山に魅せられて[14]
職場から約20分。市内を北へ走り、フロントガラス越しに見る山が徐々に大きくなってくる。
松ヶ崎高山だ。
京都盆地の北の外れに、その店舗を構えるベルグ。
車を持たない私はいつも地下鉄でここを訪れるんだけど、それも自宅からだと1本では辿り着けず、途中駅で乗り換えなければならない。
登山用品店なら、御池通沿にもある。なのにわざわざ別のお店まで行く理由。
他でもない。職場の人に見られたくないから。部署内の人ならともかく、他部者の人からも何かと詮索されかねない。
お喋りな女性が多い職場ならでは…なんだろうか?
それにしても、同じ京都市内って言っても凄く遠く感じる。
車があるって、とても便利なんだ。
谷山先輩は大きなオートバイを操る。スラッと背が高く、その姿は実にカッコいい。
アパレル勤務ゆえのセンスの良さで、ライディングウェアにも刺繍やワッペンを貼り付けたりと、独自性を持たせている。
おっとそれは余談なんだけど、運転技術もオートバイのみならず、車の方でも見事なもの。
駐車場の枠の中に、1発できっちり止める。
「上手いって言ってもらえると嬉しいけど、私なんてまだまだ未熟よ」
嘘だ。その腕で未熟だなんて言われたら、私は免許なんか取ってはいけない人のような気がしてくる。
そもそも谷山先輩は、私の憧れの人。こんな事言われると、私の谷山先輩を見る目はより一層輝いてしまう。
私もこんな素敵な女性になりたい。
「いらっしゃいませ〜」
お店の重い扉を押し開けると、奥から可愛らしいアニメチックな声が聞こえてきた。
この癒しの声の持ち主が、朝比奈さん。
着丈の長い、アイボリーのワッフルロングスリーブTシャツに、インディゴブルーのデニムのエプロン。
ポワッと太めの袖が可愛い。
エプロンはお店のユニフォーム。
「オッス!」
「わぁ! 谷山さん。こんにちは」
優しい声ながらどこか男前な感じの挨拶をする谷山先輩。
その目の前に駆け寄る朝比奈さんとは、ざっと見たところ15cmぐらい身長差がある。
その中間ぐらいの目線で私は、2人を見ている。
「きゃっ! 田上さん。こんにちは!」
「あ、あ、こんにちは…」
私を見た朝比奈さん。一般のお客さんなら「いらっしゃいませ」で終わるけど、彼女は私の名も呼んでくれた。
これってもう、特別なのかしら?
それにしても、何と歯切れの悪い受け応えな事。
「まさか谷山さんも一緒に来られるとは思ってなかったです」
そんな朝比奈さんの一言から、谷山先輩の目が私に向けられる。
「うふふっ! お昼の私用電話ね?」
バレているのは承知。でも、谷山先輩だから大丈夫だろう。とりあえずは申し訳ない顔で苦笑い。
―あは、あは、あははは!
まぁ、何とぎこちない事だろう。
別に言う必要はないけど、あの電話の件でどこか後ろめたさを感じてしまい、私は谷山先輩に、今日ここに来た理由を必死に話した。
「あの、私…朝比奈さんに、こないだの大文字山の事をお話するって…」
「あぁ、そうなのね。私はね、田上さんにも山岳会お勧めしようと思って」
「さ、山岳会!?」
その時私達の傍で朝比奈さんは、胸の辺りで両手を合わせて笑っていた。
その表情からは、「やったぁ!」なんて声が聞こえてきそうで。
―山岳会なんて、ガチ集団じゃないの?
ちょっと待って。そんな会に私なんぞが入会しても、果たして大丈夫なの? 一緒にハイキングなんか行ったとしても、結局大文字山のように皆さんについて行けなくなって、また谷山先輩に迷惑かけてしまうんじゃない?
そうなると恥ずかしいわ。
「じゃあ田上さんっ! 大文字山のお話聞きながらぁ、山岳会のご説明させていただきますねっ!」
これはもう、入会する体だわ。
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