、おそらくまだ若すぎたんだろう。

 事の成り行き全てを背負ったとしか考える事が出来なかった。そう、一番不幸なのは自分だと勘違いしてしまっていた。


 結局あたしも、折角吉野先生との話し合いで前を向けたはずなのに、全て元の木阿弥(もとのもくあみ)だ。

 いや、正しくは、「学校がつまらない」から「学校が嫌い」に変わってしまったのだから、もっと厄介だ。

 不登校という程ではないにしろ、学校を休む回数は著しく増えてしまった。

 行きたくないというより、「行けない」んだ。それこそ下手すれば、あたしだって登校拒否に陥り、卒業も出来なかったかもしれない。


 こんなあたしを、親はどう思っているんだろう?

 何も訊いてくれないという事は、あたしから話さなきゃ、気付いてもくれないの?


 こんな時、あたしはまた佳代ちゃんを頼ってしまう。だけど、佳代ちゃんはもうすぐあの店を辞めると言っていた。

 大切な時期だというのに、迷惑はかけられない。


 だからあたしは…、自分の人生は、全て自分で選択したいと思う。

 どんな人生を歩もうとも、それは自分だけで決める。人は頼りにしない。


 そして…、


 生田尚哉という1人の男性を生き甲斐にして、生きていくと決めたんだ。


 瞼の裏側には、そんな過去が今も焼き付いたままで……。

アクセスありがとうございます。

「瞼を閉じれば」これにて終了です。

次回「恋をしてみたかったあの頃[1]」

麻衣の高校時代のエピソードです。

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ