第二十四話 エナミは忠告を受ける 2
相変わらず何故かリフレッシュの為に行っては、大きなトラブルに見舞われるスラム街の居酒屋に行った二週後。仕事をちゃんと定時で終わり、エナミはいつもなら直行する「その力は何時の為に」に行くのではなく、珍しくプライベートで約束をしていたある場所へと向かう。
仕事終わりの制服のまま、徒歩で官庁街を抜け、一般市民が住んでいるエリアまで来ると、更に一際華やかな歓楽街を抜け、高級住宅街の手前までやってくる。
目の前にそびえ立つと言っても過言ではない、アルミナダンジョン国を建国してすぐにカルフロール家が始めた、創業三百年の格式あるレストラン「informel」にそのまま入ろうとして、受付にいたウェイターに眼の笑っていない営業スマイルで止められる。
「お客様、本日はご予約でしょうか?」
「ああ、そうだよ。連れは先に入ってると思うんだけど?」
「……分かりました。そうしましたら、ご予約のお名前を伺っても?」
受付にある予約リストの紙を捲りながら、全くリストの中身を見ずにこちらを見て、全く通す気が無い様子のウェイターにエナミはため息をつく。
「グラハムだと思うよ?」
「グラハム様……どちらのグラハム様でしょうか?」
「グラハム・ランドールだよ。知らない?」
「はっ?グラハム・ランドール様ですか?」
予約リストにその名を発見しても、いやその名自体と目の前の草臥れた男の接点が全く見いだせないウェイターに追い打ちがかかる。
「エナミ君、待ってたよ。少し不躾かもしれないが、トラブルがあっても困ると思って出てきたんだが正解だったみたいだね。早くこちらの席に来てくれるかい?」
「お待たせしました、グラハム様。分かったかな、もうこれで入っても良いかな?確認は良いよね?」
「……大変失礼致しました。どうぞお通り下さい」
レストランの入り口の側までわざわざやってきたグラハムがエナミに声をかける。エナミは頭を下げ続けるウェイターを見る事なく、横を通り過ぎる。苦笑しながら迎え入れるグラハムがエナミに声をかける。
「すまなかったね、こちらが気をつけるべき事だったね。彼には悪気は無いと思うんだ」
「いえいえ、慣れてますから。僕の方が配慮して、ちゃんとこの場にあった格好をしてから来るべきでした。申し訳ありません」
「まぁ、不快な事は忘れて席について取りあえずは食べよう。今日は君の為にワインを用意したんだ」
「ありがとうございます。まずはお食事を楽しませていただきます」
エナミは頭を下げ用意された個室で、テーブル席につく。向かいの席に座ったグラハムがワイングラスを持ったのに合わせて、エナミ自身もかかげる。
「この再会に」
「心からの感謝を」
そこからは暫くの間、極上の食事をウェイターとソムリエの講釈を聞き流しながら進める。グラハムの言う通りワインはエナミ好みの甘めの白で、コースもこの地では滅多に手に入らない魚を中心としたメニューで、彼はとても満足な食事を味わった。
食後のコーヒーが出て、食事の感想を一通り交わしてきた所で、グラハムから優雅な食事には合わなかった話題が上がる。
「それで?君は今回の件を何処まで把握しているんだね?」
「今回の件がランドール共和国のお話を指すのなら殆ど把握してません。僕はあくまでもアルミナダンジョン国の人間ですから。ただし、お節介でお喋りな人間が側にいるので、知ろうとすれば簡単に知る事が出来ます」
「やはり優秀だね。君には少し情報提供をしようと思ってこの機会を作ったんだがどうだろう?」
「……グラハム閣下、教えていただいた事を僕が存分に使えるかは分かりませんがそれでも構いませんか?」
「構わんさ。それが私の判断だからね」
「分かりました。お伺いします」
「では、ここからは先はオフレコだよ」
グラハム・ランドールは非常に人好きする笑顔を浮かべて、人差し指で唇を塞ぐふりをする。エナミは人間的な魅力が溢れる彼の力になれそうな自分を、客観的に見ていた。これがランドール家のカリスマかと、レラからは全く感じた事の無いプレッシャーを感じながら、結界を張り手ぶりで話の続きを促す。
「そうだなぁ、私からの情報提供は国務会議の最高責任者ルーガード議長についてだね。彼は道化と呼ばれているが、実際は残虐な演出家さ」
「閣下、残虐な演出家とは?」
「何度か政治上のライバルを消したり、逆らう住民をマクワリにまとめて皆殺しにしたのは有名な話だろう。しかしそれ以上に聖カムルジア公国との戦争やナランシェ連邦へのドニア地域の加盟運動などでは人をどうすれば追い込めるかを考えた政治的な戦略を見せていたね」
「どうやってそれを知ったんですか?」
「君達、能力がある者とは違うが、私にも目や耳があるって事さ」
エナミにじっと見られているのが分かっている筈なのに、グラハムはコーヒーを美味しそうに飲みながら朗らかな笑顔を変えない。
我が国に亡命はしていても、元大統領の元には詳細な情報が在任中と変わらずに集まっている。やはり侮れない人物だと思い知らされたエナミは同じ様にコーヒーを啜る。
「それで今回の件は君が対応するのかね?」
「僕は僕の仕事の中で対応するだけです。専門外は割り振ってますが、そちらもこの二週間で大抵は」
「ほう……もう仕事の割り振りは終わってるのかね?」
「はい、僕はダンジョン攻略課での仕事柄、人員と業務の調整が得意なものでして。詳細の詰めはありますが、今回の案件の概要作成は終わってますよ」
お互いにコーヒーを飲み、また少し沈黙が訪れる。コーヒーカップが空なのは互いに分かっていた。
「……私の出番はあるのかね?」
「もし宜しければ、閣下のお望みのままに」
「そうか、そうか。今日誘ったのは私だが、それも予想の範囲内なのかな?ちゃんと私も君のキャスト表の中にいるんだね。ふふっ、本当に気分が良い。この私を使う人間が現れるなんて。そうだ、ワインの追加を頼もう。エナミ君もまだ飲めるだろう?」
グラハムは笑いながら片手を上げ、エナミと話の続きをするために追加のワインボトルをウェイターに頼んだ。
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