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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第二章 相談窓口は時間外も働く
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第三十五話 災禍が訪れる日 3

 アデル・トリスタンはヤミールにとって名付け親兼育ての親みたいな存在だった。その圧倒的な武力と粗野な振る舞いからは想像出来ない知性と教養により、それまで聖カムルジア公国の生みの親に独りで置き去りにされ、暴れて人々に散々迷惑をかけて、どうしようもないクズの一人だった、ヤミールを人間に何とか矯正したようなものだった。


 そんなアデルを前に、3年以上迷惑をかけまいと姿を隠していたヤミールは構えていた槍を落とし、何も考えられずに彼のもとに向かう。


「アデル様、どうしてここに?いや、アルミナダンジョン国にはどうやって入ったのですか?」

「……ある方からお前がここに来ると聞いてな。だからこちらから頼み込んで入国させてもらって、お前が現れるであろうここで待っていたって訳さ」

「そうですか……。いや、そんな事よりアデル様、あのナランシェ連邦への加盟運動の時にドニア地域から逃げ出した私を恨んでいますか?」

「いや、そんな事は考えた事も無いな。どうせまた、いけ好かないルーガードの野郎がお前に無理難題をふっかけたんだろうと思ってたさ。ただ行方の分からないお前が俺もエンリケも心配はしてたぜ。死んでいない事は確信してたけどな」

「エンリケ様も……」

「そうだ、アイツには我儘言って今回は俺だけで来たんだ。何せ、将軍と副将軍が一緒に軍から居なくなる訳にはいかないからな」

「相変わらずですね」


 ヤミールは初めてのダンジョンの中にも関わらず、つい緊張感が無くなってしまうのを肌で感じていたが、アデルに会えた嬉しさに身を任せていた。


 この転移陣のあるダンジョン最初のフロアは普段は結界もありモンスターは出てこないが、そうは行ってもダンジョンの一階に続く階段は見えており、帰ってくる冒険者には出会う可能性がある為、若干の緊張感が漂っていた。


 勿論、彼らクラスの武芸者ならば、どんな状況でも対応出来る準備はしており、こうして喜んでいる最中でも、いつでも一撃必殺の武技を繰り出せる様にしていた。


「それで、お前の方はどうなんだ?冒険者としてアルミナダンジョン国でやって行けそうなのか?」

「……はい。ちょうどこれから、このメリダダンジョンに初めて潜ろうと思っていた所です。そんな所で会えるなんて、運命ってヤツはやっぱりあるんですね」

「そうだな……、確かに運命ってヤツだな。運命と言えば、お前、コイツを忘れていただろう。持っておけよ」

「それは……」

「俺のコレクションにするつもりは無い。お前の物だ」

「ありがとうございます」


 思い掛けずアデルからプレゼントまで受け取り、照れながらも新しい門出の場に立ち会ってもらえた喜びと感謝を表すヤミール。しかし先程の再会の喜びの顔とは一転、再び目を若干伏せ、悲しみを表す表情になるアデル。


 お互いの立場と距離感にヤミールが違和感を感じ始めたちょうどその時、もう一人のフードを被っていた人間が声をかけてくる。


「アデル将軍、もう宜しいですか?お約束は守ったとこちらは判断しましたが」

「あぁ……。アンタは確かに約束を守ってくれた」

「では、こちらの約束も守っていただいても宜しいですか?」

「分かってる。分かってるさ」


 フードの男はアデル将軍を立てつつも、主導権を持っているようで、話を進めていく。ヤミールは何の話か分からずに、ただただアデルに確認する。


「約束って、アデル様、俺は何か力になれますか?」

「あぁ……」


 リアクションが薄く要領を得ない返事をするアデルに代わり、フードの男がヤミールに声をかけてくる。


「助かるよ、ヤミール君。君の力がアデル将軍との約束には必須なんだ。どうにも将軍からは言いにくいみたいだから私の方から説明しよう」

「……あんた、誰なんだ。フードくらい外せよ」

「おっと、失礼したね。興奮して顔を見せないなんて、私らしくない。ちなみにこのフード付きのマントは君以外の人物には見られないように細工してある装備品でね。これで良いかね」


 フードを外し、顔を見せた男はヤミールには見覚えがない、少し年上の男だった。ただその目は興奮しているのが分かるくらいには充血し、浮ついている様子だった。


「あんた、一体誰なんだ?俺にはあんたの顔は全く見覚えがない。どうして俺の事を知ってるんだ?」

「まぁ、そこは良いじゃないか?君に言われた通り、フードを外したんだからね。そんな事よりアデル将軍との約束って言うのはね、君からダンジョンリングを僕に貸してもらうって事なんだ」

「はぁ?何でまた」

「アデル将軍からの頼みなら、それくらい簡単な事だろう?しかも一瞬、いや30分程度だからね。どうかな?」

「嫌だね、そんな怪しい頼み、聞ける訳無いだろう!!アデル将軍、こいつの言う事は本当ですか?」

「あぁ……本当だ」

「そんな……」

「ほらほら、ヤミール君、言った通りだろ?早くダンジョンリングを貸してくれないか?じゃないと力づくでも借りる事になるからさ?」


 ニヤつき近づいてくる男には全く怖さを感じないが、横にいるアデルの事が気になり突き放せないヤミール。そしてしょうがなく距離を取り、槍を取ろうとした次の瞬間自身が動けなくなっている事に気付かされる。


「う、動けない。お前、何をしたんだ!!」

「やっと効いてきたかな?それはウチで扱い出した最新の無味無臭の塗布性の麻痺毒さ。君が将軍に近寄り彼に触れた時に君の手から浸透していったって訳さ」

「そんな……アデル様、何故?」


 アデルは無言で悲しげな表情を変えないままだった。ヤミールは裏切りにあい、項垂れる事も毒により出来ずにそのまま呆然としていたが、男が霧吹きで顔に何かを散布すると意識を失った。


 男は倒れたヤミールの手からダンジョンリングを抜き取り手にし、それを眺めながら悲しげな表情のままのアデルに聞かせるでも無く嬉しげに独白する。


「さぁ、やっとこれでショーが始まりますね」


 ヤミールは気が付くと、そこにはアデル将軍とフードを外した男はおらず、このアルミナダンジョン国に来てから見慣れたスラム街の一角で横にさせられていた。


 慌てて確認した自身の指にはダンジョンリングがあり、ホッと一息つくもいつもとは違う緊張感が漂うスラム街の雰囲気に辺りを見渡す。


 ちょうどその時にサイレンのけたたましい音が響き、スピーカーから自動音声ガイダンスが流れる。


「こちらはダンジョン管理事務局です。メリダダンジョンでダンジョンブレイクが確認されました。住民の皆さんは所定の避難施設に速やかに避難して下さい。こちらはダンジョン管理事務局……」


 繰り返しスピーカーから流れる自動音声にヤミールは状況理解が及ばずに呆然としたままだった。そこに男が独り、フラフラとやってきた。


「おいおい、どうしたこんな所でぼんやりして。早く逃げないと国家反逆罪で捕まるぞ、指名手配犯「龍槍」のヤミール」


 エナミ・ストーリーは物憂げに呟いた。




 




 三十五話かけて、やっと閑話の最後に戻ってこれた……。


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 ここまで読んでいただいて気にいらなかったら、大変貴重な時間を使わせて本当に申し訳ない。ただそんなあなたにもわざわざここまで読んでいただき、感謝します。

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