閑話6 エナミとサーヤの約束
本編からだいぶお待たせしました。どうぞ。
メリダダンジョンでのダンジョンブレイクからアルミナダンジョン国が落ち着きを取り戻し始めた二、三日後、サーヤ・ブルックスはブルックス家の屋敷にて、自室の鏡の前でメイド相手にファッションショーに明け暮れていた。
お付きのメイドは普段の冒険に明け暮れるサーヤがこんなにもソワソワしながらああでもないこうでもないと取っ替え引っ替え衣装を変えてるのを、着替えと片付けを手伝いながら楽しんでいた。
「これはどうかしら?」
「お似合いかと」
「これはどう?ちょっと私には似合わないかしら?」
「そんな事はございませんよ。そちらもよくお似合いです」
「……これだと、ちょっと大人び過ぎているかしら?」
「いえ、お嬢様の新しい魅力を引き出しています」
「あぁ、もう。本当にどうしたらのいいかしら!!」
「どれを着ていってもエナミ様はお幸せだと思いますよ?」
「本当に!?そうかしら?」
「はい、サーヤ様の溢れる魅力にメロメロでしょう」
ニコニコと笑うメイドはサーヤが幼少の頃より付き従ってきた為に、エナミ関連でいつもより感情豊かな彼女を孫の様な感情で見ていた。
サーヤは一通り試した後に自身が最も気に入っているコーデに決めた。その迷いながらも自信ありさげな様子をメイドは細かく問題無いか衣装とメイクをチェックしながら、お嬢様の成長を楽しんでいた。
「サーヤ様、無事整いました」
「ありがとう。では行ってくるわね」
「お気をつけて。楽しんで来てくださいね」
まるで何処かのダンジョンでフロアボスを倒さんばかりの意気込みで、握りこぶしを握るサーヤに頭を綺麗に下げてメイドは部屋から送り出した。
サーヤは家人に邪魔される事なく、屋敷を飛び出し門番に声をかけて出ていく。鼻歌でも歌いそうな位に上機嫌な彼女を見て、門番は今日も良い事がありそうだと笑顔で送り出していった。
今日は以前エナミと約束した史上最年少でのメリダダンジョン五十階攻略のお祝いで、1日彼とデートする予定だった。前にブルックス家の屋敷で夕食をエナミが食べに来た際にエナミとの約束話が家族みんなに知られてしまい、自分がワタワタしてるうちに、周りみんなに「それならちゃんとした所に行きなさい」と後押しをうけてしまい、こうして家族公認で二人で出かけられる機会を得る事になったのだ。
そうしてエナミとの待ち合わせをしていたカフェ「café torto」に約束の5分前に着いたサーヤは先に着いていたいつもとは違うエナミの姿に驚く。
以前窓口の後輩と二人でいた時に見かけたこざっぱりした格好とはまた違い、シックな装いで、確りと散髪した事が分かるくらいに前髪も目元にかかるような事も無く、何故か柔らかい輪郭の眼鏡をかけて店先で待っていた。
「サーヤ様、お早いお着きですね。いつもの冒険者スタイルと違う、その装いも良くお似合いですね」
「エナミさん、ご機嫌よう。貴方こそ早いんじゃない?それに貴方の格好からすると、私と会えるのを待ちきれなかったのかしら?」
「えぇ、勿論。今日はちゃんとしないとなって思って来ましたからね」
「!?まぁ、はっ、早く入りましょう」
「ご随意に」
誂うつもりが笑顔で逆に軽くあしらわれたサーヤは、眼鏡越しに見えるエナミの柔らかな瞳に吸い寄せられそうになるのを我慢して振り払うように店の中へと突き進む。
彼女はボーイに席を案内され、座る頃にはエナミにあしらわれた動揺は落ち着いていたものの、飲み物の注文後に周りの席の自分達を全く見ない様子に違和感を感じる。
「随分と気を利かせられてるのかしら?」
「サーヤ様、流石ですね。すぐに気がつくなんて。これはこの眼鏡のお陰ですよ」
「どういう事?」
「鑑定してもらっても良いですよ?」
「?」
サーヤはエナミに言われるまま、彼のかけている眼鏡に「アイテム鑑定」をかける。
鑑定結果
有り触れた眼鏡
そこそこ高い
(アルミナダンジョン国産)
この眼鏡には「視線排除」の魔法がかかっている。効果は残り1年。
「これって」
「サーヤ様はお気づきではないかもしれませんが、この国では有名人ですからね。何処で誰が見てるかも分からない所では気を付けないといけませんから。それに眼鏡をかけている時だけの効果なので、誰かが着ていたマントよりはだいぶ手頃ですしね」
「貴方……」
サーヤはエナミが何か言っているのを気にせず、それよりも「アイテム鑑定」のせいで自分がエナミの目をずっと見つめている事にはたと気が付く。
しかしその瞳の色が何故かタンザナイトの様に深い蒼だという事を確認すると羞恥心の前についつい彼に訊いてしまう。
「エナミさん、もしかして貴方普段は目に魔法でも使ってるの?」
「やっぱりすぐにバレますか。この眼鏡をかけると魔法を弾くので、その辺が不便というか、何と言うか…。まぁ、しょうがないんですけどね」
「何かあるの?」
「いえいえ、何も無いんですが。自分のこの目の色があまり好きでは無くて。小さい頃から特徴的なものはイジメの対象になりましたから、物心ついた時にはこの魔法が使えていたからいつも使ってたんです。」
「そうなの。私は良いと思うけど」
「ありがとうございます。これは二人の秘密という事で」
「秘密……」
いまだ傍から見たら、二人が見つめ合ってる事に気づく事無く、サーヤはボーッと彼の言葉にうっとりとし、別世界に行きそうになっていた。
ちょうどそのタイミングで二人の飲み物が届かなければ、そのまましばらく帰って来なかったかもしれないサーヤから目を放して、周りを見ながらエナミは話し始める。
「約束ってこんな事で良かったんですか?」「良いのよ、勢いで言ってみただけだし。貴方のプライベートに関心があったから。そっちの方がハードルが高かったんでしょう?」
「まぁ、本来はダンジョン攻略課の冒険者相談窓口の職員は担当冒険者とはプライベートでの接触は禁止されてますからね。こうして会うのも予め公に許可を取って、第一保安課の監視付きの接触って形なので、この位はいつでも出来ますけど。それに……」
「それに?」
「暫くしたら長期休暇を貰いますから。その間は他国に行くし、ダンジョン管理事務局も向こうではガチャガチャ言えないですし。久しぶりに何も気にせず過ごせそうですよ」
「あら、何処に行くの?」
「サーヤ様もご存知だと思いますが、メリダダンジョンはもうしばらく三十階以降は出入り禁止のままです。その間は私の担当冒険者もゴールドランク以上の人間もダンジョンには入りませんし、ゆっくりしてこいと上からのお誘いもあって、3ヶ月位、サイテカ連合国の東の端にあるリゾート地に行く事になったんですよ」
「3ヶ月リゾート……」
「はい、私の王立アカデミーの頃の知り合いもいますし、ダンジョンあるみたいだし楽しんできますね」
サーヤはエナミの穏やかに話す内容にゆっくりと何度か頷きながら、出された紅茶に口をつける。一口だけ口を濡らすと、笑顔で彼に告げる。
「私も行くわ」
「えっ!?」
「私も行くって言ったの。私もその間メリダダンジョンに入れないだけで時間が有り余ってるから、後はプラチナランクの冒険者の義務の所だけど、そこは貴方じゃなくて上の方とお話させてもらうわね」
「……本当に付いてくるんですか?」
「ええ、とても楽しそうだもの」
今日一番の笑顔でサーヤはエナミにハッキリと告げるのだった。
間章ここまで読むと分かると思いますが、第三章はラブコメ要素が少し多めだと思います。
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ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。




