表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/183

閑話5 グラハム・ランドールは笑う

 ランドール共和国に戻ったグラハム・ランドールはメアリー夫人が共和国に帰ってきたタイミングに合わせて、戴冠式を行った。


 一度出ていった本来は唾棄すべき存在である筈のグラハムに、然し国民は熱狂とともに歓迎の意を示し、戴冠式後に行われた大統領府での彼の演説はやはり10万人以上集め、後の語り草になるようにメディアも動いた。


 実際の所、メディアが動かずともこの演説は十分にランドール共和国内で語り草となるほど素晴らしく、内容も諳んじる吟遊詩人が物語の一部として夜な夜な酒場で披露するほどのものだった。


 グラハムがランドール共和国に帰還して初めに言った言葉は「捲土重来」と呼ぶに相応しく、この国をもう一度富める国に戻さんとする彼の姿勢に、国民は再び心酔した。


 ルーガードはわずかの間で臣民の心を手にした彼のカリスマ性に舌を巻きつつも、自身の立場の再構築に日々邁進していた。


 そんなランドール共和国内でのお互いの工作が一段落した頃、ルーガードの元にグラハムから呼び出しがあった。秘書からの呼び出しに大統領府の自身の執務室で働いていた彼は、ついに来たかとばかりに覚悟を決めて、グラハムの待つ、大統領府の屋上へと足を延ばした。


 大統領府の屋上はこの間の10万人以上の国民を集めた際にも演説台の代わりに使用されており、非常に見晴らしがよく、西の海岸線も東のアルミナダンジョン国に続く中央の国道も良く見渡せた。


 そこに向かう階段を一段一段ゆっくりと踏みしめながら、ルーガードは走馬燈のように自身の半生を思い返していた。その時に思い出す事が何故かようやく手にしたこの20年余りの栄華ではなく、幼少期の事ばかりだった事を何かの皮肉に思いながらも彼は屋上の扉に手を伸ばす。


 屋上の扉を開き、外の日差しの眩しさに目が慣れると、そこにはグラハムが一人で演説台を背にして立っていた。ルーガードはすぐに近づき、頭を下げる。


「お呼びと聞きまして、参上いたしました」

「早かったね、もう少しかかるかと思って、ここにしたんだけど。これなら執務室でも良かったかな?」

「お呼びとあらば、すぐに馳せ参じるのが臣下の勤めかと……」

「いやいや、君は国務会議の議長なんだから、そんなに立場に違いはないよ。それに20年余りの間にこのランドール共和国をここまで大きくしてくれたのは、君の力じゃないか」


 グラハムはぐるりと大統領府の屋上から首都トールタイプを見渡す。確かにそこには20年前グラハム家の亡命の時からははるかに繫栄した街並みがそこにはあった。


「勿体ないお言葉です。しかし閣下が居たら更なる繁栄もあり得たかと」

「そんな事は無いだろう。あの頃の私はこういう事は全く分かっていなかったからね。君等が成し遂げた事を誇るべきだ」


 真面目な顔でそう言うグラハムを顔を上げてつい見てしまうルーガードには驚きの表情があった。


 若かりし頃のグラハムは若き太陽と言うには十分過ぎるカリスマ性があったが、それ故に周りの意見に耳を貸す事や、自分の決断に失敗があった事を認めない面が見られた。


 それ故に彼の暴走を恐れて国務会議の議員や元老院ら周りが危惧して、ルーガードに協力して彼をアルミナダンジョン国に亡命に追いやった面が当時の背景にはある。


 全く違う、まさに周りが望んだ大統領ぜんたる眼の前男にルーガードは歪んだ笑みを見せる事すら出来なかった。


「……閣下は変わりましたな」

「そうか?まぁ、二十年以上アルミナダンジョン国に居たら、変わらざるを得ないさ」

「そんなにも彼の国は違いましたか?」

「あぁ、行ったら分かったが、よくも私の先祖はあんな所と戦いを続けたよ。私も最初に向こうに行った時はどんなもんかと思っていたが、あれは違うな。異様だったよ」

「何が違いましたか?」

「一番は個々人の教育と能力が高過ぎる。そこら辺の食堂や店で働いている普通の人間すら十分にこっちでは優秀な役人になれるだろう。あれが三百年前に考えられたシステムだとすれば、先見の明が凄すぎるな。それに」

「それに?」

「圧倒的な戦闘力だ。軍事力と言うには個人が凄すぎるから、あくまでも戦闘力なんだろうが、あれでは一騎当千どころではない。私も早々に戦うという選択肢は無くなったよ」

「……まさか閣下は」

「あぁ、私もランドール家の人間だ。当然アルミナダンジョン国を打倒するのが悲願だからね。当然あの国を倒す為の手段を考える為に乗り込んださ。まぁ、その結果、今は喧嘩してはいけないって結論になったけどね」

「今はですか」

「あぁ、そうさ。今はだ」


 グラハムはいつもの人好きのする笑顔ではなく、獰猛な獣の様な笑顔でルーガードを見やる。彼に流れるランドール家の血を感じさせる暴力性に普段は何も感じないはずのルーガードがゾッとする。


「あの国の急所とも言えるエナミ・ストーリーの動き1つでこの世界は大きく変わるだろう。だが周りの国はまだまだ彼の事を認識すらしていない。私達はこの世界を手にするのは彼を手にするかどうかと分かってるだけで打つ手は幾らでもある。ようやく楽しくなってきたじゃないか。この世界を手に入れるチャンスが訪れたんだ。私は挑戦するよ、確りと付いてこいよ、国務議長」


 自然と頭を下げていたルーガードは頭を下げながら、心の底から歪んだままの顔で笑っていた。








 もし気に入ったら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ