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頂へ[8]

山荘で一泊後、いよいよ激アツの剱岳アタックです!

皆さんも、心で一緒に登りましょう!!

 月明かりだけが大地を微かに浮かび上がらせる。

 山の夜。山荘のドアを開け、外の世界に目をやれば、そこはさながら異次元空間。

 まだ明けやらぬ空を仰ぎ見れば、はるか東の彼方から徐々に白んでくる事に気付く。

 登山家の朝は早い。


 徐々に立体感を取り戻す山々の情景を横目に、尚哉達もせっせと準備を始める。


「行くぞ!

「おーっ!!」


 山荘から用意してもらった弁当をザックに詰め込み、両手にトレッキングポールを握ると、5人はまた道とも言えない道を歩き出した。


 剱岳山頂へのアタック。いよいよその日がやって来た。


 まずは一服剱(いっぷくつるぎ)へ向けて、ジグザグに折れ曲がる登山道を進む。周囲にはハイマツが群生していたりと、目に映る景色は美しい。だけど…。


「ガレを通るぞ。足元気をつけろ」


 小石浮石の多い、歩きづらい道。足を取られてしまえば怪我の元になる。一歩一歩、ゆっくり確かめながら踏み出して行く。


「寒いっすねぇ」

「だね。この時期に来て雪渓も見れるぐらいだから、今年は平均気温も低めなのかもね」


 例年、8月末辺りでは雪もほぼ溶けてしまい、残雪は小規模でまばらだ。

 だけど、今回はちょっと違うみたい。高山帯でのみ見られる絶景に、白い雪が彩りを添えていた。

 9月に入れば平均気温は6.5℃前後まで下がると言われるけど、この時はもう少し冷え込んでいると思われた。


「すぐに温まるさ。というより、汗を冷やさないようにしなきゃな」

「他のパーティより早めに出たけど、場合によってはカニのタテバイで渋滞するかもしれん。待ってる間、しっかり体温キープだよ」


 そんな会話も、日が登れば心のどこかに仕舞い込んでしまう。歩く程に体は熱くなり、汗が流れ出す。

 それは、比較的傾斜の緩やかなこの道であっても。


「ひゃあ…、ホント、足取られるなぁ」

「変に汗かいちゃうよな」


 3番鎖場と呼ばれる鎖場を、大岩を横目に進む。

 そして、標高2618m、登山道の途中にあるピーク、一服剱に到る。

 ここから前剱、さらには剱岳山頂に向けて、岩場が多くなってくる。尚哉は素早く亮お兄ちゃんの異変に気付いた。


「怖いか?」

「怖くないって言えば嘘だ」


 ベテラン3人も、心配そうに亮お兄ちゃんの顔を見た。


「無理だと思うなら、早く言うんだ」

「引き返すのも勇気ってな」

「いえ…」


 さらにこの状態の亮お兄ちゃんに対し、百戦錬磨のベテラン登山家、ガイドの筒井さんは厳しい言葉を投げ付けた。


「山を舐めるな! ビビってるなら下りろ!」


 ここから先には、多くの危険が潜んでいる。生半可な技術ではこなせない難所が控えているし、それだけじゃなくて、険しければ険しい程に落石などの災害級リスクが伴う。


 中途半端な気持ちで挑むのなら、最悪の事態も免れない。大自然がひとたび牙を向けば、それこそ命に関わる。


 だから…、だから…、


「亮、行けるんだろ? なぁ、落石なんて怖くねえんだろ? 亮…」


 亮お兄ちゃんは、尚哉の言葉に目を大きく見開いた。尚哉の顔を、山崎さんの顔を、市川さんの顔を、そして筒井さんの顔を順に見て、やがて立ち上がった。


「尚哉…、俺なぁ」


 尚哉は亮お兄ちゃんを見て頷いた。


「行けるんだよ! 俺、山頂まで行けるんすよ!!」


 亮お兄ちゃん…。

 頑張れっ!


 亮お兄ちゃんは、今この場で過去のトラウマを、そして立ちはだかる恐怖心という名の壁を打ち破って、また歩き始めた。

 だけど、さらにその先、未知の領域に控える難関は、尚哉と亮お兄ちゃんを容赦なく苦しめた。

アクセスありがとうございます。

次回「頂へ[9]」

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