瞼を閉じれば [12]
事件!
上高野高校に、事件発生!!
「歩果、ちょっと歩こうか」
「どこへ?」
学校から20分程歩けば、八瀬比叡山口駅。
そこから少し歩けば、尚哉と出会ったケーブル八瀬駅前の公園がある。
あたしは玲奈と一緒に駅前の公園を抜け、近くのコンビニへと向かった。
コンビニの前は、国道を行き交う車で混雑していた。
いつもお決まりのミルクティーを買うと、再びケーブル八瀬駅前へと歩いた。
「それってさぁ、贅沢な悩みよ」
男子の色目がウザい。
女子の冷ややかな目線が怖い。
もう何度も玲奈には話した。そして、贅沢な悩みだという答も同じ数だけ聞いた。
「もう少し気の利いた答ってないの?」
少し嫌な言い方だったかもしれない。でもこれが本音だし、この事で玲奈と縁が切れるなら、それでも仕方ないと思う。今まで通してきた我慢の数なんて、半年で片付くものじゃなかったし、それなら吉野先生が言ったようにあとたった半年我慢すれば、全て終わらせる事が出来る。
そう思ってあたしは言った。
「ごめん…」
「玲奈はどう思う? 男、選び放題。羨ましい?」
これには玲奈は即答した。
「全然羨ましくない。私には、歩果みたいな状況って経験ないけど、どう?って訊かれたら…大勢からチヤホヤされるより1人に愛される方が幸せだと思うし」
玲奈の言葉には、芯があると感じた。
「本当はみんな、そのはずよ。高田も下川も長谷川も、たぶんそう思ってると思う」
「あたしは男子を独り占めした訳じゃないし、村瀬とか小湊とかには興味ないし、それでも彼女らはいつもあたしを睨み付けてくる」
「今は彼女らはチヤホヤされたいかもしれない。だからと言って歩果を責めるのは理不尽よ」
それでもあたしは、玲奈の腹の内を探ってしまう。
少女の頃からずっとそうだった。人を疑わずにはいられなかった。
「本当にそう思う?」
玲奈は一瞬驚いた表情を見せた。
「何それ。何か疑ってる?」
「あ、ご、こめん」
玲奈の真剣な目に、あたしは大きな罪悪感を感じた。友達として相談にのってくれている玲奈を、あたしは何ひとつ信用していなかった。
翌日、いつものように村瀬が寄って来た。
「朝比奈、放課後用事ある?」
これは狡い訊き方だと思う。
ないと答えれば、もう逃げようがない。
あたしは吉野先生の言葉を思い出して、思い切って言った。
「あたしね、好きな人がいるの。この学校にじゃなくて。だから村瀬君と一緒には無理です!」
村瀬の顔が、驚きの表情へ。そして間もなく、泣きの表情へと変わってゆく。
「もしあたしを好きで誘ってくれてたのなら、ごめんなさい」
ただただ面倒くさいと思っていたし、「俺ならお前ぐらい簡単に落とせる」とでも言いたげな態度や言葉使いがやたらと鼻についた。
だから、本当にあたしを好きだったのなら、余計に嫌だ。
だけど、自分の言葉で誰かが傷付くのも嫌だ。
だからせめて、「ごめんなさい」ぐらいは言っておきたかった。
好きな人がいる。
それは、きっとあたしにまとわり付いていた男子皆に伝わったのだろう。
だけど、事態は収束という訳にはいかなかった。
それどころか、問題はさらに深刻化してしまった。
「朝比奈っ! アンタ、男いるのに村瀬君を弄んでたのかよっ!!」
高田だ。あたしをいつも睨みつけている高田が、何故か怒りを露わにして近寄って来た。
もちろん弄んでた訳ではなく、その逆で、あたしは村瀬らを避けようと必死だった。
高田があたしに激怒したのは、それこそ理不尽以外の何でもない。
思わぬ事態に、あたしは血の気が引く思いをした。
「な、何? 高田さん…何!?」
「高田! やめろっ!!」
村瀬は今にも泣き出しそうな顔をして、それでも必死の思いで堪えながら、高田の方を向いてあたしの前に立った。
あたしを守ろうとしたのだ。
「高田さんっ! やめてっ!!」
玲奈は高田の右腕を取った。しかし高田は、玲奈の腕を振り解くと、力任せに玲奈の体を突き飛ばした。玲奈は勢いで倒れ込み、机で頭を強打した。
「玲奈ぁっ!! 玲奈あああ!!」
あたしも相当取り乱したと思う。
その時玲奈は、何も応えなかった。脳震盪を起こして意識を失っていたのだった。
恋のもつれ。
「好き」という気持ちが思い込みに繋がり、冷静さを失わせてしまう。
日多喜瑠璃の経験上、たまらなく好きになった相手より、自然体で笑い合える“友達より少し上位”ぐらいの人の方が、きっと相性がいいのかなって思います(╹◡╹)♡
アクセスありがとうございます。
次回、「瞼を閉じれば[11]」
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