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ダンジョン攻略アドバイザーは今日も呟く。  作者: 煙と炎
第二章 相談窓口は時間外も働く
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第二十ニ話 龍槍のヤミール 4 

 聖カムルジア公国との戦争の前線から帰ってきたその日に、軍本部で思いがけずアデルとエンリケの二人に会えた後、ヤミールは落ち着かない日々を過ごしていた。


 何せ久方ぶりの戦争で、最前線で大活躍して「龍槍」の二つ名がついた英雄の首都帰還である。帰還した最初のうちは軍本部も戦線状況を気にして国内向けには大々的な発表は避けていたが、聖カムルジア公国の前線部隊がいよいよ後退するに至って、英雄帰還をセンセーショナルに報道するように新聞各社に斡旋した。


 この時にはランドール共和国の軍参謀部は一度首都トールタイプからわざわざヤミール率いる一個大隊を何も問題が起きてもいない所に遠征させ、そこから帰還する絵を報道関係者に撮影させるという手の込みようであった。


 こうして名実ともに「龍槍のヤミール」という名の英雄のプロパガンダが進行し、彼は首都トールタイプにいる間は行きつく暇もなく軍の広報活動に、そして前線に出ている間は掃討処理という全く二つの顔を強いられることとなる。


 ただしそんな中にあってもヤミールは増長も誤解もすることなく、淡々とそれぞれの活動をこなしていた。これはひとえにアデル将軍とエンリケ副将軍による教育の賜物とも言えるが、むしろ彼らの日々の仕事を見るにつけ、自分には政は向いていない事が身に染みて分かっていた為に冷静でいられた面が強い。


 彼は日々の雑事(あくまでもヤミール視点)を片付けた後は、自身を鍛えるために槍を持たない日は無く、その慢心とは無縁の姿を見て、ヤミールの騎馬隊の部下達は彼への忠誠心を厚くしていた。


 そうこうしていって、ランドール共和国と聖カムルジア公国の戦端が開かれてから、4年以上の月日が経ち、ようやく終戦協定が結ばれる運びとなった。


 この終戦協定が結ばれた場所は、最初にヤミールが一個小隊を率いて聖カムルジア公国の斥候部隊を見つけ捕縛した、あの国境沿いが見える緩衝地域で行われた。


 実際の立ち合いの場には、ランドール共和国の方は警護としてヤミール率いる一個小隊が付き、交渉にはルーガード議長はじめ、アデル将軍も参加するなど、お歴々の方々が出てきていた。


 一方の聖カムルジア公国の方も正教会教皇は参加しなかったものの、大公をはじめとして、ランドール共和国に負けないだけの面子を揃えて参加していた。


 この時の終戦協定の交渉は非常にスムーズに行き、今後の聖カムルジア公国の補償に関しても、あくまでも偶発的に小競り合いが起きたことが切っ掛けであり、お互いの領土侵犯なども実際は起きず、参加した将校および将兵達を合計二割以上損耗するという大打撃を受けた聖カムルジア公国と比べ、ランドール共和国の兵の損失が一割にも満たなかった為、経済的な補償のみで纏まった。


 当然交渉の場には警護としてヤミールも出入り口付近にいたのだが、聖カムルジア公国の代表団の中には彼の顔を見るだけで顔を引きつらせたり、汗をかいたり、急に席を外す者がおり、ランドール共和国のプロパガンダは非常に成功していると言えた。


 その後、交渉も終わり細やかながら両国の和解を示す立食パーティーの席で、トラブルが起きる。警護に付いていた筈のヤミールが急遽パーティーの参加者である歪んだ笑顔を浮かべたルーガード議長に呼ばれ、その場である提案をされた。


「は?演舞ですか?」

「そうだ。今回はヤミール君、君のお陰でここまで終戦協定交渉がスムーズにいったのだ。このパーティーが和やかに進行できたのも、同じことだ。そのフィナーレを飾る意味でも、この場で舞ってくれないかね?」

「しかし、私の槍捌きはあくまでも実戦のもの。この場に列席されている皆様にお見せするには不十分ではないでしょうか?」

「そんなことは無い。ぜひ君の演舞が見たいと向こうの大公閣下もご所望でね。よろしく頼むよ。それとも何か気に病む事でもあるのかね?」

「ハッ!!そのような事は一つもありません」

「では、頼んだよ」

「ご用命とあれば喜んで!!」


 ルーガード議長の歪んだ笑顔の瞳の奥に見える闇の深さに気付かぬまま、部下に自身の龍槍を持ってこさせ、用意を始めるヤミール。そしてあっという間に舞台が整えられ、議長の声掛けで演舞が始まる。


「それでは両国の融和を図るこの場に相応しい出し物を、我が国を代表して「龍槍」のヤミール君にやってもらいましょう」


 ヤミールが舞台に立つと、他の参加者と歓談していたアデルはギョッとする。全くこの流れについては知らされていなかったからだ。ルーガード議長のゆがんだ笑みが深くなるのを見た彼は、嫌な予感が自分の中で増していき、頭の中でガンガンと警告音が鳴り響いているようだった。すぐにヤミールの元に駆け寄ると彼はもう舞台に上がる直前だった


「ヤミール、舞台に立つのを止めろ!!何か怪しい匂いがプンプンする」

「アデル将軍、ルーガード議長と大公閣下の両国の代表の方々のご要望ですから、私には止める事は無理です」

「しかし!!」

「それに大丈夫ですよ。この場で俺を傷つけられる人間なんて将軍以外いませんから。それに誰かが何かをしようと俺が対応しますから。さっと舞って、さっと終えてきますから。そこで見ていてください」


 舞台に立ち、さっそく自慢の龍槍を用いて演舞を始めるヤミール。その舞は本来は戦場でのみ披露される人を死に至らしめるだけの残虐なものであった筈だが、その動き自体は長年の修練により、非常に流麗で洗練されており、見る者全員の心をとらえて離さなかった。


 しかしその事が仇となる。演舞も終盤に差し掛かり、いよいよ終幕という段階。そしてその場で同じように見ていた大公に一人の男がナイフを持ち、飛びかかろうとする。警護主任であるヤミールが舞っていた為、一歩警護の対応が遅れる。


 今まさに大公に男の凶刃が届かんとする、その瞬間。男をヤミールの龍槍が真っ二つにする。男の血飛沫で服を濡らしながらも、聖カムルジア公国の大公は顔色一つ変えずにヤミールに感謝する。


「素晴らしい腕前だ。さすが我が国の精鋭を追いやっただけの事はある」 

「ありがたきお言葉ですが、服を汚してしまい申し訳ありません」

「命には変えられん。まだ続きがあるんだろう?存分に舞い給え」

「ハッ!!」


 一瞬の交錯の後、拍手喝采の中、舞台に戻り、舞い切るヤミールを歪んだ笑顔で見つめるルーガード議長であった。








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