表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/94

瞼を閉じれば [10]

「朝比奈さん、あとで職員室に来れる? ちょっと話したいので」


 翌日の学校。

 あたしは、一応登校した。ただし、授業なんて上の空。ただボーッと教壇に立つ先生を見つめていた。


 吉野薫先生。

 担任は女性教諭。

 言葉は優しげな口調で、かつ芯のあるもの。それがこの先生の持ち味だと思う。


 嫌いではなかったけど、好きとか尊敬しているとか、そういうのでもない。


「はい」


 授業が終わり、いち早く教室を飛び出したあたしに、先生は声をかけた。

 間違いなく昨日の一件だろう。

 もちろんあたしは、全て話すつもりだ。


 指定された15:45。

 それまでは特に何をする訳でもなかったが、教室に居れば、また男子がちょっかいを出してくる。

 絶対に男子が来ない場所。

 トイレの個室で、スマホを見ながら時間を潰した後、職員室へと向かった。



「単刀直入に訊くわね。昨日はどうしたの?」


 何でサボった?とか、どういうつもり?とか、そんな訊き方はしない人だ。

 今日もやっぱり、先生の口調は穏やかだ。


 悪い事をしたと思う。だから「何でサボったの?」と訊かれると、余計に辛くなる。

 先生の訊き方は、罪の意識をやわらげ、話しやすい雰囲気を作り出す。


 巧妙だ。

 でも、腹の中ではどう思っているかは分からない。


「先生、あたしね…」


 言おう。

 単位さえ取れれば、あと半年でこの学校ともお別れ。だから、言えるだけ言ってしまおう。


「男子がウザイ。女子が怖い」


 先生の目が、丸く大きくなった。


「男子はね、暇があればあたしの傍に寄って来て、面白くもない事をマシンガンみたいに言ってくる。休憩時間だって休憩出来ないの。ずっと愛想笑いでつまらない話ばっかに対応してるんです」

「それって、うふふ…モテるんじゃない。朝比奈さん、可愛いし」


 褒められるのは嬉しい。でも先生、違うの。


「あたし、そういうの嫌いで、自分を好きになってくれた人をあたしも好きになって…そんなのがいいの。当たり前でしょ? なのに、好きでもない男子がいちいち集まって来るんです。で、それを見て女子は『いいわね、男、選び放題』なんて言って揶揄うんです。そんな毎日に…」


 ―疲れたの。


 答は分かっている。男子を相手にしなければいいだけ。なのにあたしは、彼らを突っ撥ねる事すら出来ずにいる。


「そう言う朝比奈さんは、好きな人居るの?」

「答えないとダメですか?」

「そういう訳じゃないけど、好きな人居るんだったらそう言っちゃえば、男子だって引くかもよ」


 好きな人。

 彼氏? 違う?

 好きかもしれない人…。


「居ます!」


 ふと尚哉の顔が浮かんだ。

 ちゃんと「付き合おう」と言われた訳ではないけど、尚哉に会える日は心が弾む。

 だからきっと…、


 好きなんだ!


「居るんです、好きな人。そうそう、ここの卒業生って言ってたわ。先生、生田…生田尚哉さんって知ってます?」


 先生の目がキラリと輝いた。


「知ってるも何も、先生の教え子よ。生田君。そう、生田尚哉君」


 担任ではなかったが、日本史の授業を受け持ったという。


 尚哉は…、


「朝比奈さんと似てたかも。うふふっ。授業サボったり、居眠ったり…。悪い子じゃなかったわ。でも、真面目でもなくて」


 自然が大好きで、草花に興味があり、将来は登山家として高山植物の研究をしてみたい。そんな事を言っていたそうだ。


「どこで知り合う機会があったのかしら?」


 その言葉はあたしに向けられた訳ではないけど、どことなく聞きたげな雰囲気に、あたしはつい言ってしまった。


「授業サボって公園のベンチで居眠ってた時よ」


 先生は吹き出し、大笑いした。

 あたしも思いっきり笑った。

アクセスありがとうございます。

次回、「瞼を閉じれば[11]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ