第二十三話 エナミは忠告を受ける 1
段々とサーヤとレラとの距離感も落ち着いてきたある日、エナミは仕事を終えると、いつものスラム街の場末の居酒屋「その力は何時の為に」に向かい、カウンターに身体を預けるようにだらしなく座ると「マスター!いつもの!」と大きな声をかける。
普段と変わらず、安い酒を二杯引っ掛けてから煙草に火をつけ、周りをのんびり見回す。相変わらずのダメ人間の集合体を見ながら、いつも同様に圧倒的な孤独感をのんびり味わう。
しかし、そんな馴染みきったはずの退廃的な空気を著しく壊す場違いな男が現れる。細身ながらも筋肉質で身長が180はある、色白で蒼眼の整った顔をしている男が、辺り構わず挨拶しながら、エナミに寄ってくる。
「いやいやいやいや、エナミ、やっと見つけた。久しぶり、元気にしてた?当然してたよね、前と一緒でいつも仕事は定時で帰ってるんだろうし、んじゃないと、この時間にこの居酒屋にはいられないし、俺も元気だしね。ウチの子供と奥さんも元気だよ?」
「ラミーさん、ご無沙汰してます。相変わらずの無軌道な話っぷりですね」
「えっ?どういう意味、どういう意味?全然分からないんだけど、ウチの子供と奥さんの事、久しぶりに見たいでしょ、写真でも見せようか?この間4人で行った川でやったバーベキューが最高でさ。そうそう、これ見てよ、見てよ、これ。みんなめちゃくちゃ笑顔でしょ。今時さぁ……」
ラミー・レバラッテはエナミのカウンターの隣に座り、当たり前の様に家族写真を出して、グイグイ見せようとしてくる。エナミもその流れるような押し付け行為を心得たようにマスターにもう一杯頼み、カウンターで受け取った酒の入ったグラスをラミーの前に滑らす。ラミーは一礼してグラス受け取り軽く口をつけ、話が止まる。
「ラミーさん、どうしてここに?僕を探してたみたいな言い回しでしたけど」
「うんうん、そうそう。エナミ、君に用があるからさ。探してたんだよ、ちょっと能力で見なきゃアレだったけど。こっちの仕事終わりの家族との団らんの前に、ちょっとだけでも話せると思ってね。ここら辺にいるのは何となく見えて分かったから」
「何となくですか?能力もったいないんじゃないんですか?」
「いやいやいやいや、こんな事は別に朝飯前でしょ、身体に負担なんて何にも無いしね。というか夕飯前か?何にせよ、こうやって君に会えたんだから何の問題もなし!」
「相変わらずの超ポジティブですね。僕は好きですけど」
「ありがとう本当にありがとう、エナミくらいだよ、そうやって僕の事を褒めてくれる人は。みんな僕が話し出すと、どうしてか顔が引きつっていくんだ。最近だとウチの奥さんも偶にため息ついて子供達もなんだかなぁって顔するし、本当に訳が分からないよね?」
ラミーは本当に心の底から理由が分かってないように、両手を上に向け肩を竦める。そのポーズがあまりにも似合っていた為にエナミはつい笑ってしまう。
「ハハッ、ラミーさん、それは反則ですよ。確信犯じゃないですか?それで?わざわざここまで来て、僕には何の話が?」
「あぁ、あぁ、そうそうそうそう、ごめん、ごめん。ついつい話がズレていっちゃった。俺の悪い癖だね、よく言われるけどさぁ、本題だよね。あのさぁ、エナミはピーター・ブルックスって人は知ってる?」
「……ピーター・ブルックスさんですか?確かブルックス家の次男ですよね?一応担当冒険者の家族なので、お名前と顔は知ってますけど、挨拶とかはした事は無いですね」
「あ、そうなんだそうなんだ?うーん、でもそれだとおかしいね。僕、外交部の仕事で直接調整しなきゃいけない案件があったから、この間ランドール共和国まで行ってね、大統領府で何でかピーター・ブルックスを見かけてさ。君、彼になんか恨まれてない?」
「はぁ?接点が……」
「あっ、エナミ、今分かった、分かっちゃったよね!妹さんのサーヤ・ブルックスは君の担当のだろ?何か彼女に酷い事しなかった?もしかしてこっ酷く振ったとか、何か三角関係でドロドロした事が無かったかな?僕は未来しか見えないからあれだけど、彼がだいぶ君に執着しているのはよく分かったよ」
エナミはラミーの一言にブルッと震えた。まさかブルックス家をあげて、レラとの件で俺の命が本気で狙われてるなんて事があるのかと、納得しそうになった。しかし時系列的におかしな所しかなかった為、グラスを一気に空け、次の一杯をマスターに頼んで一端冷静さを取り戻す。
「いえ、サーヤ様とは仲良くというか、窓口担当と冒険者という適切な距離感は大事にして対応してますから、そんな感傷的な事は無いと思いますよ」
「うーん、どうかな、どうかなぁ。君は自分が思ってるほど、ビジネスライクに担当の女性冒険者と付き合っていないように傍からは見えてたけど、ちゃんと本当に距離感分かってて、やってるんだよね?じゃないといつか必ず女性に刺されるよ?」
「そんな、僕に限って……」
エナミの背中を冷や汗がジットリと伝う。先日の夜の出来事を一切棚に上げて、記憶から抹消してしまえるようにここ最近は段々となっていた筈だったが、ラミーとの会話で強烈に思い出させられる。
「ほらほら、やっぱり心当たりがあるんじゃないの?僕にはそんな未来がまだ見えないけど。まぁ、そんな個人的なトラブルは置いといて、さっき言ったピーター・ブルックスの事なんだけど、彼「偽りの災禍」をメリダダンジョンで使おうとしてるから、監督宜しくね?」
「はっ?」
「いやねいやね、ランドール共和国の大統領府でチラッと彼を見た時、どこかで見たダンジョンの映像だなって、そん時はハッキリとは気付かなかった訳よ。んで、しっかりと思いだしたら、そうだ、あの深い森ばかりの厄介な地形は昔俺が第一保安課にいた時に散々痛い目にあった、メリダダンジョンだ!ってなって、これはダンジョン攻略課の担当者と保安部に伝えなきゃってなった訳よ。両方ともちゃんと顔見知りがいるから、後はお任せだなって」
「はぁ……。タナカさん、らしいですよ」
「困りましたね。聞いてしまったら、対応しなくてはいけなくなる。エナミ様は本当にトラブル体質なんでしょうな」
シレッとカウンターの反対隣に座るタナカは深いため息をついた。
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