第三十話 エナミは忠告をする 2
エナミはダンジョン管理事務局を出たその脚で、昼間にも関わらず「その力は何時の為に」に向かう。昼間も当然のようにマスターはいるが、夜に店の中にいるような客はおらず、ガテン系の力仕事をやってるような体格のいい人間が量の多いランチを食べているだけであった。
いつものようにカウンターに座ると、マスターにランチを頼む。エナミの水の入ったグラスと、とても食べ切れそうにない量のランチが目の前に来ると、左右の席にミズキとタナカが座る。
「ミズキさんがこんな店に来ると思いませんでした」
「第一外交課課長補佐として、仕事としてここにいるだけです」
「ラミーさんはもう昇進して外交課第一課長として活動されてるんですね?」
「エナミ様、保安部と外交部との事務的な手続きは彼を通してやってますから、この案件から外れている訳では無いですよ。ただ課長になったが故に動きにくいみたいですが」
「ラミーさんにそんな普通の概念なんてあるんですかね」
エナミは少しずつランチで盛られた山のようなご飯に手を付けていく。しかし、遅れてきた二人分のランチがそれぞれの前に置かれてきたが、明らかに量が普通より少ない。
エナミは裏切られた目でマスターの方を見るも、マスターは目を合わせない。エナミはしょうがなく肩を落として、ランチを片付けていった。
一通り食べた後は、早々に店を出て官庁街の方に歩いて向かう。自分としては今回の案件の準備は出来ていたが、各部署での摺り合わせが必要だった所の確認を歩きながら行っていった。
「うん、エナミ君、外交部からはこんなもので大丈夫よ。後は当日次第って感じね。まだ日程がハッキリしないみたいだけど、いつでも動けるように調整してるわ」
「ありがとうございます。ミズキさん」
「エナミ様、我々保安部の方も問題ありませんが、一点だけ質問が。今回、第二保安課をお使いにならないのは、何か目的があるのですか?」
「……今回は冒険者の問題では無く、あくまでもダンジョン攻略課の職員とその親族の問題ですからね。そこに本来はダンジョン内での冒険者の救護を担当する第二保安課を回すのはちょっと無理があるかと。それにちゃんと助っ人も用意してますから、当日はそっちを楽しみにしておいて下さいよ」
「分かりました。エナミ様がそうおっしゃるなら、何の心配もありませんな」
「そうそう、当日は僕がいなくとも勝手に回るように手配してますから、その時が来たら宜しくお願いしますね、ってもう二人ともいないか」
エナミが最終確認を話している途中から独り言を喋っているかの様に、横にいたはずの二人とも官庁街へと抜ける道から消えていなくなった。
その後、彼は一人でアポイントを取りにある場所ヘそのまま向かい、夜になってからの面会の約束を取り付け、午後はダナンに言われた通りに官庁街の寮の自分の部屋でゆっくりと休んだ。
そして指定された時間には、エナミはちゃんとした格好で万全の状態でブルックス家の屋敷の前に立っていた。いかにも厳めしい門番に声をかけると、名前を告げた途端に態度が180度変わる。そのテンションの高さに若干引き気味にエナミはやり取りを重ねる。
「あぁ、あなたがエナミ様ですか!!サーヤお嬢様が大変お世話になっております。本日はお嬢様とのお約束ですか?」
「いえ、今日はケビン様との約束ですね。少し早いかもしれませんが、お知らせいただけますか」
「お任せを。……エナミ様、我々ブルックス家に仕えている者達は皆エナミ様の味方だとお思い下さい」
「はぁ」
ヤケに機嫌が良くなった門番はすぐに屋敷の中の執事に連絡を取り確認する。エナミ自身は門番に名刺を渡しただけであるが、キチンと昼間には約束出来ていた為、すぐに門が開けられ、執事が玄関で出迎えているのが分かる。
門扉の所での顔も知らない筈なのに謎の信頼感マックスな門番と同様のやり取りを再度執事からもされてからエナミは屋敷の中へと招待される。
そして何故か誰からも止められる事無く食堂に通され、ゲスト席に座らされて、気がつくと夕食をブルックス家の面々とするハメになっていた。
挨拶もそこそこにケビン以外も奥方やその子ウィリアム、三男のテリー達は今日の訪問を知っていたようで非常に丁重に対応してもらっていたが、ピーターはランドール共和国への出張でおらず、サーヤは席にはついていてもあまりの事に現実逃避している為か、妄想の世界に思考が飛んでいた。
「エナミ君、今日はウチのシェフが腕を全力で奮って作ってくれたから、存分に楽しんでくれ給え」
「いえ、ケビン様今日はお話をしに伺っただけとアポを取った時にも……」
「皆まで言うな、分かっている」
「娘をこれからもよろしく頼みますね、エナミさん」
「エナミ君、これから宜しくな」
「僕は初めて弟が出来るから嬉しいよ、よろしくね」
「これは夢…、そうね、これは夢のはず」
ブルックス家の五者五様で、全く趣旨が理解されていない事が分かり、ここで真面目な話をしても埒が明かないと思ったエナミは彼らの会話に曖昧に答えながら、時にサーヤのダンジョン攻略の活躍についてはある事無い事を交えて、食事を楽しんだ。
そしていよいよ帰りの段階になり、玄関前で帰りの挨拶をしているエナミは、その場の話の流れに合わせてケビンには伝わるように呟く。
「ケビン様、今日は無理な面会のお願いを聞いていただき、ありがとうございました」
「いやいや将来の娘婿殿の願いとあらば叶えるのが、親としての努めだろう。当然のことをしたまでさ」
「そうは言っても、このようなタイミングでこうしてお会いできただけでも望外の事です。願わくばピーター様にもお会いしたかったですが、それはまた次の機会に楽しみしておきますね」
「……君がそう言うのであれば、ピーターも楽しみであろう」
「はい、そうだ、ピ-ター様に伝言だけよろしいですか?」
「よく聞いておこう」
ケビンは目の奥が笑わないままに満面の笑みを浮かべた。
「私が次にお会いする時は面識が無いために、もしかしたら礼を欠いてしまうかもしれませんが、どうかご容赦を、と」
「……分かった。一語一句違わずに伝えよう」
「ありがとうございます。では次はブルックス家のご家族、皆様とお会いできる事を楽しみにしております」
「エナミ君、君はそれで構わないのかね」
丁寧に深々とお辞儀するエナミ。余計な事と分かりながらも確認してしまうケビン。顔を上げたエナミは少し困った顔で言葉を発する。
「はい、私はサーヤ様もケビン様も悲しむ顔なんて見たくないですから。では」
門扉を越え、門番に頭を軽く下げた後に闇の中に消えていくエナミを他の者とは違い、ゾッとした恐怖を抱いてケビンだけは見送った。
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