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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第二章 相談窓口は時間外も働く
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第三十九話 災禍が訪れる日 5

 ピーターのいる街の高台からはちょうどスラム街の真ん中の空き地で対峙するエナミとヤミール、二人の戦いの構図がよく見えていた。これは彼が事前に選び抜いた観察場所の選定の努力があってこそである。


 当然二人からも見上げられるのならば、こちらの事も見えやすい位置ではあったが、そこはピーターも事前に準備していた認識疎外のマントをかぶり、こちらは極力把握する事が出来ないようにしていた。


 しかもあらかじめエナミとヤミール、二人の会話や仕草が分かるように視覚・聴覚拡張のスキルまで使い、万全の態勢で二人の対決を眺めていた。


 もはや「偽りの災禍」を使い、メリダダンジョンのダンジョンブレイクを成し遂げた彼からすれば、父親のケビンが言っていた勝利条件は成し遂げられたも同然と考え、後はこの個人的にセッティングした戦いにのみ集中していた。


 ピーターにとってはエナミ・ストーリーという長年追いかけていた謎の多い人物を少しでも解明する事の方が、ランドール共和国の復興や、アルミナダンジョン国にこのメリダダンジョンのダンジョンブレイクが与える影響よりも重大な問題になっていた。


 しかし、そんなエナミをずっと追いかけていた彼からしてもどうにも理解できない事が目の前の戦いで繰り広げられつつあった。いや、戦いが中々繰り広げられない事が目の前にあった。


 自身の龍槍を持ち、この置かれた状況に戸惑いながらも、戦いを始めるには十分な構えをしているヤミールが、何故か何も持たずにニヤニヤしているだけのエナミを前に、攻めに出ていけないのが見えていたからだ。


「どうして攻めに出ていけないんだ?あれだけ有利な状況なのに。相手は構えもせず、武器も持たない、ただの公務員だろう」


 いかにあらゆる情報を集めているピーターと言えども、修練場でマリーの前で行われたエナミのヤミールの試しの詳細については確認出来ていなかった。


 あくまでもヤミールがエナミの試しを乗り越えて、国営冒険者アカデミーに特待生として入学出来たという表向きの情報を得ただけだ。


 その試しの際に見せつけられた彼らの圧倒的な戦闘能力の差を把握していれば、ヤミールが何の構えもしていないエナミ相手に中々前に出られない事も理解する事ができたであろう。


 しかしそんな膠着状況は長くは続かなかった。エナミはヘラヘラ笑ったまま、片手をズボンのポケットに入れ、もう片方の手で手招きする。


「どうした、どうした「龍槍」のヤミールともあろうものが自慢の槍を持って、構えも槍も振れるだけの広さもバッチリある場所で、何も持たない公務員相手にビビってんのか?元ランドール共和国騎馬隊千人隊長の名折れじゃないのか、大恥だなぁ。掛かってこいよ、相手してやるから」

「くそ、なめやがって!!」

  

 発言とは裏腹に、ヤミールは落ちついてエナミを観察する。半年前に修練場でエナミから試しを受けた時とは違い、こちらは十分に殺傷能力がある名槍を持っているにも関わらず、相手は呆れるほどリラックスしていた。まさか本気ではやるまいと思っているなら後悔させてやろうと、ヤミールはノーモーションで音も無く静かな動作で流れるように石突でエナミを突く。


 彼の一撃は実戦から遠ざかって2年以上ブランクの空いていた半年前とは違い、ランドール共和国でそれまでは感覚的にやって来ていた槍捌きを、国営冒険者アカデミーで取られたデータ計測を基に、科学的に無駄を省き、より先鋭化させていた。


 その為、今のヤミールの槍捌きは「武器強化」の能力もより使いこなせるようになり、「龍槍」の名を欲しいままにして、聖カムルジア公国の将校達を震え上がらせていた時よりも遥かに鋭く、もはや瞬きする間もなく静寂の中でエナミの胸に石突が軽く当たるはずであった。


 しかし結果は半年前と変わらず、ちょうど石突がギリギリ当たらないようにエナミには下がられ、避けられる。しかも彼は涼しい顔をしてへらへらと笑いながら、片手をポケットに入れたままで。


「おお、半年で随分槍捌きも上達したみたいだな。マリーの言う通り、今すぐプラチナランクまで冒険者ランク上げないと周りからランク詐欺だと言われかねないな」

「アンタ、マリーさんから本当に俺の情報を聞いてたのか?」

「そりゃあな。あんな風に出会って、こうしてお前のメリダダンジョンの担当窓口になる縁があったんだ。気になって当然だろ?しかも俺には国営冒険者アカデミーヘとお前を特待生に推薦した者の義務もあるしな」

「そうか」


 ヤミールは両方の事に少し驚きつつも、構えは戦闘態勢を取ったまま緩めず、足を滑らせ間合いを詰める。今度は殺傷力も上げ、相手に少しでも脅威を与えようと刃の方を突き出すが、結果は一緒だった。エナミはあっさりと見えない筈の突きを避けてから、出した片手の指先で槍先に触れて呟く。


「すげえな、その突きの静けさだと四十階のフロアボスのバジリスクも気が付かれないまま、心臓を突いて簡単に狩れるな」

「アンタはその突きを何て事も無いように躱しているけどな」

「そりゃあ、俺とお前じゃ、役者が違うんだろう?」 

「ぬかせ!!」


 その叫びの後からヤミールから繰り出された突きは、先ほどの突きがかわいらしく感じられるほどの鋭い何十にもおよぶ連撃であったが、エナミにはちょうど届かない。


 これに前回よりも圧倒的に力を身に着けたはずの自分とエナミとの力量差を、彼は焦らずに冷静に分析していた。


 ヤミールは一撃必殺ながらも3分ほどギリギリ相手に当てられない連撃を続けてから、一旦自ら槍の間合いから離れ、呼吸を整えながら問いかける。


「アンタのそれは能力なのか?それともスキルなのか?」

「さすが特待生、良いところに目を付けた。これは「瞬動」ってスキルさ」

「……そんなスキル、国営冒険者アカデミーでは習わなかったな」

「まぁ、俺が通っていた頃の王立アカデミーでも指導教官は最初から誰もできないだろうと概念だけを諦め気味に教えてたし、実際に俺以外は誰もこのスキルを使いこなせなかったから、今じゃお蔵入りだろうな。もしかしたらダンジョン開発研究所の所員なら研究しているかもしれないが。俺でもこれを使いこなすのに、入学してからアカデミー卒業直前までかかったしな」

「安心したぜ。アンタでも苦労とか、努力って言葉があるって事にな」

「この仕事を始めてからそればっかりだよ。これが社会の厳しさかっていうヤツを、もう12年は味わってるな」


 エナミは戦闘への緊張感を全く感じさせない雰囲気で苦い顔をしたまま、今までを思い出したようにため息交じりでそう呟いた。









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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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