瞼を閉じれば [2]
「あたし、ミルクティー」
在校中の男子達は、ハッキリ言って面倒くさい。どれだけ誘われても、下心しか感じないし、だから応じることもない。
あたしがこの人の誘いに応じたのは、軽いタッチでありながらもそこにピュアな心が見え隠れしていたから。
女の勘?
あたしって、そんな勘の鋭い女?
彼は大人だ。
あたしが上高野高校に入学した時には、彼はもう卒業していたのだから、もちろん大人。
どこか成長しきれていない子供っぽい同級生の男子とは、全くと言っていい程比較にならない。
あたしが彼の誘いに応じたピュアな心の判断基準って、何だろう?
あたしはきっと、同級生と同じく子供だ。
そんな子供にアプローチしてきた、彼の優しさ。あたしのツッコミにちょっぴりオドオドした、下心とは程遠い目線。この人なら甘えていいかもしれない。甘えてみたい。
子供なのに、誰にも甘える事が出来なかった。
だから……。
「ミルクティーかぁ。洒落てるじゃん」
洒落てるの? ミルクを入れるのだから、子供っぽいかなって思ってたけど。
「ここのミルクティーって、アールグレイ使ってるんだよ。ベルガモットの香りが引き立って、ミルクとよく合うんだ」
???…
ごめんなさい。何の事か分からない。
でも、香りが良いのはよく分かるし、アールグレイっていうのもよく耳にする。きっと、高級茶なんだ。
「お待たせしました」
彼が注文したのは、カフェ・ラテ。
カフェ・ラテといえば、ラテアート。女子にとって心くすぐるサプライズ。
何気に覗き込んでみると…、
「は…あ………」
「「とっ」」
あはははははは!!!
「か〜わい〜い♡」
「照れくせぇ〜」
恥ずかしそうに笑った彼の笑顔。とっても可愛くて、優しさが溢れそうなぐらい素敵。
彼…。
名前は?
あたしから訊いてもいいのかな?
「あの…」
「うん?」
口籠もってしまった。
そんなあたしも、柄になく照れていたんだろう。
「何年卒ですか?」
「4年前だよ。だから在校中はアイドルさんとは会ってないね」
「ちょっとちょっとぉ! その、アイドルさんってのやめてくんない?」
「あははは! ごめんよ。だって名前知らないから」
ん? 何かおかしくない?
あたしの事、上高野のアイドルなんて言ってんだから、苗字ぐらいは知ってるよね?
「朝比奈…」
「うん、知ってるよ。でもファーストネーム知らない」
そう来たか! 此奴…何て巧妙な話術なんだよっ! これじゃあ名乗らない訳にはいかないじゃん。ならば、あたしも!
「じゃあ、先にナンパ師から名乗ってよ」
「な…? ははは」
ナンパ師なんて言われて困った。そんなとこかな? その困った顔も悪くないわ。
よぉ〜し。じゃあ、もっと困らせてやろう!
「俺…、尚哉」
「え? ファーストネームから言うの?」
ちょっと驚いた。拍子抜けって言った方が正解かな。あっさりと、しかも苗字じゃなくて。
「それって……うふふっ……」
「何だよ、含み笑いなんかして」
「もしかして、ワンチャンあると思ってる? キャッハハハ!!」
困った顔。
この人、尚哉さんを困らせてやったよ!
そう思ったんだけど…、それも束の間。
「それ、逆だろ? 君がワンチャン狙ってんだろ? あっはっは!!」
図星かもしれない。
この切り返しには、もう首を縦に振るしかなかった。
「そ、そうね。歩果。あたし、朝比奈歩果」
突如目の前に現れた、素敵な男性。
フルネームは…、
生田尚哉。
お互いがフルネームを名乗り合い、この瞬間から、あたし達は「尚哉」「歩果」と呼び合う関係になった。
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次回、「瞼を閉じれば[3]」
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