山に魅せられて[11]
大文字山火床へ。
少し短い文ですが、麻衣の想いがぎっしり詰まった回です。
心なしか足取りが軽くなった気がする。
後押し。そう、文字通り谷山先輩は、後から私の心を押し上げてくれた。
引き上げるのではなくて、押し上げる。
少なくともこの山道なら、それは凄くありがたく、安心感もある。
だけど険しい山なら、もし初心者が手を足を滑らせてしまったなら、押し上げてくれるベテラン登山家諸共谷底に落ちてしまうかもしれない。
現時点でそんな事を考える必要はないんだろうけど、ふとそんな事を思うと恐ろしくなってしまう。
やっぱり険しい山は、初心者には向かないんだ。
私は…
富士山なんか登れるんだろうか?
標高3776mもの高山。それはきっと、私にはまだ試練以外の何でもないんだろう。
そんな事を考えてみたりするけど、兎に角今はこの山道を登って行くのが楽しい。
正直なところ、胸が苦しい。
でも、この今を乗り越えて火床に辿り着いた時、私自身への新たな課題が生まれる。
今度はその課題を克服して、また新たに生まれる課題に挑戦する。
そうしたらきっと…。
きっと……。
身の程も知らずに口走った富士山への登頂も、夢ではなくなるんだろう。
「田上さん、もう少しだけ頑張って!」
今度は上から引き上げようとする声が聞こえてきた。
村崎マネージャーの声だ。
「ほら、みんな応援してるわ。もう少しよ!」
そして谷山先輩の、押し上げる声。
私は…、
私は今、職場の仲間という域を越えて、ハイキング仲間として先輩達から応援してもらっているんだ。
あと少し。
あと少し頑張れば……。
「わあっ!!」
一気に視界が開けた。
そこには、初めて見る景色。
広い、とても広いそれは、私達が働く街。
幾多もの人々が夢と憧れを抱いて訪れる、国際観光都市。
京都市。
これが、山に登らなければ見ることの出来ない京都の街の風景なんだ。
鴨川が流れる。
森が見える。糺の森即ち下鴨神社。
その右手に見える緑地は、京都府立植物園だって。
いいえ、もっと遠くまで望めるわ。
双眼鏡やなんかがあればはっきり確認出来るんだろう。
遠くは嵐山。
左手に目をやると、果ては大阪まで。
一生懸命歩いた道。
息を切らしながら登った坂道。
目の前に広がる景色は、刻一刻と移り変わっていく。
明日には、また違う彩を見せてくれる。
それは、山がくれた私達へのご褒美なんだ。
だから……。
もっといろんな山に登ってみたい。
心からそう感じたひととき。
アクセスありがとうございます。
次回、「山に魅せられて[12]
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