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幼馴染がモテるのに協力してあげると言ってきたけど俺が好きなのはお前なんだ。

作者: 水餅

高二になって甲己には彼女がいなかった。

好きな人がいないからか、いや、年頃らしくしっかりといる。

ただ想いを伝えられていないのだ。


甲己の好きな相手は幼馴染で隣の家に住む

田中たなか さきだった。


少し癖のある肩ほどまでのミディアムヘア。

昔から勝気だけど、さっぱりした性格の持ち主で

小さい頃、甲己は彼女を男だと思っていたことがある。

だけど、今では可愛く成長し時折見せる、女の子らしい仕草に

彼は何度となくどきっとさせられていた。


では何故、彼は相手に気持ちを伝えないのか?



ホームルームを終えて、みんなが部活に行ったり

家に帰ったりするなかで、彼は教室で一人うなっていた。


(今日も告白できなかったっ!!)


彼は咲に告白する事ができず、毎日のようにうなっている。

機会はあった、気持ちもある、だけど彼には勇気が足りなかった。


幼馴染だから気心が知れて伝えやすいなんて言う人もいるかもしれない。

しかし、彼に言わせれば、


(幼馴染というのが良くない。隣同士だからお互いの家族を知っていて

 もし失敗したら、顔を合わせるたびに振られたことを思い出してしまう。

 あいつは笑ったりなんてしないだろうけど。俺の心がもたねえよ!!)

 

相手が幼馴染でなければ、数年気まずい思いをするぐらい。

卒業すればもう会わなくなる可能性もある。

だけど、幼馴染は違う。きっと振られた先も関係は続く。

二人はもう十年以上も腐れ縁の関係なのだから。


甲己は、いっそ幼馴染でなければと思うことすらあった。


「甲己、皆帰ってるのに一人でどうしたの?」


彼がうなっていると、離れたクラスから見咎めたのか

当の咲本人が声をかけてきた。


「おう、いやちょっと考え事をだな」


急に話しかけられて面食らったものの

あわあわするのは格好悪いと、甲己は内心の動揺を押さえ込む。


「ふーん、ならいいけど。なら、今日一緒に帰らない?」


思わぬ誘いに甲己は自分でも舞い上がりかけたのが分かった。

もしかしたら相手も俺のことが好きなのか、とも思ってしまう。

だけど、だけど。彼は浮かれる気持ちを再度押さえ込む。


(いや、俺のことより、何か用事や相談でもあるのかもしれんな)


そう思って甲己は咲に言う。


「ああ、いいよ。ならすぐに行くか? 用事があるなら待つけど」


「ううん、大丈夫。じゃあ、ちょっと待ってて」


カバンでも取りに行ったのだろうと当たりをつけながら、甲己が考える。


(これは告白するチャンスなのか!?)


その後、お待たせと戻ってきた咲に急かされるまま校舎を出たのであった。


帰りながら、他愛のない話が続く。

クラスメートの話題、授業やテストのこと。

咲の様子を伺いながら、彼は相槌を打っていく。


「そうだ!」


思い出したかのように咲が声をあげる。

それに対して、やっぱり用事があったのだと甲己は解した。


「甲己、あんたさ、好きな人って……いる?」


「えっ?」


それは彼には思いもよらぬ質問だった。


(まさか好きな男ができて、その相談だったのか……?)


甲己はきゅうっと胸が痛くなるのを覚える。

けれど、そんな気持ちはおくびにも出さずに応えようとする。


「ああいや……どうしたんだ? 好きな男でもできたのか?」


「あたしの事はいいから、あんたに好きな人がいるか答えて!」


甲己は咲の返答に少し胸がほっとした。

そして、少し考えて答える。


「……好きな人いるよ」


甲己はお前、と最後に付けることができなかった。


「そう……好きな人いるんだ。告白したの?」


「してない、自信がない」


「すればいいのに、他の相手を好きになってたら、もうチャンスないんだよ?」


他の相手を好きになっていたら。

その言葉に甲己はざわつくものを覚える。

彼自身、咲の言葉は正しいとも思った。


口をつぐんでいる甲己に咲が胸を叩いて言う。


「じゃあ、あたしがあんたに彼女ができるよう協力してあげる!」


「協力?」


いぶかしげな顔で甲己が先に聞くと、


「つまるところ、あんたは自分に自信がないから告白できない。そういうことでしょ?」


「まあ…………そうだな」


「だから、あたしが自信をつけられるよう協力してあげるの」


甲己は良い申し出だと思った。

接点が増えれば仲を深めるチャンスかもしれないと。


(会う回数が増えれば、親近感や親しみを感じやすいって物の本に書いてあったしな」


「なら、お願い……するよ」


「よく言ったわ! あたしが絶対あんたの恋を成就させて見せるから!」


そう咲が宣言して協力関係が結ばれる。

それから、二人は家まで同じ道のりを歩く。


甲己は思う。


思えば行くとき帰るとき、いつも同じ道だった

もし、この機会をものにできなければ

その道のりが終わってしまうのかもしれないと。


程なくして、二人は両方の家の前に着く。


「じゃあ、準備できたらあたしがそっちにいくから」


「分かった。茶でも入れて待ってるよ」


甲己は家に入ってから、すぐにその他諸々の所用を済ませる。

そうして、床掃除用ワイパーを持って二階の自室に向かった。


(幸運にも、最近掃除を済ませたばかりだ。

 だから、簡単に埃を取るだけでいいだろう)


床を、机の上をふき取り、散らかっている漫画を本棚に戻す。

咲が彼の部屋に入るのは今回が初めてではなかったが

それでも想う相手を、自分の部屋に入れるのは十分に緊張するものであった。


「あ、しっかり掃除してくれたんだ~。感心、感心」


「まあ、お客さんを入れるからな」


甲己には、掃除したことを誇示するつもりはなかったが

やはり、相手には分かるものらしい。


「良かった。そんな気遣いもしていないなら、最初は説教するところよ。デリカシーないってね」


そう言うと、咲は用意してあったお茶に口をつけた。

女の子の感性に詳しいわけではない甲己は及第点をもらえたことにほっとする。


「じゃあ、さっそく聞くが好きな相手に振り向いてもらうにはどうすればいいと思う?」

(特にお前に振り向いてもらう方法。これが一番知りたい)


甲己の質問に咲は目を閉じて、間を空けてから答えた。


「うーん、あんたは私に誰が好きかを言うつもりはないわよね? だから、一般論になるわ」


「一般論というと?」


「格好いい、頭がいい、運動ができる。この三つが大項目ね。そこから立ち振る舞い、雰囲気、話し方などの小項目よ」


「言われると必要だというのは分かるけど……多いな」


甲己からすれば最初の三つは得心がいった。

しかし、後の項目はどうなのか。


「こういう話を聞いたことない? 女は相手を加点式で評価するって。だからアピールポイントがあればあるだけいいの」


「なるほど……」


「例えば、女の子の前でもじもじするのは減点要素ね。幸い、あんたはそういう事ないみたいだけど」


「そりゃあ、幼馴染だからな」


「あたし以外ともよ」


それから甲己は咲が教えるモテの技を学び取っていく。


(この方法で咲を振り向かせられるといいんだがなあ)


明日から教えられた様々なアピール方法を試そうと思いながら。


咲が甲己の部屋にいたのは一時間と少しのことであった。

ほかに達成するよう言われた方法を彼は思い返す。


テストでなるべく良い点を取れ。

普段から動けるようトレーニングしておく。

顔は持って生まれるものだから、素材を活かすように。


私はあんたの顔嫌いじゃないから

今のままでもいいと思うけどね、と。


甲己は教えを実践すべく

どれから手をつけるか考える。


「勉強……は後回しにして、筋トレから始めるか」


床に手をつけ、腕立て伏せから始めていく。

そうして思った。

これで成果を出せたら、あいつは、咲は、俺の事を気になってくれるのだろうかと。




甲己の家から帰ってきた咲は部屋に戻るなり自室のベッドへ倒れこむ。


憎からず思っていた相手に好きな人ができたという事実。

まるで一人だけ置いていかれたようなさびしさが胸に去来していたのだ。


「好きな相手って誰だったんだろう……」


仰向けに天井を見ながら咲は一人つぶやいた、

甲己を応援したのは相手が誰かを知りたかったからではない。


自分の恋が実ることなく破れて、もう振り向いてくれるチャンスがないというなら

せめて甲己の恋が実って欲しいと思ったのだ。


しかし、思いとは裏腹に、そう割り切ることは彼女にはなかなか難しかった。

咲の中で、小さな頃から積んできた彼とのやり取りが思い浮かぶ。

あの時こうしていれば、もっと前に聞いていたら。

とりとめない考えが浮かんでは消えていく。


「馬鹿……」


行き場のない高ぶった感情の矛先を探すように

咲はここにはいない相手をなじる。


(違う、違う。本当に馬鹿なのはあたしだ……)


彼女は口に出したそれをすぐに否定した。

そうでないことは彼女自身が一番よく分かっているから。


幼いころから隣にいて

一番身近な異性で仲も良かった

時間は有り余るほどあったのだ。


その機会をみすみす見逃したのは自分。

幼馴染という立場にあぐらをかいていた自分。


結局、悲しい、悔しいという感情が咲自身に突き刺さる。

次いで一筋、二筋、涙がツーっとこぼれ落ちた。


(もう、取り返しがつかないわよね……)


未練だなと思いながら

彼女は家族に心配は掛けたくないと泣きはらした顔を洗う。


咲が鏡に映った自分の顔を見る。

涙の後は消えているが顔はくしゃくしゃのままだ。

友人たちに快活なと言われる面立ちは陰も形もない。


「あたし、あいつと会っても平常心でいられるのかな……?」


そう、明日からの不安ををつぶやいて彼女は思い直す。


「こんなのは駄目。あいつとは友達。それには変わりないんだから」


気合を入れるように咲は両頬を左右の手で張った。


(絶対あいつを好きな女の子と結び付けてやる)


咲が気合を入れてから迎えた翌日。

登校するべく家を出た咲は甲己とばったりでくわす。

互いに挨拶をかわし、どちらからともなく連れ立って歩く。


歩きながら、どうやってこいつをモテるようにしてやろうかなどと考える咲。

そんなことはつゆ知らず、世間話に興じながら告白するチャンスを伺う甲己。


二人のもつれた綱がほぐれるのはそれから数ヵ月後のことであった。

そのとき咲は思わず、「馬鹿ーーーーーー!!」と叫んでしまいそうになったとか。



書いている最中に、女の子が諦めて彼氏をつくったあとに

告白させちゃえよと悪魔がささやきました。

そういう両方を曇らせるのがお好きな方は

ぜひ評価を頂けると色々はかどります。

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[一言] >「好きな相手って誰だったんだろう……」 お前じゃい!!
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