瞼を閉じれば [5]
「何? 何よ、何?」
佳代ちゃんらしくない驚き方。
無理もない。あたしと尚哉が、一体どこでどうなって繋がったのか。そんな事、佳代ちゃんに分かる訳がない。
驚く佳代ちゃんに、今度は尚哉が驚く。
それもそうだろう。
あたしと佳代ちゃんが繋がってるなんて、尚哉には分かる由もない。
3人ともポカンと口を開いて、それぞれがそれぞれの顔を何度も繰り返し見ている。
「歩果…アンタ……」
「か、か、彼…氏…だと思う?」
「思う訳ないわっ!」
尚哉は何も言わない。
言える訳ないもの。佳代ちゃんの知人をナンパしたなんて……。
「がっ、がっ、がっ、、学校の先輩で…」
「知ってるわ。上高野高校卒って聞いてるもの」
「じゃあ、話が早いわ」
話が早い? 何を訳分からない事を。
一番焦ってるのは、言わずもがな尚哉。あたしがひと言言えば、その瞬間に“ナンパ男”のレッテルを貼られる。
ん? 佳代ちゃんってそんな人だっけ?
いや、違う。あたしの知ってる佳代ちゃんは、人をイメージだけで判断しない人のはず。
「大丈夫よ」
尚哉の耳元で声を顰めて囁いた刹那、もっと問題な事があると気付いた。
「ダメ! あたしが学校サボってるのがバレるわ」
「じゃあ俺が言うよ」
佳代ちゃんの目が、いつになく大きくなって私達を交互に見ている。
「あのね、岡崎さん。俺ね、後輩から聞いたんです。スッゲー可愛い子が居るって。アイドル的存在だって」
ぷぷぷっ……。
佳代ちゃん、笑ってる?
「歩果の事? え? それで生田君、歩果をナンパしたの?」
まんま言われた。
「昨日上高の前通りかかったら、ちょうど授業終わったみたいで…」
「放課後って、それは作り話ね。どうせサボってたんでしょ? 此奴…」
そう言うと佳代ちゃんは、はぁ〜っと溜息をついた。そしてあたしに向き直って言った。
「行きたくないんなら、しょうがないわね」
「へ?」
説教を覚悟したんだけど、あれ?
その後、佳代ちゃんは何も言わなかった。
厳密には、あたしに向かっては何も言わなかったというだけで、実は独り言があたしの胸をビシバシと突き刺していた。
「授業料、無料だったらよかったのになぁ…」
授業料か。
確かにサボればサボる程、授業料を無駄にしている事になる。
そしてさらに、突き刺さった矢はあたしの胸を抉る。
「おっちゃんとおばちゃん、知らないんだろうなぁ…」
ああもう、言いたい事は言ってよ!
いっそ怒鳴りつけて欲しいぐらいよ。
「じゃあサボらなきゃいいじゃん」
あたしの喉の奥から出かけた言葉は、このひと言でバッサリ斬られた。
要するに、全て遠回しに「サボるな」と言っているんだけど、以前と比べて幾分面倒くさくなっている。
「とりあえず留年だけはすんなよ。ホント、学費ってバカにならないんだからね」
まるで母親のようだ。
だけど、そう言われるあたしは、実は成績優秀。出席日数が他の生徒と比べて少ないだけだ。
玲奈は、あたしが自分勝手な我儘でフケた授業が、その日どこまで進んだのか教えてくれる。
それはとてもありがたいのだけど、それを聞いたところであたし、勉強なんてしていない。
勉強しなくても分かる? そんな訳がない。授業に出た時はちゃんと勉強する。それだけだ。
だから、習っていない事に関しては試験でも答えられない。
それが当然の事なんだ。あたしは何もおかしくないし、天才でもない。
だけどそれなりに…?
成績が良いのだ。
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