第三十三話 龍槍のヤミール 7
国営冒険者アカデミーに入って5ヶ月後、冒険者候補として必要なスキルも一通り覚え使いこなせる様になり、ダンジョン攻略についてのルールも大抵は理解してしまったヤミールは、もはやアカデミーではやるべき事は無くなってしまい、遂に冒険者として攻略すべきダンジョンを選ぶ立場になっていた。
冒険者候補のダンジョンの選択は自分達の生存率も含め非常に重大な決断なので、普段はダンジョン開発研究所のデータと国営冒険者アカデミーの講師の評価を合わせ、本人の希望も確認した上で5大ダンジョンの何処を攻略するか決める。
しかし、ヤミールの場合は特待生入学の際のエナミの試しを受けた時の3大ダンジョンであるメリダ、パルミッド、ヤーガーラへの適性が認められた経緯がある為、その中であれば何処でも攻略を開始して構わないスタンスを研究所もアカデミーも取っていた。
実際に彼がアカデミーに入学してからこの半年近くで研究所が取ったデータからも、直接対応したアカデミーの講師からも、適性や冒険者のランク適性についてもエナミと同じ様な評価であった事に、マリーは将来性の評価の所で、彼のわずかな時間での予見性やスカウトとしての能力に内心舌を巻いていた。
そんな状況下で、ヤミールはどのダンジョンを攻略していくかを迷っていた。何処でも構わないと言うが、一度選んだら変えづらいのはアカデミーでも指導されており、少なくとも自分が三十階を攻略して、ゴールドランクに行くまではダンジョンの変更は出来ない事も知らされていた。
過去そうやって幾つものダンジョンを攻略している者もいるにはいたが、大抵は中途半端に終わり、2箇所でプラチナランクまで上がるような人物はほぼおらず、3箇所以上ともなれば、「異端なる者」が5大ダンジョン全てで五十階は攻略しているとの荒唐無稽な噂がある以外は前代未聞の出来事だった。
その為にこの難問の相談相手としてヤミールは自身の事をよく知る冒険者求人課の受付をやっているマリーに声をかけに来た。
「マリーさん、本当にどこのダンジョンを選んだら良いですかね?」
「ヤミール様何度も言いますが、私より適任の方を知ってらっしゃいますよね?」
「はい、分かってるんですけど、何か訊きに行きにくくて……」
「良いじゃないですか。冒険者として冒険者相談窓口にアドバイスをもらうのは当たり前の事ですよ?それにエナミ君はあの中でも一番頼りになりますし」
「はぁ、やっぱり行った方が良いですかね」
「はい、それにこの前もエナミ君は心配だったのかヤミール様の様子を訊きにわざわざ私の所まで来てましたしね」
「うーん、それは信じられないなぁ」
エナミの事を伝えるマリーはイタズラを思いついたような蠱惑的な笑みを浮かべて、困惑しているヤミールをからかう。
実際にエナミに訊いたら全てのデータを見た上で、ヤミールの将来性も見極めて冷静な判断で選ぶべき道を案内できるだろう。しかしそれはヤミールからしたら借りを作るようで非常に選びたくない選択肢になっていた。
「……分かりました。諦めて行ってきます」
「はい、しかも今日はたまたまエナミ君の窓口担当日ですからね。こんな所で悩んでイジケてないでしっかり相談して来て下さい」
「……はい」
ヤミールはマリーに言われてからスゴスゴと大きな背中を丸めて、冒険者求人課の受付から2階への階段を登る。重たい足を引きずるように、約半年ぶりに来たダンジョン攻略課の入り口のドアを開けて中に入っていく。
運良く2つの窓口とも相談している冒険者は誰もおらず、暇にあかしてレラの次の異動先についての相談に乗っていたエナミはこちらを向き、ニヤリと笑う。
「どうした、スーパールーキー?半年ぶりだな。何か俺に用かい?」
「あぁ、訊きたいことがあってな。アンタに訊くのが一番速いってマリーさんが言うからな。こうして来てやったって訳さ」
「そうか、マリーがな……。それで?何が訊きたいんだ?」
「ぶっちゃけて言うとな、俺がダンジョン選ぶなら、何処が良いんだ?」
「う~ん、それはお前がダンジョン攻略の何を重きに置くかだな」
ニヤニヤと笑ってはいるものの、その目は真面目な仕事モードに入っており、雰囲気も姿勢もちゃんと相談を受ける為に前のめりに少しなっていた。
「何をってどういう事だ?」
「お前がシルバーランクから入れるダンジョンはメリダ、パルミッド、ヤーガーラの3つがあるよな。それぞれの特性は国営冒険者アカデミーで習ったな?」
「あぁ、当然。自分でも調べたしな」
「なら分かると思うが、三十階を越えてプラチナランクに挑戦する難易度が個人の能力によって全く変わってくる」
「……三十階、ゴールドランクまでは変わらないのか?」
「当たり前だろ、そこまでは俺が共通で監修した攻略マニュアルがあるんだから、誤差の範囲内さ。ちゃんとマニュアルと基本的なスキルを使いこなせば、死にはしないしな」
事実ここ5年以上、5大ダンジョン攻略で三十階までで死者が殆ど出ていないのは、間違いなくエナミが監修した攻略マニュアルのおかげと言えた。これはもし死者が出ても、それぞれの事例をダンジョン調査部が検証するとマニュアルを守らずに動いた事が認められたからだ。
「アンタは俺にはどのダンジョンが向いてると思ってるんだ?」
「そりゃ、「武器強化」の能力特性を考えたらメリダ一択だろ。パルミッドとヤーガーラはシルバーランクからだと、特に地形ギミックがキツイしな。まぁ、転移トラップがあるメリダも大変ちゃあ大変だけど、お前なら対策すれば問題無い」
「そうか……」
「あぁ、お前なら3大ダンジョンのプラチナランク到達も夢じゃないしな。まずはメリダダンジョンで冒険者になったら良いんじゃないか?」
メリダダンジョンを薦められる理由も腑に落ちたヤミールは、そのままメリダダンジョン担当のエナミに冒険者担当窓口として付いてもらう事まで決める。申請手続きの書類を二人で一通り作成した後に、エナミからまったく別の話が出る。
「ヤミール、お前もし今のランドール共和国とアルミナダンジョン国が戦争するって言ったらどうする?」
「はぁ?何で急にそんな話になるんだよ?」
「仮の話だ。ヤミール、お前ならどちら側に付くんだ?」
「……俺はあくまでもアルミナダンジョン国の一冒険者だ。ただし、まだ招聘義務もない駆け出しのシルバーランクだから、俺の意志で動く」
「そりゃ分かってるさ。だから訊くんだ。その時が来たら、お前は俺の敵になるのか?」
「俺は……その時にならなきゃ分からない」
エナミは軽く笑い、一つ呼吸をする。
「まぁ、具体的に考えてみてくれ。ランドール共和国とアルミナダンジョン国が近々揉めそうな事は間違いない。そしてその時、お前がどう動いても俺はお前に裏切られたとは思わないさ」
「……そんな事、分かるのか?」
「あぁ、そういう能力持ちがダンジョン管理事務局にいるんでね。だからこそ、俺と対峙する時があるかもしれないと思ってちゃんと準備しろよ、「龍槍」のヤミール」
その後、エナミは首を傾げた様子のヤミールがダンジョン攻略課の入り口ドアを閉めて出ていくまで真剣な眼差しのままだった。
隣の窓口に座っていたレラは複雑な表情でエナミを見ていたが、それに気づく素振りを彼は見せなかった。
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