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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第二章 相談窓口は時間外も働く
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第四十一話 笑う議長 5

 アルミナダンジョン国でダンジョンブレイクが起きたと秘書から報告を聞いたその日の朝、ブリストン・ルーガードは上機嫌で大統領府の議長執務室でコーヒーを飲んでいた。


 国務議会は先週で閉会しており、来期のランドール共和国の予算編成も終わり、ちょうど外遊に行く議員も増えるこのタイミングでの他国の騒動は、暇を持て余したメディアや一般市民の格好の餌だった。


 しかも、この後にはランドール家のご息女の帰還が待っている。ランドール共和国の正当な後継者として、二十数年空位であった大統領に即位してもらう為にだ。


 これに纏まらないランドール共和国の国民の筈はない。彼らは浮かれやすく、また冷めやすい。しかし伝統は重んじ、まったく新しいものは拒みやすい。


 そんな彼らの欲求をすべて満たしてくれるレラ・ランドールの帰還を、一日千秋の想いでルーガードは歪んだ笑顔を浮かべながら、まんじりともせずに待ち構えていた。


 一日、二日と過ぎていく度に、もしかしてピーターは失敗したのか?とも考えたがダンジョンブレイクを起こすまでが彼の仕事だった事から、事は成したんだろうと判断せざるを得なかった。


 その後も日毎に新しい報告がなかなか無い事を二十年以上待ったんだから、今更焦ってもしょうがないと思いながらも、ルーガードは現ランドール共和国の最高権力者である議長として必要とされている書類チェックや決裁、定例会議などのいつもの退屈な雑事を傍から見ても嬉しそうにこなしていた。


 大統領就任の最初からレラ・ランドールが傀儡と気付く者がいたとしても、構わないだろう。なぜならそう思う者も、結局は私と同様にランドール家という名前にはひれ伏せざるを得ないのだから。


 私がランドール家の呪いを使いこなして、ランドール共和国を真の共和国たらしめる初めての国務会議議長となるのだとルーガードは新たな野望の火を心に灯していた。

 

 そしてダンジョンブレイクの知らせから一週間が過ぎた日の朝、アルミナダンジョン国のダンジョンブレイクによる騒動が落ち着いたようだとの報告が秘書から上がると共に、戸惑いがちに別件が伝えらえれる。


「ルーガード議長閣下、アルミナダンジョン国の来訪者からルーガード議長との面会希望が出されておりますが、いかがいたしましょうか?」

「お前から見て、何か問題でもあるのか?」

「それが……、その者はアデル将軍が連れて来ているのです」


 ルーガードはすぐにそれが何の知らせか分かって、心の中で歓喜していたが必死に抑え、歪んだ笑顔を浮かべて答える。


「その者は名乗ったのか?」

「いえ、フード付きのマントを頭までかぶり、正体を全く明かさなかったので、不審に思いアデル将軍に問い質したのですが、将軍はルーガード様に言えば分かるからの一点張りで、強引に応接室でお二人でお待ちになっています」

「あの男は相変わらず礼儀という概念が無い人間だな。まぁ、元から無い人間に言ってもしょうがあるまい。会おう」

「よろしいのですか?危険では?護衛を付けましょうか?」

「そんなものはいらん。我が国の将軍が傍にいるのだ。何が危険だというのか」

「……分かりました。ではこの後、面会できる旨を将軍に伝えてきます」

「うむ」


 頭を軽く下げると足早に執務室を出ていく秘書を尻目に、ルーガードは自身の執務室の椅子に背中を預け深々と座り、満足そうに一人で嗤ってしまう。一頻り秘書が戻って来るまで笑い、扉がノックされるとピタッと止める。


「どうだった」

「応接室で先方はお待ちしています」

「分かった。今行く」


 ようやくこの時が来たと、立ち上がり緊張している自分に驚く。秘書を伴って応接室に向かう足取りが、部屋が近づくに連れてどんどん重くなる理由を彼は考えながら、答えが出ないままに応接室の扉を秘書が開ける。


 そこには何度も自分の悪夢に出てきたグラハム・ランドールが二十年以上年をとっているとは感じさせない若々しさで、優雅に足を組み、上座に座ってお茶を飲みながらアデルと楽しげに話していた。


 扉を開けた秘書も呆気にとられている様子を見ると、マントにフードで顔を隠した人間がグラハム・ランドールだとは知らなかったらしい。ルーガードはその秘書の様子を見て逆に冷静になり、頭を最大限に回しながら、グラハムに声をかける。


「グラハム閣下、ご無沙汰しております」

「やぁ、ルーガード議長。久しぶりだね。だいたい二十年ぶりかね?お互い老けたんじゃないかと思うけど、案外そうでもないかな」

「今日はまたどうやってこちらまで?」

「一週間前にアデル将軍にアルミナダンジョン国で会ってね。急にマントを着せられてすぐに馬に乗せられてここまで連れてこられて、故郷に帰ってきたんだ。まるで誘拐みたいだね?」

「私では元々軍人で粗野な為、十分なもてなしも出来ず申し訳ありません」

「構わないさ、議長が考えたことだろう?」

「……こちらとしては閣下がご帰還される予定とはアデル将軍から伺っておりませんで、対応が粗雑で申し訳ありません」

「いやいや、いいんだ。今日は挨拶だけだから」

「……挨拶ですか?」

「そう、挨拶だけさ」


 グラハムは議長用の応接室の上座の沈み込みそうなほどふかふかのソファーからスっと立ち上がり、いまだ真顔で入り口に立つルーガードに近づき、耳元で話す。


「レラは帰ってこないんだ。彼女のフィアンセがアルミナダンジョン国にいるからね。引き離したら可哀そうだろう?」

「それは確かに。理解ある親の立場からすれば当然かと」

「だから僕が娘の代わりにこの国に帰還する事にしたんだ。明日には妻も到着する。だから明日はちゃんともてなしを頼むよ、ルーガード議長」

「御意に」


 ルーガードが頭を下げるのを確認すると、グラハムはアデルを伴い、頭を下げたままの彼の脇を通り抜け、応接室から出ていこうとする。そして、啞然としていた秘書が慌てて入り口を占める間際に振り向き、一言呟く。


「君らしい実にイヤらしいシナリオだったと思うよ。ただこの舞台で踊らせるには相手が一枚上手だっただけの事さ」


 そうグラハムは軽く言い残すと、応接室の扉は静かに閉まった。頭を下げたルーガードの表情が歪んだ笑顔だったか、グラハムは最後まで確認しなかった。








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