第二十話 エナミは女神官と話す 2
ジュリアーナとのメリダダンジョン十五階のフロアボス、オークマスターの攻略方法の確認が終わると、話が最近の聖カムルジア公国の話になっていく。
「ヒメネス様、私に聖カムルジア公国について何が訊きたいんですか?」
「聖カムルジア公国については貴方より私の方が詳しいと思うの。ただ、もし「聖なる夜の灯り」の効果が無くなったら、ダンジョンがどうなるかを訊きたいのよ」
「あぁ、ヒメネス様はダンジョンブレイクについてお訊きしたいと?」
「そうですわね。その辺りの事はこちらの司祭様に訊いても知らないですし、ましてや公国の上層部の方々に訊いても答えてくれませんから」
「分かりました。ではダンジョンブレイクについて解説させていただきますね。ただし、この国で起きた事象だけですから、そちらのダンジョン「静かなる悪夢」で起きるか、または起きたかについては分かりませんが」
「ありがとう。でも良いのですか?」
「何がですか?」
「ダンジョンブレイクについてお話されるという事は、アルミナダンジョン国自体の恥部をお話になる事になるのでしょう。こちらのような公的機関でお話しするのは本来いけない事では?」
「あぁ、そんな事ですか」
エナミは気軽に笑って、目の前で心配そうに眉をひそめるジュリアーナに答える。
「我が国アルミナダンジョン国はダンジョン攻略で食っている国です。当然ダンジョンブレイクについても世界一研究している自負がありますから、自分達の失敗談だろうと公開して良い範囲は当然ヒメネス様の母国より多く、詳しくて当たり前です。それに機密事項は漏らせないようになっていますしね」
「そういうものなのね。では私にも分かる範囲で教えて下さる?」
「そうですね…ヒメネス様、まずそもそも何故ダンジョンブレイクが起こるかご存知ですか?」
「ダンジョン内の瘴気が溜まっていって、ある一定量を超えると起きるって国営冒険者アカデミーで習いましたわ」
「そうですね、基本的にはそれで間違いはないです。一般的には他所の国でも同じ様に教えているでしょうし」
「基本的には間違いはないというと?」
「はい、ここからは少し踏み込んだ話になるのですが、訊かれた際は公開しても良いとしているのでお話します。アルミナダンジョン国ではダンジョンブレイクが起きるのは、もう一つのパターンがあるのです」
「もう一つ?そんな……聞いた事も無いですわ」
「そうでしょうね、あくまでも我が国のダンジョン開発研究所の研究員が確認して、世界の上層部に広めてはいますが、まだまだそこで止めてるでしょうから」
「……そんな話を私みたいな一冒険者にしても良いのかしら?」
「大丈夫でしょう。何せ、ヒメネス様のその新しい神官服は司祭クラスを表すものでしょう?聖カムルジア公国に戻った時には、更に大出世なさっているのでは?」
ジュリアーナはいつも以上に目を見開き、驚きを示す。聖カムルジア公国の神官服のランキングなど、公に知っている者はあくまでも信徒だけしかいないと思っていたからだ。
「……エナミさん、貴方なぜそれを知っているの?」
「まぁ、このダンジョン攻略課には聖カムルジア公国の方々が冒険者としてやってきますからね。特にメリダダンジョンは「聖なる夜の灯り」がある以上、過去担当に私がつく事もよくあったのですよ。それで担当した冒険者の方々に聞く機会があったと言えば、簡単な種明かしになりますかね」
「あぁ、そういう事ですか。それなら納得ですわ。それで、もう一つのパターンってどういうものなのですか?」
「「偽りの災禍」という物を使うパターンですね。これが今、我々が注意すべきダンジョンブレイクの原因になります」
「「偽りの災禍」……」
「そう、今我々が最も警戒し、戦争の道具に成りかねない最悪の合成聖遺物になります。ただ、これは現実的にはまず手に入らないものですので、各国の上層部方々も知っていてもそこまでは気にされていないでしょうね」
「何故手に入らないと?」
「今も言いましたが、合成聖遺物になりますので、3つの聖遺物をしかもそれぞれ異なったダンジョンから手に入れなくてはならないからです。
「3つも?!」
「そうです。しかもそれぞれが四十階以降で無いと手に入らないという、プラチナランクの冒険者が少なくとも3人は必要な難易度と言えばどれだけ困難か分かりますよね?」
「プラチナランク3人……」
「そうです。それだけの冒険者に依頼できるなら、直接国を落とした方が早いと我々なら考えますしね。とにかくコストが見合わないと……」
「エナミさん、どうかしました?」
エナミは一瞬とても冷たい目をしたが、すぐに取り繕いジュリアーナに丁寧な謝罪をする。
「ジュリアーナ申し訳ありませんでした。一瞬気分が悪くなりまして、もう落ち着きましたからご心配無く。まっ、そういう訳で、基本的には瘴気が溜まらない様に定期的にモンスターを討伐していただくのが基本となります」
「ありがとう。よく分かったわ。」
このジュリアーナの対応以降は順調にエナミは仕事をこなし、その日の相談窓口業務はその後は大きなトラブルが起きずに終わり、定時を告げる時計の鐘が鳴ると無意識に上を見上げ、ホッと息をつく。
「終わったぁ……」
「お疲れ様ですぅ、エナミ先輩ぃ」
レラは隣の窓口からこちらを見て、嬉しそうに話しかける。これでエナミがやっと普通の雰囲気で隣にいてくれる様になってくれるかなと思っていたからだ。エナミはそんなレラの気持ちが分かり、軽く頭を掻きながら返事をする。
「悪いな、ちょっと心配かけたな」
「いえいえぇ、いつも助けてもらってますしぃ。それにぃ、この問題は私の問題でもありますからぁ」
嬉しそうにしながらも、軽く握り拳を作るレラ。サーヤから自分がライバル認定された事はあのトラブルを見たら、ある意味しょうがないので、これからも受けて立つだけだと思っていた。
自分のエナミへの気持ちの変化を自然と受け入れているレラはサーヤよりも落ち着いて彼との距離の詰め方を考えていく。そしてエナミは先程ジュリアーナとの会話で抱いた違和感について、静かに考えをまとめていっていた。
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