瞼を閉じれば [7]
次の日もあたしは、行きたくもない学校へと足を向けた。
小さな電車がたった1両で走る。
ひとつ目の駅で、鞍馬方面と分岐する。向こうの沿線には大学があり、2両の電車が運行されているが、車内は同じように混雑する。
改札を抜けてホームに立つと、いつもの電車が滑り込んで来た。周りにいる人も、いつもの面々。
あぁ、つまんない…。
尚哉はあたしを、“上高のアイドル”と言った。
その言葉を真に受けるつもりは毛頭ないけど、確かに男子達は何かとあたしに構ってくる。
玲奈は、あたしがその事を快く思っていないのを知っている。
下心丸見えで言い寄ってくる男子がウザイ。そんな事を、玲奈には何度も話した。
だけど他の女子達は、その男子達の目があたしに向いている事が気に食わないらしい。
あたしにしてみれば、かなり理不尽な事だ。
だってあたし、男子達に思わせ振りな態度を取った訳でもなく、色目を使った訳でもない。
あざとさなんて欠片もないはずだし、どちらかと言えば逆に“近寄るなオーラ”を放っているつもりだ。
何で男子に好かれ、女子に嫌われているの?
嫌われる理由が分からない。あたしは別に、何もしていないはずだし。
ドアの前の列。
あたしはそこから外れ、いつものこの八瀬行電車を見送った。
もし次に来る鞍馬行電車に乗ったらどうなる? そんな悪戯心が現れた。
「朝比奈ちゃーんっ! 乗らねえのか!?」
いつも鼻の下を伸ばして寄ってくる男子の声が聞こえた。
面倒くさい。当然、無視する。
「お、おいっ!」
「……」
八瀬行電車は走り去った。
代わりに鞍馬行電車がやって来た。
あたしは制服姿のまま、大学生に紛れてこの電車に乗り込んだ。
次の駅で降りれば、学校には間に合う。
わずか2分間、思考がグルグルと脳を回転する。
乗り換え駅に着いた。ドアが閉まる瞬間がタイムリミットだ。
―朝比奈ちゃーん!
ああっ! 面倒くさいっ!!
ドアの横の手すりをガッシリ掴むと、あたしは俯き、瞼を強く閉じてドアの閉まる音に聞き耳を立てた。
―バタン!
これで、完全にアウトだ。
いや、次の駅から歩けば、ギリギリ間に合うかもしれない。
だけど次の駅に着くと、右手のみならず左手までが手すりを掴んだ。
あたしを電車から降ろそうとする良心と、学校へ行きたくない気持ちが、激しいバトルを繰り広げる。
やっぱりダメ! 佳代ちゃん、ごめんなさい。
また、強く瞼を閉じた。
何故か佳代ちゃんの顔が浮かんだ。
あたしの生活指導担当は、何故か佳代ちゃんなんだ。
両親が嫌いとか、苦手とか、そんな事はない。だけどお父さんもお母さんも、忙しいのか何なのか、あたしの素行に関してはさほど興味がないようだ。
三者面談なんてのも、何度かやった。
授業をフケるのは珍しい事ではなく、寧ろ常態化しているあたしに対し、そんな時でも両親は別段叱りつける訳でもなく、「単位だけは取って、ストレートで卒業すれば、文句は言わない」なんていう考えをぶつけてくる。
そのくせ、「結婚するまでは安定した仕事して、結婚したら旦那と相談して働くかどうか決めなさい」と、人生の指針だけを押し付けようとする。
無関心なのか、その逆なのか。
だけど嫌いになれないのは、あたしの体の中に同じ血が流れているからなんだろう。
結局あたしは、この両親に甘えながら生きている。
電車のドアは閉まった。
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次回、「瞼を閉じれば[8]
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