夢の行方[12]
待ちに待った廃線ウォークの旅が始まる。
さあ! 行くよっ!!
ついに来た!
この日がやって来た!!
相変わらず無関心な両親の横で、3日分の着替えや化粧品を詰め込んだ登山用リュックを背負う。
忘れ物はないかな? 忘れてたら、どこかで買えばいいか。
京都駅9:01発の東京行のぞみ。
これに乗るため、8:45には改札口前に着けるように家を出る。
「行ってきます」
「気を付けて行ってらっしゃい」
声が聞こえたのは、お母さんだけ。それも形だけで、あんまり心がこもってない感じ。
まぁ、そんなもんだ。私は私で楽しむのみ。
休日の地下鉄は、通勤とは違って客層が若々しく元気。気のせいかな? 私が意気揚々としてるから、そう見えるんだろうか。
でも、普段着の若い人が目立つわね。
JRに乗り換えてひと駅。
京都駅に着くと、もうそこは外国? 兎に角多い外国人観光客の間を縫うように歩く。
とは言ってみたものの実際のところ、縫うようになんて歩けない。ただでも大きな荷物を背負ってるっていうのに、オマケにこの混雑。
人混みに紛れて…外国人に囲まれて、広いはずの通路を新幹線の連絡口に向かって進む。
大きな荷物を背負った背中。この荷物を人にぶつけないよう、周りへの気遣いは怠らない。私としては上出来かも。
売店やお弁当屋さんなどが並ぶ前を、焦る気持ちを抑えつつ、小股で歩いて行く。
新幹線乗り場の看板が見えてさえ、尚も真っ直ぐなんて歩けやしない。そんな事しようものなら、次々と人にぶつかってしまう。
これが国際観光都市・京都なんだわ。その威力を感じずにいられないわね。
「おはよう!」
「おはようございまーす!」
大きなリュックを満杯にして、山崎さんと藤野さんが手を挙げて迎えてくれた。
「歩果は?」
肝心の? 歩果が見当たらない。あれ?
「遠足だよ。おやつ買いに行ったよ」
「おやつ? 1人300円までですね」
「小学生だ。あっはっは!」
そこに…、
「ま〜い〜ちゃんっ!」
その背格好、その仕草。やっぱり小学生みたいだ。
「飴とチョコレート買ってきた。みんなの分ね」
そう言って配られたものは、非常食にも用いられる。この辺り、さすが山岳会だね。
8:59、東京行のぞみ80号は、定刻に12番のりばに滑り込んで来た。
そういえば私、新幹線だって殆ど乗る機会がない。村崎さんと夏川さんは、出張で東京へ行く事もあるようだけど、私達はまだそこまでの立場にはなっていないから。
地下鉄とは全く違う豪華な座席を見て、ワクワク感が加速する。これからこの特急電車での旅が始まるんだ。
9:01に発車した列車は、トンネルをひとつ抜けて私の住む町を掠め、もうひとつトンネルを潜って、早くも滋賀県を横断している。
名古屋までは、たったの35分で行ってしまうこの速さ。景色の流れる様に、内心圧倒されてしまった。
そんなドキドキな私をよそに、山崎さんと藤野さんは山の話で盛り上がっている様子。
歩果は隣で緊張する私を見て、ただニッコリ笑っている。
列車は名古屋を出ると、新横浜までノンストップ。今、どこを走ってるんだろう。
「田上さん。ほら」
前の席から藤野さんの頭が飛び出て、私の方に振り向くと、車窓左手を指差した。
「富士山だよ。いつか登りたいって言ってたよね」
大きい!!
日本最高峰の山は、裾野まで美しい。
「私、足が…」
そう言いかけると、歩果が言葉を遮った。
「登りたいよね、いつか。麻衣ちゃん、しっかりリハビリしなきゃ」
その声は、いつになく穏やかだった。
そして、少し笑うその表情には、どこか憂いのような様子が垣間見れた。
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次回「夢の行方[13]」
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