第十四話 エナミは約束を果たす 2
サーヤはいつものように何処ぞの令嬢のように鼻にかけた笑顔で薄手のワンピースを纏い、自信満々の足取りでエナミの待つ冒険者相談窓口へと向かってきた。
ダンジョン攻略課の入り口から窓口までの距離は僅か10m。エナミとレラとの親公認のデートを見られてしまった(あくまでもレラ視点)あの週末を経て、いつもの午後一番の朗らかに元気な雰囲気は窓口には無く、わざわざ朝一番にきたサーヤにダンジョン攻略課全体が戦々恐々とした気配を辺りに漂わせていた。
サーヤはエナミの冒険者相談窓口の席に着く前に、隣の窓口でなるべくその存在と気配を消そうと小さくなっていたレラにわざわざ視線をやり、普段はしない挨拶をするために声をかける。
「あら、レラじゃない?5日ぶりね。元気そうで何よりだわ。この間はごめんなさいね、ちょっとお互いに誤解が生じたみたい。正式にブルックス家の長女として謝らせてもらうわね」
「いえいえ、サーヤ様。急にあんな状況をご覧になってしまったら、誰でもそれまでの事など考えずに、勘違いしてしまいます。こちらにも落ち度がありましたので、お気になさらないで下さい」
「あなたがそう言うなら、私は構わないわ。その堂々とした態度は、泥棒ネコとは違うみたいだし」
「おかしいですね、どこをどう見ても私は猫でも何でもありません。ただ、エナミ先輩の一番の後輩の冒険者相談窓口ってだけです」
「……レラ、あなたとは気が合いそうね。今度は二人でお茶でもしません事?」
「サーヤ様、大変申し訳ありません。ダンジョン管理事務局の規則で、別担当の冒険者の方とは例え同性であってもプライベートでは一切お会いする事が出来ません。プラチナランクの冒険者の方でしたら、当然お分かりいただいていると思っておりましたが、誤解でしたでしょうか?」
「当然分かってるわ、あなたを試しただけよ。新米冒険者相談窓口さん、フフフ」
「そうですよね、わざわざのご指摘ありがとうございます。まだまだエナミ先輩に頼りきりの若輩ですから。フフフ」
レラにせよ、サーヤにせよ、お互いに口と声では笑いながら、目は全く笑っていない。丁寧に話す口ぶりの中に、互いへの敵意を存分に織り交ぜていた二人の会話に、エナミは椅子から飛び上がってその場から逃げるのを必死に我慢する為に、いつもは背中を斜めに預けている固い木製の椅子に背中を預けず、姿勢良く座り、ひじ掛けを握りしめ、背中に冷や汗を流しながら、胃がキリキリしている事を自覚していた。
ちなみにこの時点でダナンはスキルで自分が張りうる最大限の結界を相談窓口に張っていた。ミズキに関しては、サーヤが早々にダンジョン管理事務局の中におり、第一資材課ではなく、ダンジョン攻略課に向かってきていたのを自身の能力で察知していたで、ダナンの朝礼後すぐに用事を作り、冒険者求人課に逃げていた。
ようやく作り笑顔の冷戦とも呼べるレラとサーヤの二人のやり取りが終わり、その仮面の様な笑顔のまま、エナミの冒険者相談窓口の席にサーヤは座る。彼女は座ってから初めてちゃんとエナミの装いを確認したようで、彼がいつもとは違い、ちゃんとした格好で姿勢良く座っている事に機嫌を良くする。
「サーヤ様、今日はいつもと比べて随分とお早い時間の相談ですが、メリダダンジョン史上最年少の50階到達、およびフロアボスであるアンデッドキングドラゴンの討伐おめでとうございます」
「ありがとう、エナミさん。いち早くちゃんとした手続きで、貴方に伝えたかったの。貴方の方こそ今日はどうしたの?そんなちゃんとした格好して、何か重大なお仕事でもあって?」
ここが正念場だと、エナミは本来は午後一番に使おうとシュミレーションしていた流れを踏襲する。
「いえ、今日はこの間の互いに不都合な出会いとは違い、間違いなくサーヤ様のお祝いですからね。それなりのおもてなしをするのもサーヤ様の窓口担当者の務めと思って、こうして正装でお持ちしておりました」
「あら、本当?そう言ってもらえたら、非常に嬉しいわ。こんなにも貴方から私に対してちゃんとした扱いを受けられるとも思ってなかったし」
「そんなそんな、今回のメリダダンジョン五十階の最年少踏破は私からしたらサーヤ様に対して、いつもの無礼な態度を改める良い機会でしたから」
「ふ〜ん、分かったなら良いのよ」
いつもの慇懃無礼な態度では無く、ちゃんと丁寧な対応をしてもらっている事を実感したサーヤは心の中では非常に喜びながらも、今日のメインテーマを達成出来てない事を思い出し、表情を緩めすぎないように気をつけて切り出す。
「それで?ちゃんと用意してきたんでしょうね、エナミさん。貴方との賭けに勝った私へのご褒美とやらを?」
ついにきた!!っと思いながらもエナミは全く表情は変えず、落ち着きはらった顔と声で答える。
「はい、気に入っていただけるかは分かりませんが、私なりに今回の偉業を達成した最大の敬意を示させていただきます」
エナミは自身のスキルで亜空間から何かを取り出した。
それは金色のヘリクリサムの花束。
「これは……ヘリクリサムね、とても綺麗だわ。しかも金色なんて見た事が無い。この国では赤かオレンジしか無いんでは?」
「どうしても装備や装飾品ですと、ブルックス家の方々が用意するものに質も価値も落ちますからね。それなら思い切って全く違うものを、と思いまして、サーヤ様の髪の色も思い、東のサイテカ連合国の奥地でしか咲かない、こちらのヘリクリサムを用意させていただきました」
「そんなわざわざ。…ありがとう、大事にするわ」
「そう言ってもらえるとせっかく用意したかいがあります。なかなかこの国では手に入らない物なので、ちょっと大変でしたからね」
「ふふっ、貴方にそう言わせられたなら最年少でのメリダダンジョン五十階攻略を頑張ったかいがあったわ」
とてもうれしそうにヘリクリサムの花束を抱えるサーヤはそのまま特別な話もせず、お祝いムードで嬉しそうにダンジョン管理事務局から帰っていった。
エナミはサーヤがダンジョン攻略課の入り口を出るまで、頭を下げたまま押し寄せる安堵感に飲み込まれていた。
ちなみにヘリクリサムの花言葉は「いつまでも続く喜び」
この花の花言葉をエナミは知らずとも、ブルックス家のご令嬢は良く知っていた。
ただ、サイテカ連合国ではこの希少な金色のヘリクリサムを結婚のお祝いでも使われる事をこの時はまだ彼も彼女も知らなかった。
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