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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第二章 相談窓口は時間外も働く
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第三十六話 エナミは超過勤務をぼやく 1

 エナミにとってダンジョンブレイクが起きたその日は相談窓口の日ではなく、普通にダンジョン攻略課でデスクワークの日だった。


 彼にとってはようやくダンジョンブレイクに対して自身が打てる手を全て打ち終わり、役所らしい変わり映えの無い日常業務をダラダラと過ごす日々に戻っていた。


 いつも通りに朝からデスクの固い木製の椅子に斜めに背中を預けてぼんやりと座ったまま紙資料を眺め、素晴らしい日常業務をエナミが満喫していると、ダンジョン管理事務局の壁と天井に設置されたスピーカーから割れたサイレン音の後に電子的な声でアナウンスがフロアに鳴り響く。


「こちらはダンジョン調査部ダンジョン管理課です。メリダダンジョンでダンジョンブレイクが確認されました。ダンジョン管理事務局の職員の皆さんはマニュアルに従い、所定の行動を取り、速やかに近隣住民の避難誘導等を行って下さい。こちらはダンジョン調査部……」

「……いよいよ始まったな」

「エナミ先輩ぃ」


 椅子に寄りかかったまま緊張感無く顔を上げて、スピーカーから聞こえてくるアナウンスを確認したエナミは、隣のデスクで事務作業をしていたレラに、不安そうな声で声をかけられる。


「どうした、レラ?スピーカーが壊れないか心配してるのか?それとも他に何かあったか?」

「いいえぇ、エナミ先輩は随分落ち着いてますけど何もしなくて大丈夫なんですかぁ?ダンジョンブレイクなんですよぉ?」

「そうか、お前はダンジョン管理事務局に勤めるようになってから、直接ダンジョンブレイクに遭遇する事なんて今まで無かったもんな。そんなに心配なら、周りを見てみろよ」

「えっ?」


 キョロキョロと辺りを見渡すレラからは普段通りの業務をしているダンジョン攻略課の面々がいるだけだった。冒険者相談窓口も本日はメリダダンジョンの担当日では無かった為か、落ち着いて冒険者との相談を継続していた。


 ダナン課長だけが何処かに電話している様子があるが、慌てた様子は一向に無く、壁に設置されたスピーカーからの電子的な自動音声アナウンスも続いているが、そのボリュームも段々と下げられ、ダンジョン管理事務局の日常業務に影響が無いように配慮されているのがレラにも分かるのだった。


「どういう事ですかぁ?皆さんいつもと変わらずに仕事してますけどぉ」

「突発的にダンジョンブレイクが起きた三十年前の時ならいざ知らず、今回みたいに起こると分かっているなら、トップクラスの冒険者達が攻略している六十階付近でダンジョンブレイクが起きても、災害対策マニュアルで対応出来るように、しっかりと対策法を作ってあるからな」

「そうなんですかぁ?でもこのダンジョン攻略課も動かなすぎじゃないですかぁ?」

「あのなぁ、元々ダンジョンブレイクが起きてもダンジョン管理事務局で関与するのは保安部とダンジョン調査部、それに必要があればプラチナランク以上の冒険者が駆り出されるだけで、ここなんて静かなもんさ」

「そんなものなんですかぁ?」

「そりゃそうさ。ウチとは窓口担当冒険者が出張って関わらない限りはこんなもんだよ、しかも担当の冒険者がプラチナランク以上なんて、俺以外いないんだから、みんなには関係の無い話さ」

「本当ですかぁ?」


 エナミが日常と変わらないテンションと態度で説明しても、それでも安心も納得も出来ないレラに、更にやる気ない顔のままで彼は話を続ける。


「ちなみにお前はダンジョンブレイクの経験なんて無いから、伝説みたいな話ばっかりで分からない事への恐怖もあるんだろうけど、俺はもう慣れっこだからな」

「慣れっこぉ?どうしてですかぁ?」

「だって俺が保安部とダンジョン調査部と組んでダンジョンブレイク用の災害対策マニュアルの開発プロジェクトをやったんだからさ。何度も何度もプラチナランク以上の冒険者達と保安部と一緒に、安全管理を万全にした上でダンジョンブレイクを起こして実験してたからな」

「なっ、先輩そんな事してたんですか!!」


 隣のデスクでレラはつい大声を出して立ち上がり、周りの同僚から生温い視線と、奥で電話しているダナン課長の背中の阿修羅像からは憤怒の顔で睨まれる。彼女はハッとして、小さく縮こまりながら自身の席に座る。


「レラ、急に大きな声を出すなよ。俺もダナン課長から後で怒られるからな。プロジェクト自体、お前がここにくる前にやっていたから知らないだろうけど、あれのおかげで周辺国の結界維持のノウハウの獲得や、他所の国で起きたダンジョンブレイク時の冒険者派遣対応もスムーズに出来るようになったんだよ」

「……危険は無かったんですかぁ?」

「危険?あぁ、やっぱりダンジョンブレイクに対しての認識が大きく違うんだな。「偽りの災禍」で起きる場合はあくまでも小規模のモンスター暴走でしかない事が俺達の検証で分かっている。プラチナランク以上の冒険者をちゃんと配置したら、ダンジョンから主要モンスターが出てくる前に終わらせられる」

「じゃあ本当の自然発生の場合はぁ?」


 周りの目を気にしても、それでも不安がつきないレラは自分の思いをぶつけてしまう。エナミは苦笑いしながらも、彼女の話に周りに迷惑のかからないように結界を張ってから話を続ける。


「そんなダンジョンブレイクの自然発生なんて事はアルミナダンジョン国では起きないさ。それに関しては安心していい。ここだけの話だがな、三十年前のダンジョンブレイクが大規模な災害になってしまったのも、実際の所はダンジョン管理課の担当者達の結界制御が不十分だったっていう失態が原因っていう風に検証済みだからな」

「エナミ先輩ぃ……えっとぉ、安心は出来たんですけどぉ、それってぇ、私が聞いても良い話だったんですかぁ?」

「外では絶対に言うなよ。この情報は部長クラスでも本来の関連部署以外の人間は知らない筈だからな」

「……エナミ先輩と話すのってぇ、案外国家レベルの秘密が増えますよねぇ」

「そうか?お前も上になればそういう秘密も増えるだろうさ。ただ、これで俺が安心しろって言ってた事も納得出来ただろう。今回のダンジョンブレイクは俺の中では余程の事が無い限りは接点なんてない、終わった事なのさ。さぁ、安心した所で俺等は普段のありがたい仕事に戻るぞ」

「はぁ」 


 外に漏れたらとんでもない話を、何気ない会話の様に終わらせるエナミを、レラはジト目で見る。しかしもう我感せずの態度で事務仕事に戻る彼に、安心した彼女もわざとらしくため息をついて自身の作業に戻った。


 エナミとしても、ようやっとこのくだらない問題が始まりとともにすぐに終わったと安心していたが、その後、すぐにダンジョン攻略課に来た人間により余程の事が始まり、巻き込まれる。


 ダンジョン管理事務局の中でスピーカーで電子的な声のアナウンスが始まった1時間後、サーヤ・ブルックスが冒険者相談窓口にやってきたからだ。










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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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