山に魅せられて[23]
楽しみの前にはいつも、不安要素が襲ってくる。
それって「あるある」なのでしょうか。
「週末は雨だね」
夏の花がが見頃となる7月上旬は、関西では言うまでもなく梅雨真っ只中。長期予報ではもうそろそろ梅雨明けの時期も言われ始める頃だけど、今まさに梅雨前線は、最後の力を振り絞って雨を降らそうとする。
自然現象に文句は言えないけど、とっても迷惑な話だわ。
もうホント、私ってこんな負の要素ばかり持ち合わせているの。
雨女なんて言われた事はないけど、何をやろうにも必ずと言っていい程に障害が現れる。
それは雨に限った事ではなくて、例えば仕事でも…。
「布の入荷が遅れそうなの。発送元の地域が大雨で、道路に規制がかかってるそうで」
「あぁ、静岡とか、かなり降ってるみたいね。明日届かなかったら…」
「納期は変えられないし…」
つまり、予定通り入荷出来なかったら、週末に休日出勤してでも製作し、火曜日の納期に間に合わせなきゃいけないんだと。
それは非常に困る。
ハイキングが流れるだけならまだしも、折角の休日に出勤なんて。
好きで入ったアパレルだけど、仕事となると、好きだけでは務まらなくなってしまう。
それは不条理なようで、それでも至極当然の事。どんな仕事だって同じ事なんだ。
「ダメだわ。今、高速が通行止になったら、下道走って来るって」
「到着は早くても夜になりそうね」
「磐田さんと谷山さん、土曜日は出勤になるかもしれないから、そのつもりでいてね」
ええー!? 谷山さんが出勤しちゃうの?
聞き捨てならぬお言葉ではありませんかっ!
とまぁ、こんな有様で。
しかし一方、とある場所ではこんな呑気な言葉も飛び交う。
「心配ご無用。ははは…山岳会には神のような天気娘が居るからね」
そういう問題なの? そんなファンタジーが現実に起こり得るとでも?
「あたしが晴れさせてみせるわよっ!」
“天気娘”って、ただ晴れやかな女の子の事と思ってたら、どうやら晴れ女の事のようで。
そして驚いた事に、その翌日には…。
「週間天気予報、変わったよ。土曜日は晴れるって」
「それより、布は?」
「入ったよ。磐田さんがすぐにカットするって言ってたから、金曜日中にサンプルが仕上がるわ」
「やったっ!!」
神!
神がかりだわ!
私は、その天気娘にお礼を言わなきゃ。
仕事が終わり、私は早速ベルグへ向かった。
急いで地下鉄のホームに下りると、4分後に電車が来ると言う。だけど、たった4分の待ち時間がとても長く感じてしまう。
電車に乗って、所要時間15分程。
今、2両目に乗ってるから…先頭車両に移動すれば、20mぐらい近付く事になる。
何だそれ? でも、本当にそんな事を考えてしまう程に気が急いてしまう。
早く、早く会いたい。
天気娘に…。
「いらっしゃいませ〜」
お店の奥からアニメチックヴォイスが聴こえる。私の心のテンションは、レッドゾーンまで一気に上昇。
「晴れだってぇーっ!! ありがとう!!」
「へ?」
朝比奈さん、何の事か分からないよね。そりゃそうだ。当然の反応なんだけど、全然構わない。嬉しいんだもの。
私はその華奢な体の前で跪き、手を合わせた。後光が差しているような気がした。
その天気娘…太陽の女神様…朝比奈歩果さんに。
「何やってんすか?」
「天気も仕事も全て問題クリアなんですぅ」
「それ、あたしのおかげって言うんですか?」
―あ。
―あはははははは!
「あたし、何もしてないんですけどぉ」
「何もしてなくても全部好転なのぉ! だから、ありがとう!!」
そんなこんなで、どさくさに紛れて私、朝比奈さんの手を取った。
小さくてスベスベで、柔らかくて…可愛く素敵な手だった。
苦あれば楽あり? 違うな。
止まない雨はないってね。
見事な晴れ女パワーが炸裂しましたよ。
アクセスありがとうございます。
次回、「山に魅せられて[24]」
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