夢の行方[2]
仕事が捗り、充実していく。
一方で、麻衣の私生活はどうなのかしら?
「宮地さんとは、話ついてるから」
夏川さんはそう言うと、デスクに戻った。私はユウさんと顔を見合わせて、互いに頷いた。
それこそ短納期だ。でも持ち帰らない。宮地さんが寸法を決定すれば、すぐにでも型紙を切る用意は出来ている。
「磐田さん〜」
「はいっ!」
「生地は発注かけたから、明日入ります」
「え? ええ? 私、発注準備しなきゃって…」
「もう発注しました。アンタ使えないから」
ひゃあっ! まただわ! 宮地さん、いつもひと言多いから揉めるんじゃない!
あれ?
「拗ねちゃった? 気にしない気にしない。型紙出来たら、布切るのは磐田さん、あなたよ」
「でもぉ…使えないなんて」
「あなたねぇ、そんなひと言で拗ねてたら、私はどうなるのよ!」
夏川さん、単純な言葉なのにすごい説得力!
「そ、そうですね」
―という返事もどうなんだろうとは思うけど。
―BOOM…
「は、はいっ! あ、ごめぇ〜ん。今日、たぶん残業になるわ」
『分かった。急がないから、近々…』
「それって急いでんじゃん」
『そうとも言うっ』
何々? 気になるじゃない!
「田上さん! 集中して」
「いえ、寸法決まってから…」
「悪りぃ」
「大丈夫です。残業はします」
「しなくていい。ほら」
―残業よ! だってもう3時じゃん!
「急げ! ノーミス! 集中!」
「はいっ!」
何だかんだ言って私も腕を上げたとは思うけど、さすがに残業なしでは無理だった。
朝、若干の疲れを引きずりながら、成し遂げた事に対する満足感を持って職場のドアを開けた。
今日は生地が届く。これで磐田さんにバトンタッチだ。
磐田さんだって、集中すれば器用に仕事をこなすのだから、スマホの電源は落としておいてもらいたい。
余計なエゴサーチなんかされたら、作業もやりづらいから。
「あれ? え? 宮地さん。生地間違えてる?」
「大丈夫。合ってるわ」
「合ってるって、夏川さん…ワンピでしょ?」
「いいからすぐ切って!」
届いたのは、ヴィンテージ・コットン。カラーはベージュ。
「これって…これでワンピ?」
「ごちゃごちゃ言わないの。作り手が仕上がりを知らずにやるのも面白いでしょ?」
知らないのは磐田さんだけ。私達はみんな知っている。磐田さんは、話してる時もSNSばっかり見てるから…ね!
「急いで! ノーミス! 集中!」
「は、はい…」
「頑張って。縫製担当のワタクシ谷山が待っておりますわよ」
「プレッシャーかけないでぇ〜」
何か、いい雰囲気だわ。この職場でここまで団結したの、初めてかもしれない。
そして、こんな繊細な仕事をする人達。私は置いといて、みんな集中すれば本当に凄い。
ユウさんに手渡された各パーツは、気忙しく音を立てて上下する針がどんどん縫い進めていき、そして形になっていく。
あの美しい曲線も、大人っぽさを演出するフリルも、夏川さんのデザインそのまま。
されど元々とは用途の違う衣服に組み上がっていく。
「完了!」
ユウさんは声を上げて、それを傍にあったボディに着せて見せた。
「うわぁ〜」
「さすがだわ、宮地さん」
夏川さんは、目を潤ませてそれを眺めた。
ボディに着せてあったのは、宮地さんのデザインで製作したブラウス。
アイボリー単色の生地で縫い上げたそれは、単色なのに和柄。
そう言うと変に聞こえるけど、ブラウスを構成する各パーツが、どこか「和」をイメージさせる。まさしく京都生まれの洋服だ。
そしてその上に着せたのは、元は夏川さんデザインのワンピース。
これをベースに生地からサイズ感までを見直し、ブラウスとのレイヤーで大人可愛さを醸し出すアウターに生まれ変わっていた。
「ショーでは絶対好評なはず。何ならもう、予約受付の準備もする?」
「やりましょうよ!」
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次回「夢の行方[3]」
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