山に魅せられて[18]
デザインが決まれば、私の担当である型紙作成。
型紙が出来上がれば、サイズに見合った量の布を取り寄せ、サンプルを製作し、OEM企業へ量産を依頼する。
図面のみで依頼するブランドもあるそうだけど、私が勤める寺町カジュアルではサンプルを一緒に提出するから、よりデザイナーの意図したものに忠実に仕上げられる…と思う。
何しろ他のブランドに勤めた訳ではないから、はっきりした事は言えないんだけど。
デザインは主に宮地さんが担当する。
宮地さんのセンスは本当に秀逸だと思うし、私達のチームであるトップス部門はもちろん、それ以外の人からも絶賛されている。
私のお気に入りは、サマーベスト。
サイドをリボンで結ぶんだけど、その色使いが大人っぽくもあり可愛くもあり、それを着るだけでお洒落上級者な気分になれるの。
私が通った服飾専門学校では、幾つものブランドを例にデザインや色の組み合わせなんかも学ぶんだけど、その時点で私はTmCの洋服を目にし、憧れを抱いた。
デザイナーの宮地さんは、2年目にしてそんな作品を世に放ち、ヒットさせた。
同時に宮地さん自身も知る人ぞ知る人気デザイナーにのし上がった。
ただ…、
何故この人は、いつもこんなに尖っているんだろう。
みんな夏川サブマネージャーの口調がどうとか言うけど、それを言うなら宮地さんが一番怖いと思う。
あと、もうひとつ。
私は入社して3年。宮地さんと比べると、持てる能力には雲泥の差があるというのに何故、型紙などという繊細な分野を任されているんだろう。
繊細と言えば全てが繊細なんだけど、折角の素敵なデザインを活かすためには、私みたいな適当人間よりもっと丁寧な人を充てたら良いんじゃないの?
「田上さん。あなたね、谷山さんの事ばかり“先輩”なんて言ってるけど…」
夏川サブマネージャー。
何か不満そうに私に声をかけてくる。
「服飾専門学校時代の先輩なので、ついそう言ってしまうんです」
実際、谷山先輩と学校で一緒になった事はない。だけど同じ学校卒と知った時点で、私にとって一番近い先輩だと感じたから。
「先輩って言うなら、ここに居る人は皆んな先輩でしょ? もう学校は関係ないわ。私の事だってそう。確かにサブマネージャーっていう立場ではあるけど、製作においては皆んなと同じ立場よ。さん付けで呼んで欲しいわ」
そういえばこのチーム、皆んなお互いさん付けで呼び合ってる。上司とか先輩とか、そんな事全く気にする事もないように、普通に呼び合っているんだ。
とはいえ、やっぱり恐縮してしまう自分が居る。
「私みたいな下っ端でも…ですか?」
夏川サブマネージャー…いえ、夏川さんの顔が綻んだ。
「もちろんよ。上下関係なんてどうでもいい。チームだし、仲間なんだから」
夏川さん。
周りが言う程嫌な感じでもない。少なくとも私は、今はそう思う。
だけど…、
「チッ!」
やっぱり宮地さんとはウマが合わないみたいで。
気が強いのは、宮地さんの方が余程強そう。そして職人的な気の難しさも見事に備えている。
私がここに配属になって2年。この2人はいつも衝突を繰り返ては、周囲の人を硬直させてきた。
そんな危ういバランスは、宮地さんがデザイナーに徹する事で保たれている。
誰かと組むとなると、この人の個人プレーは相方を振り回す事になりそうだから。
おっと、余計な事ばかり考えていてはダメ。今は型紙をしっかり作る事。
この仕事は、実は…?
宮地さんのアシスタント的な役割なのかもしれない。
アクセスありがとうございます。
次回、「山に魅せられて[19]」
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