第十七話 ピーター・ブルックス 4
サーヤの冒険者ランクがシルバーランクからゴールドランクに駆け上がるまでも、ピーター・ブルックスはあの手この手で何とかエナミを探ろうとしていた。
当然父親であるケビンにストーリー家の事は探らないように厳しく言われている為、エナミ個人の事に調査の照準を合わせざるを得ず、日々の彼の仕事ぶりについては調査を進めている。
しかし、彼はザ・お役所であるダンジョン管理事務局の職員である。広報部や外交部の様な外との交流が盛んな部署では無い、冒険者に相談窓口でしか会わない、そんな役所仕事の権化みたいな仕事では探偵等を使った内部調査もすぐに終わった。
当然この様なピーターの動きはダンジョン管理事務局の保安部も把握していたが、存分に泳がしていた。これはケビンに一度警告している事もあるが、警護についてるエナミ自体に大きな問題が無い事はよく分かっていたからだ。
特にエナミが20歳を越えてから頻繁に出歩くようになった、スラム街界隈の居酒屋でも酷く酔ってトラブルを起こす事は無い上に複数の人間が監視する事で、彼に近づき何かを起こそうとする人間も減り、一石二鳥だと考えていた。
そんなこんなでピーターによるエナミの調査は上手く行ってないことから、サーヤに渡す装飾品に盗聴器を付けたりもしていた。兄であるウィリアムと弟のテリーと相談してより彼女に合うと考えた装備品と一緒に渡したら、サーヤは大喜びでダンジョン攻略に向かった。
しかしその後、急に帰ってきた妹が寂し気に「メリダダンジョン攻略にはあまりにも装備が華美だから、以前のもののほうが良いと窓口担当者から指摘されました」と言われその案も上手く行かなかった。
とにかくサーヤがメリダダンジョン攻略に邁進するのに合わせて、ピーターは聖カムルジア公国とランドール共和国での抗争が収束に向けて進みそうになる中での激務もしっかりとこなしながら、エナミが何者であるかを何とか調べようと躍起になっていた。
そうしてサーヤがゴールドランクにもう少しで手が届きそうになる頃、ランドール共和国に配置しているブルックス商会の現地担当者から、一度ランドール共和国ブリストン・ルーガード国務会議議長との面会をしてもらえないかとの知らせが届く。
これに関しては知らせを確認したその足で父親であるケビンに確認しに向かった。執務室の豪奢な椅子に座ったままで、その知らせを見たケビンはデスクの前に立つピーターに確認する。
「ピーター、お前の方で現在のランドール共和国に何か懸念事項があるか?」
「そうですね…。聖カムルジア公国との戦争も結局は国境線沿いの争いだけで大きな被害を公国に与えられて、上手く収束させられそうですし、ナランシェ連邦への一部領土譲渡もあの状況では仕方が無い事かと」
「我がブルックス商会の介入状況は?」
「聖カムルジア公国とランドール共和国との戦争での商いは、非常に上手くやれたと思います。何せ、状況は変わらないまま落ち着いた訳ですから。ただナランシェ連邦の方は、テリーともっと上手くやれた可能性がありますね」
「そうだな、ただあまり欲をかいてもしょうがあるまい。……分かった。ルーガード議長の話が何かは現時点でははっきりとは分からないが、家にとって利益になるなら話くらいは聞いてきなさい。私の介入の必要がありそうな話なら報告を」
「はい、分かりました」
「特にブリストン・ルーガードという御仁には気を付けろよ。あれはランドール共和国に半分飲み込まれてるが、昔と変わらずに怪物であることには間違いない」
「何度かお会いした事がありますが、お父様が言うほどの人物でしょうか?」
「お前にはまだ分からないか……。あれは個人ではなく、国の事しか考えてない。今回の件がそういう話なら、よくよく気を付ける事だな」
「ご忠告ありがとうございます」
一度、話が途切れるも、ケビンは座ったまま動かない。まだ話があるようで、彼がよくやるように話をピーターから振らせる。
「他にも何かありますか?」
「ピーター、エナミ・ストーリーの調査だがまだやっているのであろう」
「…お耳に入ってますか?」
ケビンの鋭い眼光にピーターは一瞬身構えるが、特に後ろ暗い事も無い為、深呼吸して肩の力を抜き報告する。
「お父様、正直な所、彼はストーリー家の事と謎のオリハルコンランク冒険者担当者の話さえ無ければ、ただ優秀な人間という評価で落ち着いてしまいますね。言動にやや一匹狼のきらいはありますが、ダンジョン攻略課の職員として、非常に優秀な実績を上げてるのはハッキリしていますし、サーヤの担当としては何も問題ないかと」
「では何故お前は調査を辞めないんだ?」
「ですから、その2点に近づく要素を探っているんですよ。ストーリー家の話や謎の冒険者の話の断片すら掴めないんですから、彼の日々を追うしかないです。まぁ、こちらは気長にやりますよ」
「フン、ピーターらしいな。気の済むようにやってみなさい。ただし、お前が何に触れてしまっても私には責任は取れないという事だけは忘れるな」
はっきりと強い口調で言われたピーターはただ黙って頷く事しか出来なかった。
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