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瞼を閉じれば [9]

 既に学校では大騒ぎになっていたという。

 授業をフケるのは常連だけど、朝から居ないとなると大事らしい。


 鉄道会社側は、乗車区間の運賃を払った事でお咎めなしとしてくれた。

 警察も呼ばず、学校にも通報しなかった。


 学校で話題となっていたのは、あたしがいつもの電車に乗らなかった事。そしてその瞬間を見られた事。

 あの時の彼奴が、その事で騒いだんだろう。



「迷惑な…」


 ホント、迷惑な事をしたものだわ。否定なんて出来る訳もない。

 拘束され、電話した相手が迎えに来なければ、あたしは帰宅出来ず、いつまでもこの駅にいたはず。


 あたしが電話して、そして迎えに来てくれたその人。


「歩果っ! 何やってんのよ、もう…」


 顔を見るなり、また涙が溢れ出した。迎えに来てくれたその人の表情は、あの冷ややかな口調とは裏腹に優しく、どこか悲しげな雰囲気を纏っていた。

 今度はもう、止まらない程に号泣した。


 佳代ちゃんは、あたしが親を呼ばずに自分を呼んだ事を、不思議には思わなかった。

 しばらく離れていたけど、あのお店で再開した時、何か予感みたいなものを感じたという。


「何やってんのよ、もう」


 その口調は怒っている時のそれではなく、少し呆れたような感じだった。

 そして、泣きじゃくるあたしを抱きしめて、


「お金は払ったから、もういいって。歩果、帰ろ」


と、優しく囁いた。


 余計に涙が溢れた。



 佳代ちゃんが運転する車の助手席で、あたしは俯いたまま硬直していた。

 次に来る言葉が怖かったからだ。

 何を言われても言い返す事なんて出来ない。それ相当の事をしでかしたのだから。


 車は停まった。

 佳代ちゃんは、電話をかけ始めた。きっとお店だろう。仕事にまで悪影響を及ぼしてしまったようだ。


「すみません」


 そう言って電話を切ったと思う。

 仕事に間に合わないのかもしれないと思った。



「歩果…」

「ごめんなさい…」


 何かを言おうとすると、また泣きそうになり、言葉にならない返事だけを繰り返してしまう。

 そんなあたしに、意外にも佳代ちゃんは優しかった。


「歩果、何かあったわね?」


 ただ頷くだけのあたしを見て心配そうにそう言うと、窓の外を見つめ、佳代ちゃんはあたしから声が出る時を待っていた。


 ―やっぱり佳代ちゃんなら分かってくれるんだ。


 あたしは思い切って話してみる事にした。

 何故学校に行きたくないのか。

 何故友達が居ないのか。


 それは、単なる思い過ごしかもしれないし、或いはわがままなのかもしれない。

 だから、そう思ったから、ずっと我慢していた。我慢出来なければ、それはやはりわがままで終わってしまう。そう思っていた。


「無理してたんだ」


 きっと佳代ちゃんの言葉通りなのだと思う。

 無理が苦しくなり、授業をフケる行為に走った。そしてそれはエスカレートし、とうとう登校までも拒否してしまった。

 厳密に言えば、あたしが意思を持って拒否したのではない。学校へ行かねばという気持ちは強かった。なのに体が向かなかったんだ。


 だから…、

 所持金をオーバーしてしまうまで電車を降りる事が出来なかったんだ。


 何に無理をしていたのか。


 言うまでもない。男子生徒達のウザイまでの言い寄りと、冷酷なまでの女子生徒の目線が、あたしを苦しめていた。

 そいつから逃げたい。

 ずっとそんな思いを抱いていたのに、成績、出席日数、学費なんかがあたしを締め付け、意味不明な使命感に背中を叩かれるように登校を続けていた。


「歩果のお父さんお母さんはどう思うか分かんないけど、学校辞めるっていうのも選択肢だったと思う…。だけど、あと半年よ。半年我慢出来たら卒業だから…、頑張ってみて」


 それをあたし自身のためとか、お父さんお母さんのためなんて、佳代ちゃんは言わなかった。


「私のために…ね」

アクセスありがとうございます。

次回、「瞼を閉じれば[10]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

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