山に魅せられて[22]
華がある。
谷山さんはそう言った。それは谷山さんが朝比奈歩果に持つ印象であり、私も同じ事を思っている。
それに比べ、私は何て地味なの?
取り立てて明るい性格でもなく、美人でもない。スタイルだって普通。
これと言って特徴のない女。
だけど、私の印象は見る人によって変わるようだ。
「田上さんって、結構自分を卑下してるのよ。私から見たら、田上さんだって可愛いし華やかだと思うわ」
私が華やか?
「だって、洋服が好きっていう事は自分を飾りたい願望の持ち主って事じゃない。その気持ちがあるんだから、あとは自分のセンスで好みの服着てお化粧したら、凄く素敵な田上さんになれると思うわよ」
例えば、宮地さんにしてみれば私なんて存在感希薄。地味とか華やかとか言う以前に、存在していない。
だけど谷山さんは、私を華やかだと言う。
人それぞれの持つ印象の問題なんだろうけど、ここまで両極端だと、何を信じていけばいいのか分からない。
ここまで来ると自分を見失ったも同然と言って過言じゃない。
「田上さんは、自分はどうありたいの?」
こんな質問にも答が出ない。
「ふふっ…歩果ちゃんと居たら、お互いの良いところを引き立てあえるかもね」
何も言えない私に、谷山さんはどんどん言葉を投げてくる。
不思議。自分は声を出さなくても、会話が成立しているみたい。
「私は…私で良いっていう事ですか?」
「当たり前じゃない。うふふっ」
言われる通り、私は自分を卑下しているのかもしれない。
変わらなければ、私なんて何の魅力もない。そんな風に思っている。それは卑下に他ならない。
じゃあ自分自身に訊くけど、私が私ではいけないのなら、一体誰になればいいって言うの?
人は誰だって、好かれる事もあれば嫌われる事もある。誰からも好かれる人になろうと思えば、きっと息が詰まるだけ。
私で良い。それはつまり、今の自分で良いという事。なのに私は、谷山さんや朝比奈さんを見ていると、今の自分ではいけないのだと思ってしまう。
だけど、さっきの谷山さんの言葉。
「お互いの良いところを…」
私にも良いところがあると?
あるんだ。
自分が分からないなんて思ったけど、今のままでもそう感じてもらえる自分…、それが、自分なんだ。
どんなに元気を装っても、どんなに作り笑いしても、演じて生きるという事は、どこか自分に無理をしているという事。
なのに人は、誰かに自分を印象付けようとすると、必要以上にアピールしてしまう。
みんなそうなんだ。だから苦しくなる。
落ち込めばいい。
泣けばいい。
ここで笑ったら、田上麻衣じゃなくなってしまう。
谷山さんが言わんとする事は、たぶんそういう事なんだ。
「笑いたくなったら笑おう。それでいいから」
少し楽になったかもしれない。
電話を切ると、横に置いてあったハンカチで涙を拭った。
え? 最初から泣く体でいたの?
私、馬鹿?
クスッ…。
笑み。
それは自然に溢れるもの。
悩んで落ち込んで少し泣いたら、そのあとは自分が滑稽に見えてくる。
おそらく、私より2つ歳上なだけの谷山さんは、その差2年の間に人としての様々な“あり方”を知り、学び、伝える術を心得たんだろう。
こんな良い先輩に巡り会えた事。
神様は私を見捨てていない。
そうか。幸せなんだ、私って。
今、私…、
少し…笑った。
谷山さん、凄いですね。
わずかな言葉だけで、麻衣の悩みは解消。
もしかしたら、麻衣の思考能力も優れてるのかな?
アクセスありがとうございます。
次回、「山に魅せられて[23]」
更新は、X または Instagram にて告知致します。




