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閑話1 その日のマリ- 

間章の始まりです。まずは今のところ不遇なこの人から。どうぞ。

「こちらはダンジョン調査部ダンジョン管理課です。メリダダンジョンでダンジョンブレイクが確認されました。ダンジョン管理事務局の職員の皆さんはマニュアルに従い、所定の行動を取り、速やかに近隣住民の避難誘導等を行って下さい。こちらはダンジョン調査部……」 

 

 ダンジョン管理事務局の壁と天井に設置されたスピーカーから割れたサイレン音の後に電子的な声でアナウンスがフロアに鳴り響く。


 メリダダンジョンでダンジョンブレイクが起きた日のマリー・ラルフロールは、久しぶりに聞いたサイレンの音と割れたスピーカーからのアナウンスを懐かしく思いながら、慌て気味の冒険者候補や冒険者候補の応募の対応を所定のマニュアルにある通りにしていた。


 エナミと同期でダンジョン管理事務局に入局した彼女が、このアナウンスとサイレンを聞くのは当然初めての事ではなく、この2、3年聞かなかっただけでその前は一月に一度とは言わないが、それなりに頻回に聞いていた為、慣れきっていた。


 当然、彼女よりも前に入局していた人間達も当たり前に慣れていたため、冒険者求人課内が慌てるような事は無く、彼らは最初にスピーカーの音を絞る為に機械を操作しアナウンスを小さくする事から対応を始めていた。


「ウチの職員達もすっかり慣れたものだわ」


 彼女は3年ほど前の出来事を思い出す。


 当時、マリー・ラルフロールは冒険者求人課の受付になり4年目の任された仕事をしっかりとこなせる、新しく配属された新人指導もするような立場になっていた。


 実際に彼女は「始まりの七家」に選ばれるラルフロール家の息女として、しっかりと対人に対しての教育もされてきており、王立アカデミ-や最初に配属された広報課での教育もあり、比較的最初からこの冒険者求人課の受付業務に馴染んでいた。


 これも王立アカデミーに入学していた頃に見られた、彼女のプライドの高さからくる傲慢さがすっかり鳴りを潜めた為である。


 実際には王立アカデミーの日々で好き勝手して問題ばかり起こしては指導教官に目を付けられるエナミに振り回されっぱなしで、自分が憧れていた筈の首席とは全く違う彼の存在に、それまで持っていた「始まりの七家」の特別意識が吹き飛び、自分らしさと謙虚さこそ大事という考えを持つようになったからだ。


 そんなプライドで鼻持ちならない人間をダンジョン管理事務局きっての品格を持つ人間と呼ばれるまで変えた、トラブルメーカーがサイレンがダンジョン管理事務局の各フロアに響く中、冒険者求人課にやって来た。


「助けてよ、マリー」

「どうしたの、エナミ君?」

「ちょっと匿って欲しくてさ。頼むよ」

「一体、今度は何をしたの?」


 走ってやって来て、拝むように頭を下げるエナミをまた何かやらかしたんだと落ち着いて対応するマリー。この構図は王立アカデミーに二人が入学してから見慣れた光景だった。

 

「いや、ちょっとやらかしてね」

「何をしたの?」

「今、実験中の「偽りの災禍」を使ったダンジョンブレイクの対応マニュアル作りでさ。さっきまで実地検証をしてたんだけど、やらかしてね。プラチナランクのフロアボスを危うくダンジョンから出しかねない所までいっちゃってさ。何とかしたんだけど、保安部がカンカンでさ。俺を問い詰めようとしてるんだ」

「……エナミ君、それって機密事項じゃあ」

「えっ?まだマニュアル作りしてる最中だから、機密にはならないでしょ?それに俺が何とかしたし、問題ないんじゃないかな。あるならこれも黙っててね」

「はぁ、またなの」


 あまりにも無邪気に語るエナミにマリーは呆れて、ため息をつかざるを得なかった。学生の頃から彼はトラブルを起こしては、こうしてマリーに何やかんや話してしまって彼女を巻き込んでばかりだったからだ。


 彼女を王立アカデミーの入学式で友達認定したエナミは、それを良い事に彼女を時には盾にし、時には壁にし、時には石垣にし、とにかく利用しまくった。


 当時から「始まりの七家」の人間としてマリーに取り入ろうとする人間は多かったが、あまりにもしょうもないトラブルを起こしてはそんな立場を1ミリも考えて無いのが分かる彼の頼みをマリーは中々断れずにいた。


「しょうがないわね。どうしたら良いの?」

「助かるよ、取り敢えず修練場に入れてくれれば……」

「大変殊勝な心がけですね。エナミ様」

「えっ」


 エナミが驚き振り返ると、そこにはロマンスグレーの髪を撫でつけたタナカがそこにはいた。


「あれですかな?今回のダンジョンブレイク検証実験で、四十階のフロアボスであるストームドラゴンを危うく取り逃がしそうになった我々保安部をエナミ様自ら鍛え直そうという意向ですね」

「いや、タナカさんそんな訳無いじゃないですか。タナカさん自体も今回の件は関係無かったし、それに僕が今回一緒に仕事してたのはあくまでも第二保安課の方ですし、第一保安部の方々は関係無いかと……」

「ご配慮いただき、ありがとうございます。こうして自らの失態の挽回の場を設けていただいては我々保安部としても全力であたらせていただきます」

「頑張ってね、エナミ君。修練場は空けてあげるから」

「裏切ったな、マリー!!」

「さぁ、善は急げと言いますから、さぁ!!」

「助けてぇ〜」

「気をつけてね、エナミ君」


 気がつけば何人も現れていた保安部の人間に修練場へと連れ去られていくエナミに良い笑顔で手を振って見送るマリー。気がつくとサイレンとアナウンスは完全に止んでいた。


 あの時と変わらない場に居た為に、少しのデジャヴュを味わったマリーは楽しい思い出から、声をかけられ、現実に引き戻された。


「あの?これって大丈夫なんですか?ダンジョンブレイクって危ないんじゃ」

「大丈夫ですよ。これはあくまでもダンジョン管理事務局の避難訓練の一環ですから」


 とても良い笑顔で受付でそう話すマリーはちゃんとご飯の約束の時にエナミ君に聞かなくっちゃと、心に誓っていた。 


 しかし、彼女が微笑ましくこんな思い出に浸っていられたのは、ヤミールを国営病院に運んだエナミから、彼の対応を頼まれるまでだった。




 



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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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