夢の行方[7]
大笑いする歩果。
一方で、夢乃さんの容体が気になるところよね。
「麻衣ちゃん、麻衣ちゃんが、麻衣ちゃんがランウェイ!? 面白〜い!! きゃっはっはっは」
「歩果…笑い事じゃないのよぉ」
そう。本当に笑えない事なの。
場合によってはあの碓氷峠廃線ウォークも、キャンセルしなきゃいけないかもしれない。
それだけは何としても避けたいんだけど、不安は募るばかり。気持ちが落ち着かなくて、ずっとソワソワしている私。
そんな私の横で、さっきからお腹抱えて笑いっぱなしの陽キャ女子。
「見てみたいわ! きゃははっ! 麻衣ちゃんがランウェイ歩くの、見てみたーい!」
いえいえ、そんなの見なくていい。というより、私がランウェイを歩くなんて事、天地がひっくり返ったってないはずだから。
「デザイナーさんがね、心配すんなって。言葉だけだから。お前を歩かせるなんてないからって仰ったの」
「それって…あははは…ディスられてるぅ」
うっ…、そ、それは…。
そうなのだ。ディスられてるのだよっ!
ふと歩果の表情が真面目になった。
「でも麻衣ちゃん、あんまり外で仕事の話しない方がよくね?」
―あ。
い、いや、そうなんだけど。ええ、そうね。
まぁその、何でしょ。急に仕事の方が慌ただしくなってきて、廃線ウォークに行けるかどうか心配になってきた。
そういう話の流れだったんだけど、どうも私、歩果と話すとそのペースに呑まれてしまうみたいで。
「歩果が根掘り葉掘り訊くからじゃん!」
「ほぉら、あたしのせいになったぁ! きゃはは」
そんなこんなで私の不安など、かくもそっちのけ。何を言っても「麻衣ちゃんなんかにランウェイ歩かせられないんだから」などと返されてしまう。
もう酷っ! さながら、某SNSのアンチコメントじゃないのさっ!!
「放射線療法での緩和治療になります。1ヶ月先なら、経過次第ではありますが、大丈夫かとは思います」
医師の説明によると、夢乃さんの病状は、ステージ4でもまだ限定的であって、今すぐどうなるとかでもなさそう。
そこには胸を撫で下ろしたいのだけど、ただ、やっぱり痛みは激しいのだろうと思うと、心中穏やかでいられる訳がない。
「事実、転移はしている訳だから安心して良いかと言うとね」
そう話す南条さんの表情は、やっぱり険しい。
例えば私達の立場で言えば、12月6日のショーでランウェイを歩いてくれればいいって事になるだろう。
だけど南条さんの立場になると、そんな程度のものじゃない。
出会った日からここまで、夢乃さんがミュージシャンとして成長していく様子をずっと見守り、或いは指導し、サポートし、共に歩んで来た。そんな仲間であり、大切な後輩。いいえ、きっと妹以上の存在なんだと思う。その心中は、私達なんかにはとても計り知れないものだ。
命が繋がらないのなら、せめて一番輝ける瞬間を。
そう思うのは、全く不思議でも何でもない当たり前の事だろう。
寧ろ特別なのは、そんな夢乃さんが輝くために、私達の洋服を選んでくださった事。
だから本当は、遊び呆けている場合じゃない。だけど…。
「打ち込みっぱなしじゃ、身も心も持たないわよ。趣味の時間も大切にしなきゃ」
なんて、まるでユウさんの言葉みたいだけど、これを夏川さんが言ってくださったの。
だから、歩果との廃線ウォークは絶対中止したくない。
私達は、夢乃さんが輝くために最高の衣料を用意するから、夢乃さんは、私達に安心と笑顔と希望をください。
どうか、1日でも長く元気でいてください。
あなたの元気な姿が、その歌声が、多くの人々を幸せにしているのだから、ね。
アクセスありがとうございます。
次回「夢の行方[8]」
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