瞼を閉じれば [13]
玲奈は上賀茂にある総合病院へ運ばれた。
あたしは吉野先生と村瀬、そして小湊と一緒にお見舞いに行こうとした。
高田達はどうするつもりだったのだろう? もちろんあたし達と共に行くなんて、天地が逆さまになってもしないはず。
行こうとした…。
でも、実際にはお見舞い出来ずに引き返した。
玲奈は、救急車に乗せられた時には意識が戻っていた。
怪我自体は頭部打撲という事で精密検査も行ったが、幸い検査結果には異常は見られなかった。
だけど恐怖から精神状態は不安定となり、PTSDという診断が下った。
玲奈はこの日を最後に学校へも来なくなった。
あたしはその後も何度か会いたい一心で、吉野先生と一緒に玲奈の自宅を訪れたが、結局会う事は叶わなかった。
玲奈は、誰が何と言っても、「誰とも会いたくない」の一点張りだったそうだ。相当辛かったんだと思う。
誰とも会いたくない。つまりこの一件であたしは、唯一の友達を失った事になる。
思い返せば…。
村瀬はあたしの事が好きだったようだ。思春期特有のものかもしれないけど、彼は好きな女の子、つまりあたしの前ではイキりたかったのだと言っていた。
「イキる事即ち漢」
社会的にはまだ未熟な高校生の発想なんだろう。イキる事で自分を立派に見せる。
そんな村瀬が、あたしは苦手だった。
高田は…。
村瀬を好きだったようだ。
なのに村瀬があたしの事を好きだと知って、彼の幸せを祈るようにあたしの反応を見ていた。
そこまではとても女の子でいじらしい。問題はそこからだ。
あたしが村瀬を避ければ避ける程、高田のその目は憎しみの眼差しに変わっていった。
みんな純粋すぎた?
つまり、誰も悪くはないんだ。
だけど、最終的に玲奈を突き飛ばしたのは高田なので、高田が一番悪いとされる。それは間違いじゃない。
裁きを受けるのは、手を出した者。それが世の常だ。
ましてや玲奈は、心に傷を負い、恐怖から不登校になってしまっている。必然的にその罪は、大きく重くなってしまう。高田は自身の行為を恥じ、後悔している事だろう。
そして、吉野先生はあたしに「好きな人がいるならそれを伝えなさい」と言った事を後悔している。
その先に起こった事件なんて、一体誰が想像する事が出来ただろう?
吉野先生のこの言葉は、決して軽はずみで言ったものではない。あたしの悩みへの回答として、青春なのだから突っ走りなさいと促した。
そのはずなんだ。なのに結果が今の状況。目に見える重い罰を与えられたのは高田だったとしても、心に一番深い傷を負ったのは吉野先生だと思う。
学校に来ない事を選択した玲奈より、それでも学校即ち職場に来て、沢山の生徒達を指導していく立場に置かれている吉野先生。心の傷の深さは計り知れない。
何も悪い事をしていない。
なのに当事者は皆、心や体をズタズタに傷付いてしまったんだ。
こんな事が、本当にあるんだ。
この事実を受け止めたあたしは、おそらくまだ若すぎたんだろう。
事の成り行き全てを背負ったとしか考える事が出来なかった。そう、一番不幸なのは自分だと勘違いしてしまっていた。
結局あたしも、折角吉野先生との話し合いで前を向けたはずなのに、全て元の木阿弥だ。
いや、正しくは、「学校がつまらない」から「学校が嫌い」に変わってしまったのだから、もっと厄介だ。
不登校という程ではないにしろ、学校を休む回数は著しく増えてしまった。
行きたくないというより、「行けない」んだ。それこそ下手すれば、あたしだって登校拒否に陥り、卒業も出来なかったかもしれない。
こんなあたしを、親はどう思っているんだろう?
何も訊いてくれないという事は、あたしから話さなきゃ、気付いてもくれないの?
こんな時、あたしはまた佳代ちゃんを頼ってしまう。だけど、佳代ちゃんはもうすぐあの店を辞めると言っていた。
大切な時期だというのに、迷惑はかけられない。
だからあたしは…、自分の人生は、全て自分で選択したいと思う。
どんな人生を歩もうとも、それは自分だけで決める。人は頼りにしない。
そして…、
生田尚哉という1人の男性を生き甲斐にして、生きていくと決めたんだ。
瞼の裏側には、そんな過去が今も焼き付いたままで……。
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麻衣の高校時代のエピソードです。
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