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閑話4 レラ・ランドールは諦めない

 メリダダンジョンでのダンジョンブレイクを前後して、ダンジョン管理事務局の人事課から、人事異動の内示が出ていたレラはある種の悩みに苛まれていた。


 それは非常に分かりやすく言えば、この国を出るかどうかという事だった。事前に父親であるグラハム・ランドールからは自身がランドール共和国に戻り、再度大統領として国を統治していく意向を知らされていたのだ。


 レラ自身の窓口担当冒険者でゴールドランクに2人昇格が決まった頃、お祝いとして屋敷での家族3人での食事の席で、宴もたけなわの所でグラハムから急に話が出てきた。


「それでレラとしてはどうするつもりなんだい?」

「うーん、次の希望先は3つ位出したから、そこならどこでもって感じかな」

「そうか、では私から第4の選択肢を提示するよ」

「第4?」

「そうだ。第4の選択肢だよ」


 レラは急な話でこの話の先が全く見えず、戸惑ってしまう。今までアルミナダンジョン国に居て、こうして勤め先もダンジョン管理事務局という誰から見ても誇れる職場にいて順調なステップアップもしている。


 勿論エナミという有り難い先輩のサポートがあるとはいえ、ランドール共和国から亡命してアルミナダンジョン国にやって来た自分達が迫害される事なく、こうして穏やかに毎日を過ごせている事の幸せを彼女は噛み締めていた。


 それ故に自身の職場での昇進以外の道を彼女は全く描く事が出来ていなかった。グラハムは笑顔で話の続きを戸惑うレラに続ける。


「ここだけの話だから、ダンジョン管理事務局の周囲には漏らしてほしくないんだが、遅かれ早かれ、早晩私はランドール共和国に帰還する事になる。これは決定事項だ」

「帰還!?どうしてそんな話になったの?」

「それはルーガード君がこの国にダンジョンブレイクをしかけて、その隙にお前を誘拐しようとする計画があるからなんだ。私はこれを利用して帰還しようと考えて、既に動いている」

「私を誘拐……」


 話の流れが急すぎて全く理解が追いつかないレラを尻目にグラハムは話を続ける。


「私としてもこの機会に戻らないと、いい加減ランドール共和国に戻れそうになかったからね。これ幸いと利用させてもらう事にしたんだ」

「……そんな事が本当に上手くいくの?」

「あぁ、こちら側はお前の職場の先輩のエナミ君とミズキ君が動いてくれて、お前の安全もダンジョンブレイクへの安全対策も万全にしてくれている。あちら側はアデル将軍がこちらに置いてる草を使って迎えに来てくれる算段さ」

「もう形は出来上がってるのね?」

「そうだな、今回の問題点としてはダンジョンブレイクが起きるタイミングだけが大きな点で、それ以外はほとんど準備出来ている。だからなレラ、今回の問いは、お前が私達に付いてくるかどうかという事さ?」


 穏やかな笑顔を絶やさぬまま、グラハムはレラに問いかける。彼女は質問内容に理解に漸く追いつくも、つい隣に座っている母親に確認する。


「お母様はご存知だったの?」

「いいえ、ついこの間まではそんな事を考えてる事すら知らなかったわ。私にも付き合いがあるから、帰還なんてしたくないって少しワガママ言った位だもの」


 少し苦笑いしながら聞いてるグラハムに非難するように言い募るメアリーの姿を見て、レラはこの二人はもう完全にランドール共和国に行くつもりである事を理解する。


「私も帰還すべきと?」

「お前が帰還するのはランドール共和国の国務会議としては願ったり叶ったりだろうね。ルーガード議長もお前だけ帰還すれば、傀儡政治で上手くやれると考えているから今回の計画を発動したんだろうしね。ただ、私個人としては反対かな」

「どうして?」

「だってお前まで帰ってしまったら、アルミナダンジョン国にランドール共和国との戦争の口実を与えてしまうじゃないか?今回のダンジョンブレイクが起きて、我が家みんなが誘拐という形に周りから扱われたら、それを口実に簡単に彼らはランドール共和国の征服を果たしてしまうだろう。両国にはそれ位の戦力の彼我はあるからね」

「そんな……」

「だからこそ、お前がアルミナダンジョン国にダンジョン管理事務局の職員として残れば、表向きこの国に置かれた人質として残されたんだと政治的に思われるし、両国の国民からも悲劇のヒロイン扱いはされるけど、個人としては身の安全は増す形になる。そういう背景で私はレラ、お前に訊ねてるんだ。お前はどうするんだと」

「私は……」


 レラは急に自分が世界の中心に置かれたプレッシャーに苛まれていた。確かにこの機会に、ほぼ記憶のないランドール共和国に戻れば、思い出に浸る時間があっという間に感じるように、アルミナダンジョン国に侵略されるだろう。


 それほどにプラチナランク以上の冒険者やダンジョン管理事務局の部長クラス以上の個人の戦闘能力の高さが異常である事をレラは理解していた。


 そしてその考えの中で、一人の姿が思い浮かぶ。その男の姿がハッキリ自分の中で形になった時に彼女は笑ってグラハムに答える。


「お父様、私は残るわ」

「どうしてだい?現実を知って怖くなったのかい?」

「そんな事は無いわ。私は……ここに居るのが一番良いって分かってるから」


 グラハムも父親の笑顔でレラの返事に応える。


「エナミ君は難しいぞ?ライバルも多いだろうし、彼自身をその気にさせるのも難しいんじゃないか?」

「お父様が何を言ってるか分からないけど、私は諦めないって事を学んだから、ここで頑張るだけよ」

「そうか、なら私は娘を応援するだけだね。ちゃんと初孫を楽しみにしておくよ」

「全く分かってないんじゃない?」


 顔を赤くするレラのテーブルの手元にある男物のハンカチを見て、グラハムは穏やかな笑みを浮かべたままだった。


 段々と落ち着きを取り戻したレラは、ベルガモットの花言葉である「安らぎ」の言葉が良く似合う笑顔で両親に笑った。


「私はエナミ・ストーリーに初めて1から教わった人間として恥ずかしくないように生きるだけよ。彼の側でね」










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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