夢の行方[3]
大きな仕事も目処がついて、私もホッと一息。
なんてしていられない。早く、早くベルグへ行かねば。
歩果からの電話。何の話なんだろう。そればかりが気になって、地下鉄に乗り込んだ。
通い慣れたと言ってもいいんだろう。見慣れた駅の風景。階段を駆け上がり、大きな建物を横目に大通りへ。
そしてあの、重いドアを押し開ける。
「いらっしゃいませ〜」
その奥から聴こえる、アニメチックヴォイス。今日はお店に居てくれているんだという安堵感と、今日はどんな話をしてくれるんだろうという期待感。
きっとそれだけじゃない、何か特別な感情までをも抱き、私はあの高級アウトドアチェアーに腰掛けた。
「待ってたよ、麻衣ちゃん」
「何よぉ、何かワクワクするじゃん。何の話よ?」
歩果は少し溜めてから、またあの悪戯っぽい目で私を見た。
「男よ、オ・ト・コ」
「はあ!?」
「男からの誘いよ。うふふっ」
な、何何? どういう事?
「その、男です。あっはっは」
「何だぁ、藤野さんかぁ」
「あら、つれないわねぇ」
藤野さんからの誘いって、何?
「今度ね、僕がリーダーとして、山崎さんと市川さんと一緒に妙義山に登るんですよ」
「妙義山って?」
「群馬県」
「遠っ」
その妙義山って、どんな山なんだろう。
九州の耶馬溪、小豆島の寒霞渓と並んで、日本三大奇景に選定される山で、赤城山、榛名山と並ぶ上尾三山のひとつ。日本二百名山にも選定されているという。
「それで、何で私?」
「あたしが一緒に行きたいって言ったの」
「歩果が? で、その妙義山に登るって事?」
歩果は少し笑って、誤魔化すような素振りをした。誤魔化さなくたっていい。そもそも私、妙義山の事なんて知らないんだから。
「歩果ちゃんはね、別に行きたい所があるんだって」
「あれ? 山に登るんじゃないの?」
「登山とは違うわ。歩くけど」
登山…いいえ、私のレベルならハイキング。
そのハイキングで、私の左足は痛みを覚えた。だけど今現在、山行を諦めたわけではない。
歩果はそこを気遣って、所謂「山登り」とは異なるハイキングを提案してくれた。
鉄道廃線跡を歩く。
でも、何でそんな遠い所に?
「廃線跡だったら兵庫県にもあるんだけど、あそこは結構な急坂だから、ちょっと山っぽいの」
「そんな、勝手に歩いていいの?」
「何言ってんの。イベントよ。鉄道会社がやってるイベント」
「そうそう。調査も兼ねてって事になるんだけど、もし面白かったらうちの山岳会でも参加者募って、グループで申し込むのも良いかなって」
つまり、私達は偵察隊みたいなもの?
「違うよ。これはあたしが行きたいから申し込んだの。2人で申し込んだんだけど、相方はやっぱり麻衣ちゃんかなぁ…なんてね」
うっ、嬉しいじゃん! 数多いる山岳会メンバーの中から、私を選んでくれたのね。
「だって、ユウさんはお仕事忙しそうだし…」
「そうなんだ。そう…へ? 何で私と一緒の仕事なのに、ユウさんだけ忙しいの?」
「うふっ♪」
「あ、此奴うっ!!」
「きゃはははは!」
ともあれ、この楽しげなイベントへの参加。歩果がその相方に私を選んでくれた事は、私にとっては夢のような話。
たまたま藤野さん達の山行日と重なったので、藤野さんからの声かけで私達も車に同乗させてもらい、安中までの道中をご一緒させてもらう事になったという流れ。
―だからオトコからのお誘いかぁ。あはは!
でも、歩果はどこでそんなイベントの事を知ったのだろう。わざわざこの遠い地でのイベントに参加する事に、歩果はどんな意味を感じているのだろう。
歩果からのお誘い。
藤野さんからのお誘いでもあるのね。
これは麻衣にとって、めちゃめちゃ嬉しい案件じゃない?
アクセスありがとうございます。
次回「夢の行方[4]」
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