第十三話 エナミは約束を果たす 1
お待たせしました。
第二章はタイムラインがバラバラですが、今回はちょうどレラとデートしてから5日後のエナミです。よろしくどうぞ。
秋なのに、春雷が直撃しそうになる災厄に出会ってから5日後、エナミはその日、朝から嫌な事しかない上に、午後一のその時間を全く待ちわびてはいなかった。
なにせ朝起きて、すぐに目覚ましを見ると止まっており、慌ててほかの時計を確認するといつもの起床時間の3時間前の早朝。安堵のため息を一つこぼすと、目の前の出窓を黒猫がこちらを見ながら横切った。
一度目が冴えた為に二度寝する気にもなれず、朝の新聞でも読むかと思い、外を歩く必要のある郵便ポストに取りに行く。
薄っすら明るくなる空の下、官舎の自分の郵便ポストに放り込まれている新聞を取り、1面の見出しの「秋なのに突如暗雲立ち込める?急な天変地異にご注意を!!」を見た瞬間に新聞を叩きつける。
「くそ、なんて日だ!!」
エナミの叫びは虚しく響く。この官舎はエリート達が集う中央官舎からは敢えて外れている場所を彼が選んでいた為、カーテン越しに不審人物を見る目で幾人かが眺めていた。
そもそもの話、あの場でサーヤが現れるまで、エナミ自身はレラに対しての後ろめたさを何とかしようとなるべく明るく振舞っていた。しかし、サーヤの突然の出現と彼女の言動で台無しになっていた。
一昨日は少し遅れてきてもレラは健気に働いていたが、昨日までにこちらとしてはまだまだ適切な距離感がつかめていない。正直、週末のデートをレラも彼も楽しんでいたが、その話も自分の忙しさのせいで時間が取れずに全くできていないのだ。普段なら話せる時間である昨日、一昨日のお昼も自身の研修資料作成の仕事の為に、別々に食べていた。
そんな状況で今日の午後、サーヤが史上最速最年少でのメリダダンジョン五十階攻略を伝えに自分の冒険者相談窓口にやってくる。この5日間、エナミの肩にのしかかる正体不明の不安とプレッシャーは、彼に大きなため息をつかせ、朝早い時間の官舎の玄関をゆっくりと勝手に閉めさせる事になった。
そんな朝のトラブルの為に、エナミはいつもよりも数十倍、入念に出勤準備を始めた。この日は彼がダンジョン管理事務局に入局して、最も真面目に準備した日となる。
エナミはボサボサな髪も整え、無精髭も剃り、普段はヨレヨレのネクタイもピシッと首元まで締め、制服もズボンもスキルでパリッとノリがかかった状態にしていた。革靴もピカピカに磨いた状態で官舎を出ていく。
いつもはダンジョン攻略課の朝礼ギリギリに出てくるエナミが、朝礼の1時間も前にダンジョン管理事務局に来てみると、普段とは全く違う姿に見慣れないダンジョン攻略課の職員達はギョッとした眼で呆然と見つめ続ける。
ましてや普段からこの時間に来ては職員達の見本となるべく仕事の準備を進めている課長のダナンからしてみたら、今日がどんな日か分かっていた為に、午後一番には再度ちゃんと結界を張らなければと覚悟を決め直していた。
エナミが普段仕事をしない時間だとしても当然手元には仕事がある為、研修資料の確認を進めていく。今回はダンジョン攻略部の見ならず、広報部、外交部も交えての合同研修である為資料の作成量だけでなく、準備会議の回数も頻回でこうやって一人で集中して準備出来る時間はある意味で有り難かった。
しかしそんな安寧の時間もすぐに終わりを迎える。レラがいつもの時間に出勤して、早くも仕事に没頭していたエナミを見つけ、挨拶をしてきたからだ。
「あれぇ、エナミ先輩ぃ、おはようございますぅ。今日はとっても早いですねぇ。合同研修の準備が忙しいんですかぁ?っというか髪とか格好とかどうしたんですかぁ?」
「あぁ、おはようレラ。そうだね、ちょっとやっておきたかったから、この時間に来たんだ。格好はいつもこうだろ?今日は窓口よろしくな」
「……えっとぉ、だいぶ違うと思いますけどぉ。普段からこうならずっとカッコイイのに……」
「ん、何か言ったか?」
「いえいえぇ、何でもありません!!独り言ですぅ。こちらこそぉ、ご指導よろしくお願いしますぅ!!」
レラは頭を勢いよく下げて自分のデスクに戻っていく。表面上は非常に朗らかにやり取りを交わす二人だったが、微妙な緊張感をエナミは覚えていた。
エナミ自身の頭髪や格好がちゃんとしている事自体が、普段の彼と違いすぎて逆に周りから浮いているのが自分でも分かっていたからだ。少しこの間の事に過敏になりすぎて、緊張し過ぎたなと心の中で反省し、いつもの適当な感じを出せるようにと改めて考えていた。
実際にそんな事を考えている時点でおかしいのだが、そんな事にも気付けないくらいに今日のエナミはパニックに陥り、落ち着きを取り戻せてはいなかった。
無事にダナン課長による短めの訓示や連絡事項の確認など行なわれた朝礼を終えて冒険者相談窓口につくエナミは、やっと一息落ち着いた。
レラが朝一のダンジョン攻略課の入り口のドアが開くようにシャッターを開けるボタンを押すのを、隣の窓口の固い木製の椅子にゆ斜めに寄りかかったまま眺めていた。
そして朝一のダンジョン攻略課の来客を告げる入り口のドアについたベルが鳴り響く。
勢いよく開いたドアから入ってきたのは、何故かサーヤだった。
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