第三十四話 災禍が訪れる日 2
その日、ヤミールはある程度の好奇心を持ちつつも何の気無しにメリダダンジョンの前に立ち、試しに入ろうとしていた。
まだまだ攻略するには準備不足という認識はあったが、入ってみて分かる事も多かろうとランドール共和国の騎馬隊千人隊長だった頃からの実践主義が頭に残っており、メリダダンジョンに向けて足を一歩踏み出そうとした。
そんな冒険者の日常の一コマを邪魔する存在がダンジョンの入り口にはいた。実際には邪魔ではなく、監視している者達だが。そう、ダンジョン管理事務局から派遣されているダンジョン調査部ダンジョン管理課の人間である。
彼らダンジョン管理課の仕事はアルミナダンジョン国にある5大ダンジョンの入り口に駐在して、出入りする人間をしっかりと管理監督する事だ。
特に各冒険者の遭難時の対応は彼らが行っているダンジョン侵入時間の把握により、格段にスムーズに対応できるようになっていた。
ヤミールはそんな存在がいると国営冒険者アカデミーでの研修で分かってはいても、初めてこの場ダンジョンの入り口に立ち、彼らの存在を認識する事で、漸くダンジョンへの緊張感が出てきた。
ヤミールがメリダダンジョンに近づくと駐在所の外に立つ彼らから声をかけてきた。
「ようこそ、メリダダンジョンへ。こちらはダンジョン管理課になります。名前と冒険者ライセンスの提示をお願い致します」
「俺の名はヤミール。一応、シルバーランクという事になっているらしいが、詳しくはライセンスを見てくれ。何せ今回初めてメリダダンジョンに来たからな。勝手が分からないんだ」
ダンジョン管理課の担当者はよくある事だと言わんばかりに、ビジネススマイルで流暢に話を進める。
「承知しました。それでは今回が初めてのダンジョン攻略という事で、アルミナダンジョン国の5大ダンジョンに入るに当たって共通の説明をさせていただきます。まずはダンジョンに入るに当たっての手続きですが、今回同様に必ず名前と冒険者ライセンスの提示をお願いしております。またもう一点はダンジョン内の滞在予定日数ですね。こちらは申告いただいた日数を一定期間過ぎると自動的に第二保安課が捜索にあたるシステムになっております」
「至れり尽くせりだな」
「そうですね、私達ダンジョン管理事務局としては冒険者の皆様の安全な攻略という矛盾に最大限お応え出来るように努力している次第ですね」
「安全な攻略ね……」
「はい、どうしても冒険者の皆様は死と隣り合わせの仕事です。ここ最近になって十年間のダンジョン攻略時の生存率は九割を超えていますが、それまでは六割から七割程度を推移してましたからね。漸く皆様の安全を担保するためのマニュアルも出来上がり、私達ダンジョン管理課や第二保安課の運用システムもスムーズにいくようになりました」
「それもこれもエナミのおかげか……」
「?何かおっしゃいましたか?すいません、ちょっと小声で聞き逃してしまいました」
「いや、良いんだ。大した事じゃない」
「そうですか」
以前、国営冒険者アカデミーでも習っていたダンジョン攻略の安全性の改善にエナミが大きく関わっていたのは、マリーに教えてもらった事だったが嫌味ではなく自然と名前が出ていた。
ヤミールはダンジョン管理課の駐在員に自身の冒険者ライセンスを見せて確認してもらい、無事にメリダダンジョンへの入る許可がおりるが、今度はダンジョンリングについての説明を聞く事になった。
「こちらのダンジョンリングは……ちゃんと十階になっていますね。国営冒険者アカデミーの特待生の方は最初からメリダダンジョン特有の転移トラップに対応出来るというアカデミーと冒険者相談窓口の判断もあるのでこのまま行かれますか?それとも転移トラップについては冒険者相談窓口の方からアドバイスがありましたか?」
「いや、今日はメリダダンジョンがどんなもんか、試しに来ただけなんだ。ちょっと中を冷やかしたらすぐに帰ってくるよ」
「そうですか、ではダンジョンからのお戻りは本日中ですね。ヤミール様は国営冒険者アカデミーの特待生とはいえ、初めてのダンジョン攻略。無事に帰って来れるように細心の注意を払って下さいね」
「おう、ありがとうよ。詳しい説明も助かったよ。軽く潜ってくるよ」
「くれぐれもお気をつけて」
深々と頭を下げるダンジョン管理課の職員に見送られて、メリダダンジョン内に入っていくヤミール。彼の姿がダンジョンの闇に消えると、職員が呟く。
「くれぐれもお気をつけを。「龍槍」のヤミール様」
5大ダンジョンのどのダンジョンも入り口の先にあるのは道幅30メートル、距離500メートルを超える直線だ。この直線の先にダンジョン開発研究所が作成した、ダンジョンリンクが対応する転移陣を設置してある。
そして今、その転移陣の前にヤミールとフードを被り顔を隠したマント姿の二人の男が向かい合って立っていた。怪しさ満点の男達にヤミールから声をかける。
「あんたら、何か俺に用か?」
「……」
「用が無いなら、どいてくれよ。俺はその転移陣を使いたいんだ」
「……」
「ダンマリでも、そこを使うのを邪魔するならダンジョンなら退かすだけだ。その許可は新人冒険者とは言え、ダンジョン管理事務局から貰っているからな。悪いが得物を出すぜ」
スキルにより、亜空間から槍を出すヤミール。そこで初めてフードの男の片割れが反応する。その反応の鋭さを見て、ヤミールは槍をちゃんと構える。
「何だ?お前から俺とやるのか?」
「……」
「悪い事は言わねぇ。早くどいた方が身の為だ。何も持ってない人間に手を上げるのは、こっちも嫌な気持ちになるからな」
「変わったな、ヤミール」
「その声は!?」
「狂犬と俺が名付けたお前が、そんな事を言うようになるとは……人間の成長の凄さにただ驚かさせられるな」
「あなたは……」
「探したぞ、ヤミール。ようやく会えたな」
マントの男の片割れがフードを上げると、そこには懐かしのアデル将軍の、悲しそうな顔があった。
主人公はヤミールではありません。
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