第十五話 サーヤ・ブルックスの苦悩 1
サーヤはエナミからご褒美の金色のヘリクリサムの花束を受け取り、今にも物理的に飛んでいってしまいそうなほど、めちゃくちゃ上機嫌でダンジョン管理事務局を出てきていた。
既に週明け初日にアンデッドキングドラゴンの討伐証明部位である角は第一資材課に提出し、大喜びで向こうの受付には受け取ってもらい鑑定もすぐにしてもらい、史上最速最年少でのメリダダンジョン五十階攻略の証明がダンジョン管理事務局からなされていた。
その為、サーヤからしたらあくまでも今日は五十階以降のメリダダンジョンの攻略情報の確認とか、モンスターの討伐方法など野暮な事は一切する気はなく、エナミに褒めてもらって、彼の言うご褒美を受け取るだけが目的であった。
隣の相談窓口に座っていた泥棒ネコについては一応反射的に威嚇はしたが、それ自体はサーヤに取っては非常に些細な事で、目的の中にも入れてなかったし、そもそも考えてもいなかった。何故なら前回の相談窓口で自分に対してエナミが耳元で囁いてくれた、ご褒美をくれるという言葉が頭から離れずにあったからだ。
サーヤはそんな自分のエナミ(あくまでもサーヤ視点)がたまたま仕事への慰労の為にエスコートしていた同僚を粛清するような瑕疵で、今日の自分の幸せの時間を台無しにするほど自分は愚かでも寛容さがない人間でも無いと彼女自身は考えており、彼からのご褒美への期待のあまり朝一番からダンジョン攻略課にやってきていた為、冒険者相談窓口では修羅場らしい修羅場を迎えずに終わったのだ。
そしてその荘厳なシチュエーションと、エナミの自分の為だけに正装をしてくれた誠意と、彼からのご褒美という言葉に見合うだけのプレゼントは得られたとサーヤは考えていた。(あくまでもサーヤ視点)
サーヤはブルックス家の長女、そして今やプラチナランクの冒険者という立場上、当然ここまでに色々な贈り物を貰ってはきていたがエナミの言うように欲しい物は大抵家族から贈られており、今回のような、国を越えて希少かつ期限があり、しかも彼女が思いもつかないものをわざわざ贈ってもらうような事は無かった。
ダンジョン管理事務局からブルックス家の屋敷までそのままの上機嫌でお昼前に帰ってきたサーヤを、今日はいつもより随分早いお帰りだと、門番は訝しげに一瞬思いながらも彼女のあまりの上機嫌ぶりとその手にした黄金のヘリクリサムの花束を見て、十二分に理解したようで笑顔で出迎え、門を開けた。
彼女は玄関の扉を開ける執事にはヘリクリサムの花束は渡さず、そのまま部屋へと向かう。その部屋に向かう廊下でバッタリと三番目の兄であるテリーと出会う。
「まぁ、テリーお兄様、出張でお出かけとは聞いてましたけど、今日お戻りになられたんですの?」
「やぁ、サーヤ。さっきサイテカからの出張から帰ってきてね。お父様に報告をしにこれから執務室に行って、終わったら一休みする所さ」
「そうですか、お声掛けして申し訳ありません。ごゆるりとお仕事の疲れを癒やして下さい」
「ありがとう、サーヤ。お前のその言葉で俺はだいぶ癒やされたよ。ところでその大事そうに抱いている花束は……」
「はい、今日冒険者相談窓口の担当者のエナミさんから五十階攻略のお祝いで貰いましたの。金色のヘリクリサムはこちらでは中々手に入らない貴重なものと伺いました」
訝しげに花束を見ていたテリーに、喜び一杯で伝えるサーヤ。テリーは眉間にシワを寄せて彼女に尋ねる。
「……サーヤ、彼は、いやエナミ君は中々手に入らないって言ってただけかい?どうやって手に入れたかなんて話は全く無かった?」
「はい、確か少し苦労したって言ってましたけれど。装飾品や装備品だとブルックス家の皆さんにはとても敵わないしって。でも私にはこの花束がそこら辺の装備品や装飾品よりも高価なものに感じてますわ」
「……そうだね、サーヤは目がいい」
「えっ、テリーお兄様。それはどういう意味ですか?」
「サーヤ、その花束はどれくらいの価値があると思う?」
「そうですわね、普通の胡蝶蘭の鉢植えくらいかしら?」
一般的にアルミナダンジョン国では「始まりの七家」の商家達のお陰で、日用品には困らない。国自体がオアシスの中にある為、三百年の歴史の中でこういった嗜好品を取り扱う商人達も増えていた為、そういった所から取り寄せたとサーヤは簡単に考えていた。テリーは首を何度か横に振り、ため息をつく。
「サーヤ、その金色のヘリクリサムは群生地として知られているサイテカ連合国のワラジヤンでも手に入りにくいものなんだ。何故なら高地でかつ、人の入りにくい渓谷でしか咲かないと言われているからね」
「そんな…」
「それに何とか手に入れても、枯らさないように管理するのが非常に難しいと言われている。その土地の土と出来れば水も合わせて栽培しなくては一週間も持たないだろうとね」
「そうしたらお値段なんて」
「そう、その花束でも本当にブルックス家がサーヤに渡している装備品と同等位の値段がするものさ」
「まぁ……」
サーヤは嬉しそうにより繊細にヘリクリサムの花束を抱き、首を傾げる。
「……一体どうやってエナミさんは手に入れたのかしら?」
「僕にはその手段が分からない。サイテカからアルミナ迄の陸路は全て知っているけど、ここに運ぶまではどの道を使っても一週間以上かかる。だからその花束のヘリクリサムがそんなに元気に咲き誇っているのは僕には訳が分からない。きっと、草花専門の商家なら分かるんだろうけどね。けどその金色のヘリクリサムの花束の持つ意味なら僕は知っている」
「どういう事ですか?」
「……サイテカ連合国ではその花はプロポーズの時か、結婚式に使うのさ」
「えっ!!」
「だからこそ、希少かつ値段も上がるんだろうけどね。エナミ君がもし希少性と価値だけでなく、そういう文化も分かってて、それをこうやって君に渡したという事は……」
「テリーお兄様!!失礼しますわ!!」
「サーヤ!!廊下を走るのははしたないよ」
苦笑いしながら、テリーは真っ赤な顔をした妹が横を駆け抜け、彼女の部屋に入っていくのを見送った。
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