表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/117

頂へ[9]

岩稜帯。

パーティはいくつもの鎖場をこなし、頂を目指す。

そこに待ち受ける難関の数々。

「ここから鎖場だ。筒井さんに先行してもらうから、よく見て」


 市川さんの言葉に頷くと、尚哉と亮お兄ちゃんは筒井さんのテクニックをじっくり見た。

 見逃したって、「もう一度」なんて事は不可能。筒井さんだって、ゆっくり登ってくれている。その動きを、今度は自らが実践しなければならない。

 鎖の使い方、足の運び、バランスの取り方など、今まさに挑まんとする岩場へのアタックに必要な技術が、これでもかと言わんばかりに2人に向けて披露される。

 危険箇所とは言うけど、筒井さんは危なげなく安定した登攀(とうはん)をこなしていく。


「岡崎君!」

「はいっ!」


 筒井さんに続いて、亮お兄ちゃんが挑む。

 鎖を掴んだ手が強張る。


「鎖に頼りきってしまうと越えられないぞ」

「3点支持だよ。片手で鎖、片手で手がかりを探して、足は片足ずつ岩にかけて」


 言われる通りにしたい。だけど、実際に岩に張り付くと、どこに足をかければいいのかさえ分からなくなる。


「僕が行ったのと同じじゃなくていい。自分でかけられる場所に足をかけて! そうだ! その調子」


 亮お兄ちゃんが、この鎖場をクリアした。だけどここに来て、尚哉が痛恨のミスをした。


「うあっ!」

「大丈夫か?」


 足を岩に上手くかけれず、踏み外してしまった。この一瞬のミスで尚哉に恐怖心が生まれて、鎖を鷲掴みにしてしまった。


「まずは足がかかる所を探せ!」

「よし! その足に重心を置いて、手がかりを探すんだ」

「片手を放して! 手がかりを探せ!」

「あ、あぁ…」

「片手を放せ! でないと進めないぞ!!」


 苦しい。恐怖心と腕への負荷に、尚哉は顔を歪める。


「片手を放せ! 手がかりを探すんだ!!」

「う、うぉああああーっ!!」

「いいぞ! 岩にかけた手と足で進め。鎖に頼るなよ!」

「よおーし!!」


 剱岳登山における鎖場としては、まだ短いとされる5番鎖場をクリアした。


「今のが“前剱の門”だ」

「橋の方が怖かったっすね」

「何を〜、コイツう」

 ―あっはっは!


 しかし、笑ったのも束の間…、


「またかよぉ!」

「6番鎖場だよ。この辺りはもう岩稜帯だから、頑張るしかないね」

「行けんだろ、亮」

「何だよ尚哉! 俺はお前みたく踏み外したりしないぞ」

「うるせ! はっはっは」



 前剱から剱岳を眺めると、何とも雄々しい容姿を持つ岩峰である事が分かる。

 剱岳を制するという事は、天を切り裂くかの如く鋭く尖ったあの岩峰を制する事。これから待ち受ける、さらなる高難易度のセクションに、尚哉と亮お兄ちゃんは不安を拭いきれないまま、それでも登頂への意欲を露わにしていた。


「ここまでの鎖場は、ウォーミングアップだ。カニのタテバイ、ヨコバイ。こいつらを攻略しなきゃ、登頂出来ないからね」


 容赦なく続く鎖場を必死の思いでクリアしながら、意気込みとは裏腹に体力を消耗していく。

 傾斜もかなり急となり、高度感も上がる。即ち、恐怖心がどんどん高まっていく。

 6番、7番鎖場や、“平蔵の頭”と呼ばれる大岩周辺では、手がかり足がかりのポイントも限られてくる。



「ゆっくりでいい。手足をしっかりかけて、鎖は補助と思え!」

「下を見るな! 手足に集中しろ!」

「下を見るな! 亮! 下を見るな!」


 亮お兄ちゃんは、恐怖のあまり下を見てしまった。恐ろしい高度感に、心拍数が上がる。


「岡崎君! 僕を見て! ほら!」


 筒井さんが、亮お兄ちゃんを呼んだ。亮お兄ちゃんは、筒井さんを目標物と捉えて再び進み始めた。


「そうだ! 僕に向かって来るんだ!」

「尚哉は?」

「俺は心配要らん。山崎さんと市川さんが後から来てるから」

「おうっ!」


 鎖場。立ちはだかる岩の壁は、いよいよ本番と言われる“カニのタテバイ”へとステージを変える。

 その様子を目の当たりにした2人から、思わず唸るような声が溢れ出た。


「おお…」

「う、ううっ…」

アクセスありがとうございます。

次回「頂へ[10]」

更新は、X または Instagram にて告知致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ