夢の行方[6]
誰かを輝かせたい。そんな夢を持って、私はこの業界に入った。
スポーツは、自分が輝くために頑張る。だけど、輝けるのはほんのひと握り。
それは、ミュージシャンやモデルさんだって同じだろう。
だけど、その輝きが失われた時、人はどう生きていけばいいの?
夢を手にした時、そこから先に何を求めればいいの?
もっと言うならば、輝けずにその道を諦める人もいる。その方が多いはずで、それでも人は夢を追わなきゃ生きていけない。
「田上は私と同じ匂いがする」
それは、私がトップス部門に配属された時の事。宮地さんが言ったのは、そんな言葉だった。
私は高校時代、同級生の久松美咲の服装を華やかにしてあげたい一心で、本を見ながら1枚のTシャツを縫い上げた。
華のある女子なのに服装が今ひとつだった美咲。彼女はもっと華やかな服を着るべき人だと思ったし、なんなら私が彼女を飾ってあげたいと思った。
それは、私をこの道へ導いた「人を華やかに輝かせたい」という想いの表れだった。
才能があると言われた陸上競技を捨て、自分が輝くよりも誰かを輝かせるための道を選んだんだ。
今、宮地さんが必死の思いで成し遂げようとしている事。
それは、今まで煌びやかに輝いてきたその灯火が消えようとしている夢乃さんを、最後に誰よりも輝かせようとしている事。
「この道に入ってくる人の想いだって、人それぞれなのよ。誰かを輝かせたいとか、誰にも愛される衣服を作りたいとか、自分がトレンドをリードしたいとかね」
村崎さんは、私にそんな事を教えてくれた。
じゃあ、私の仕事仲間を当てはめたら?
ユウさんは、愛される衣服を作りたい人。磐田さんもそう。夏川さんは、リードしたい人だ。
村崎さんはユウさんと同じだと思う。
そして、宮地さんと私は…。もう疑う余地もない。誰かを輝かせたいがために、この仕事を頑張っている。
私は、宮地さんと同じ方向を向いているんだ。
だから、だから私は、夢乃さんの奇跡に賭けたい。
「夢乃さんは、きっと奇跡を起こします。信じてるんです」
広報部長は、鼻で笑った。
「そんなねぇ、夢物語聞きたいんじゃないんだよ」
聞きたくないんだ。
この会社には、皆、何らかの夢を抱いて入社している。そんな、一人ひとり大切にしているものを、この人は、否定とまでは言わないにしても、最早どうでもいい話だと思ってるんだ。
広報って、何をする人?
夢物語に耳を傾けないのなら、お客様に何をどうアピールするの?
「素敵な洋服でしょう」
そのひと言だけでも、その一着を手に取る人は、その服を着た自分を想像し、着飾って外出するシーンを夢見る。
そんな、そんな小さな幸せさえも想像できない人が、一体何を思いながら私達の作った服を宣伝するのだろう。
「じゃあ田上。やっぱりアンタがランウェイを歩け」
な、何ですと?
「広報部長。それで良いのですね?」
「な、何を…」
この広報部長の反応も微妙だけど、でも…。
「悪いけど、今回は小羽ちゃんには降りてもらったんですよ。お互い納得の上で。夢乃の現況を話したら、心良く交代を受けてくれたんですよ。だから、小羽ちゃんの採寸もしてないし」
「夢乃さんに似たサイズ感なら、田上さんしか居ないわね」
夏川さんも参戦して来た。
この2人がタッグを組むと、もう誰も止められない。手が着けられないとは、まさにこの事なんだろう。
広報部長は「はい」とも「いいえ」とも言わず、ただ険しい表情で何度も何度も私達を見ていた。
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