第十六話 サーヤ・ブルックスの苦悩 2
サーヤは自室のドアを閉め、そのドアに背中を預けながら、目を閉じて一向に収まらない自分の動悸を自覚していた。そして自分が大事に胸の前に持ち、ちょうど目の前に花が咲いている金色のヘリクリサムの花束をついつい見つめてしまう。
「プロポーズ……、結婚……」
先程、テリーに言われた言葉からついつい妄想が広がってしまい、それを打ち消さんと真っ赤な顔をブンブンと音が鳴らんばかりの勢いで横に振り、大きく深呼吸をしてから何とか自分を持ち直す。しかし、完全には冷静さを取り戻せずに今日のエナミの事をついつい思い出す。
サーヤとしては彼を驚かせる意味でも朝一番に行ったのにも関わらず、こちらが逆に驚かされた。勿論向こうも私があんな早く行ったからダンジョン攻略課のドアを開けた時は驚いてはいた。でもエナミはいつもの着崩した制服ではなく、正装としてちゃんと何処に出しても恥ずかしくない格好で、髪や髭も整え、いつも以上に丁寧な態度で出迎えられてしまった。
初めて自分が出会った時でさえ、当時の課長がいたにも関わらずエナミは普段のだらしない格好と椅子に寄りかかったままの姿勢で傲岸不遜に私と顔を合わせた。
勿論、私がブルックス家の長女であると分かった上での態度であった為に非常に不快でだったのを今でも覚えている。しかし今までと今日の態度を見れば、エナミはキチンと冒険者としての努力と実力を示せば、こうやってちゃんとした対応をしてくれる事も分かった。
サーヤはそうやってジワジワと幸せを噛み締めながら落ち着きを取り戻していき、手に持った金色の花束をどうしようか考え、そして自分の部屋にあるお気に入りの花瓶に花束の装飾を解き、へリクリサムを必要以上に慎重に挿して、はたと気づく。
この花はまるで時が止まったようになっていると。エナミから初めて貰った自分が見た事も無い金色のヘリクリサムの花束のプレゼントがあまりにも嬉しかった為に(花言葉もサイテカ連合国の風習もエナミは知らなかったが)、貰ってからもよく確認しなかったがダンジョン管理事務局からこの屋敷まで、このヘリクリサムの花はまるで花びらや葉が散るような様子や、枝が折れたり、茎が弱ったりしそうな感じも無かった。
今こうして花瓶に挿しても、まるで花の色も香りも、瑞々しささえも変わらない事に非常に違和感を覚えた。
「どうしてだろう?この金色のヘリクリサムは特に管理が難しい弱い花だってテリーお兄様も言ってたのに……「アイテム鑑定」」
ついつい普段ならダンジョンと修練場以外ではなるべく使わないように気をつけている自身のスキルを発動して、「アイテム鑑定」の魔法を使ってしまう。
ちなみにこの国でのスキル使用に関しては冒険者が一般人に危害を加えない限りはとやかく言われないが、冒険者のイメージアップの為にも使用には注意するようにダンジョン管理事務局より各冒険者に通達が出ている。
当然この間の戦略的魔法「神々の怒り」の使用に関しては、実質的未使用という形で保安部部長のタナカより報告がダンジョン管理事務局に行っている。
魔法使用後、すぐに目の前に花の状態についてスクリーンボードのように提示される。そこにはエナミからのプレゼントの異常性の一端が記載されていた。
鑑定結果
金色のヘリクリサム
(サイテカ連合国ワラジヤン産)
この花には「状態保存」の魔法がかかっている。効果は残り1年。
「えっ?1年の状態保存?そんな事って…」
サーヤは目を疑う。この世界にある魔法にも当然こういう時間をコントロールするものはある。しかし、あくまでも2、3日期間を延長する程度のもので、こんな長期に渡っても効果が続くようなものはない。
それにこんなに長期間魔法効果を維持させる為には、その魔法に対しての理解力と魔力量が共に膨大に必要となる。この魔法の効果一つとっても戦略的魔法の使用に必要なだけの魔力量と言えば、その膨大さが分かる。
そんな膨大な魔力量をわざわざ花を咲かせ続ける為だけに使うなんて、何処ぞの魔法使いか、冒険者なのだろうと普通なら考えさせられる。
しかしサーヤからすればそんな現実的な問題よりも、エナミが眼の前の貴重な花を1年も保たせるように理解も及ばない魔法を使ってくれてまで、自分にプレゼントをしてくれてたのかという事が分かったほうがずっと優先順位が高かった。
「エナミさん、私の為にわざわざそんな魔法まで使って……」
サーヤはベッドに身体を投げ出すも、花瓶に活けたヘリクリサムの花をずっと見てしまう。自分の髪色と同じ色の花で、尚且つ貴重な花をこんな風にずっと見ていられるようにしてくれるなんて、なんて嬉しいプレゼントなんだろうとまだまだ自分の中での幸せが止まらない状態であった。
サーヤからの約束は次の間章になってからになります。宜しくお願いします。
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