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山に魅せられて[27]

第1話最終部分になります。

ハイキングの楽しさ、伝わるでしょうか?

 下山道は、東登山道を選択した。

 登りは西登山道だったそうで、この他にも中央登山道があるという。


「こっちは下山だけの一方通行なんだ。でも足場が悪い所あるから、気を付けて」


 杉本さんにそう言われて、足元ばかり注視してしまう。

 でも、美しい山の景色もしっかり目に焼き付けなきゃ。


 それにしても、みんな優しいし穏やかで温かい。自然を愛する人って、みんなそうなのかな。


「こっちはミヤマコアザミが多いね…」


 本村さんはそう言いながら、撮影の手を緩めない。

 一輪の花だって、様々な角度から狙い、何度もシャッターを切っている。まるでプロだわ。

 そして嬉しい事に、私達のスナップまで撮ってくれている。


 一方で、村上さんを中心に、何やら騒ついている。気になった私は、今度はそちらへ。


「何か居るんですか?」

「キジだよ、ほら」

「赤ら顔してるでしょ。うふふっ」


 赤い顔…酔っ払い?


「酔っ払いかぁ! はっはっは!」


 笑いが起こった。馬鹿みたいな事言って恥ずかしかったけど、「面白い喩えだぁ」なんて言ってくれる事に嬉しさを感じた。


「田上さん、もう慣れたのかな? 冗談も言えるようになったわね!」


 谷山さんに言われて、緊張が解れている自分に気付いた。

 さっきの雷雨を上手く交わし、安心感を得られたから…というのもあるかもしれないけど、私的にはやっぱり、この山岳会の皆さんの笑顔が素敵だからと言いたい。


 そんな事を考えていると…?


「わっ!」


 ―ツルッ…ステン!


「だ、大丈夫!?」


 足場が悪いのを忘れていた。水気を含んだ土で足を滑らせ、一瞬のうちに尻餅をついてしまった。


「ほらほらぁ、一定数居るのよ、こんなドジ踏む人っ。きゃはははは」

「ごめんなさ〜い」

「きゃっ!!」


 あらあら、朝比奈さんまで尻餅だわ。


「ねえ! 一定数居るのよねっ」

「この山岳会、割合が高いな。はっはっは!」


 ―きゃはははははは!!



 めちゃめちゃ楽しい。


 私、グループで行動するのは元々得意ではなく、今までは多くても3人程度で動いていた。

 仕事だってそうで、トップスのチームに居ながらも作業は分担制なのだから、1人で連携の中の一工程を担っている。

 それが気持ち的に楽だった。


 だけど今は違う。

 何人もの人に囲まれ、見守られ、その中で恥ずかしげもなく大口開けて笑っている。

 人と一緒に居るのが楽しい。そう思えてならない。


 まだ趣味とも言えない山歩きだけど、もうすぐ胸を張って「山が好き」と言える日が、必ず来る。

 そんな気がする。



 衣服に着いた泥は、乾いてから払い落とす。きっと通常の選択では落ちにくいだろうから、そこはアパレル業界に勤務する私や谷山さんが、持てる知識をフル活用すればいい。

 朝比奈さんの衣服だって、綺麗にして差し上げよう。


 だけど…。


「これで地下鉄に乗って帰るの、嫌だぁ〜」


 そう。自宅に帰るまでが厄介なんだ。

 恥ずかしいし、おまけに汚れた服装なんて嫌われるはず。


「いいじゃん。『山で転けました』って背中に書いとく?」

「またそんな意地悪言ってぇ」


 ―あはははははは!



 今日は本当に素敵な1日だった。

 山という大自然の美しさ。

 山を、自然を愛する人達の温かさ。

 まだ知り得なかった、普段とは違う私。

 挙げればきりがない程、沢山のことを学んだと思う。


 そして、谷山さんはもちろん、朝比奈さんとの距離がとても近くなった気がする。

 まだまだ知らない事の方が多いとは思うけど、少しずつ、少しずつ、その距離を詰めていきたい。


 友達と呼べる関係に……、


 私はなりたい。

アクセスありがとうございます。

次回からは第2話に入ります。

「瞼を閉じれば[1]」

更新は、X または Instagram にて告知致します。

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