頂へ[11]
登り最大の難関に挑むパーティ。
誰もが易々とクリア出来る訳ではありません。
だけど、引き返す事も出来ない。
頑張れ!
立ち往生していた先行者が、足を滑らせた。
この様子を目の当たりにした亮お兄ちゃんは、次に踏み出すはずの足がすくんでしまい、先へと進めない。
「岡崎君! 大丈夫だ! あの人は無事に進み始めた。行くぞ!」
「どうした!? 行くしかないぞ! 行けるって言ったじゃないか!!」
そう、行くしかないんだ。引き返す事なんて、ここに居ればもう不可能。
そうじゃない。全てを賭けてここまで来たのだから、ここからも全てを賭けて前に進まなきゃいけないんだ。
亮お兄ちゃんは、全身に力を込めるように返事した。
「はいっ!!!」
手がかりを掴み、足がかりを探し、そして足をかける。
亮お兄ちゃんは、ようやく進み始めた。
「いいぞ、岡崎君! 上を見ろ。あと少しだ」
しかし、山頂まであと10mもないかと思われたが、今度は尚哉に異変が表れた。
待機していた場所の足がかりが悪く、足首辺りが著しく疲労していた。
―ヤベ…。足の感覚がねぇや。
「尚哉! 大丈夫。ゆっくりでいいからな」
「分かってんだけど、足が痺れてんだよ。感覚が…」
無理な体勢で待機してきたのが災いして、足がジンジンしている。こんな状態で次の足がかりへ進めるんだろうか。
ただずり落ちない事のみを確認しながら、少しずつ少しずつ上へと進む。
「生田君! 感覚がないのは危険だ。両手と、痺れていない方の足で3点支持だ。それで痺れている足を一旦休めて」
「分かりました」
市川さんからの指示に、尚哉は右足をダラリと下げた。両手と左足で体を支えて岩に張り付き、少し時間を置いた。
「後から来る人は? 渋滞してないっすか?」
「それは考えなくていい。自分が行けると思うまで休めろ」
その刹那、体を支えている左足が滑った。
「うあっ!!」
尚哉はバランスを崩し、鎖に掴まって宙ぶらりんになった。
辛くも滑落を免れたが、全体重が腕を強烈に引っ張る。
肘を伸ばし切ってしまえば脱臼の危険もあるため、持てる腕力を信じて体を支える。この瞬間にとんでもない程の筋力を使ってしまい、腕の筋肉がつりそうになる。それはまるで、悲鳴を上げているようだ。
「生田君!」
「大丈夫です! 足の痺れが取れたんで、進めます」
「よし! 頑張れ!」
「ぉぉおおおおあああーーっ!!!」
ボルダリングでトレーニングを積み重ね、相当の筋力と共に柔軟さを身に付けた尚哉は、廻天之力の如く一気に体を立て直した。
これには、市川さんと山崎さんも驚いた。その身のこなしは、一見疲れを感じさせない程の軽快さだった。
ただ、その様子とは裏腹に疲れてきているのは事実。さっきの渋滞で手がかりを掴んだままだった両手は、気付かないうちに握力を失いつつあった。
「あとどれくらいっすか?」
「10mを切ったぞ」
「よしっ!!」
一方、この時の亮お兄ちゃんは、前回の失敗からのトラウマを克服したのか、ひとまわり、いいえ、ふたまわりぐらい大きく成長していたと思う。
恐怖心を拭えないのは仕方ないけど、それをバネにして飛躍する。いつしかそんな術を身に付けていたんだろう。
尚哉とのコンビネーションも、絶妙とは言わないまでもとてもいい状態だった。
精神面で少し劣っていた亮お兄ちゃん。
体力面で少し劣っていた尚哉。
互いに檄を飛ばしながら高め合い、足りない部分を補い合いながらここまで来た。
全てはこの登山に向けて、競い合うように鍛錬を続けてきた。
言わば、剱岳登頂は、2人にとって人生の一大目標だったんだ。
あと10歩!
あと5歩!
そして……。
「「おおおおおーーーーーっ!!!」」
雄叫びがこだました!!
尚哉は、
亮お兄ちゃんは、
京都ベルグ山岳会パーティ4人は、
現地ガイドの筒井さんと共に、難易度日本最高峰・剱岳。その頂に立った。
京都ベルグ山岳会、剱岳登頂成功!!
ついに頂へ。
私が登ったのではないけど、雄叫びを上げたくなります。
アクセスありがとうございます。
次回「頂へ[12]
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